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連載「大人の発達障害と暮らし・お金」第3回(全13回) 第1回から読む →

「今度の休みこそ片付けよう」と意気込んで始めたのに、アルバムや読みかけの本を見つけて手が止まり、気づけば夕方。部屋は片付けるどころか、引き出しの中身が床に広がってかえって散らかっている——。

あるいは、旅行の申し込みでパスポートが必要になったのに、どこにしまったか思い出せない。「大事なものだから」とわざわざ特別な場所にしまったはずなのに、その場所を忘れてしまい、家中をひっくり返す羽目になる——。

こうした「片付けられない」悩みは、大人の発達障害——注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある方の相談で、とてもよく出てくるテーマです。この記事では、なぜ片付けが苦手になるのか、昔から知られている工夫と2026年のいまならではのやり方、そして受診を考える目安について解説します。

なぜ片付けられないのか——「だらしなさ」ではなく特性の問題

片付けは、実はかなり高度な作業です。空間のどこに何を置くかを決め、使うたびに元へ戻し、物が増えたら手放す——複数の判断と習慣を組み合わせて、はじめて部屋は片付いた状態を保てます。多くの人はこの原則を感覚的に身につけますが、発達障害の特性がある方では、それが難しくなる背景がいくつか指摘されています。

使い終わった瞬間、物の存在が頭から消える。 ADHDの特性がある方は、新しい刺激に注意が移りやすく、一度に覚えていられる情報量も限られがちです。何かを使い終わって別のことに興味が移った瞬間、手に持っていた物のことが頭から抜け、無意識に「意図しない場所」へ置いてしまいます。気をつけてきちんと収納した場合でも、しまった場所自体を忘れてしまうことがあります。

片付けの「意味」がピンとこない。 ASDの特性がある方では、多少散らかっていても物の位置を覚えていられるため、そもそも片付ける必要性を感じにくいことがあります。また、片付けができている場合でも「この物はこの場所」という1対1の対応で覚えているため、引越しなどで収納が変わると途端に片付けられなくなることがあります。

抽象的なコツを自分の生活に翻訳できない。 片付けの本には「必要なものを取り出しやすく置きましょう」と書いてありますが、「必要」「取り出しやすい」が具体的に何を指すのかは書いてありません。この抽象的な表現を自分の部屋の具体的な行動に置き換える作業が、とくにASDの特性がある方には難しく、「読んだけれど実行できない」が起こります。

つまり片付けられないのは、だらしなさや育ちの問題というより、注意の向き方と、空間・物の捉え方という情報処理のスタイルの問題です。だからこそ、「今度こそ頑張る」という精神論ではなく、特性に合わせた仕組みづくりが基本方針になります。

昔からの知恵——物に「住所」を与える

発達障害の暮らしの工夫の本で古くから勧められてきた方法は、大きく4つに整理できます。

その1: 使い終わる場所の近くに、しまう場所を作る。 散らかっている部屋をよく見ると、ソファなど「座ってくつろぐ場所」の周りに物が半円状にたまっていることが多いものです。くつろいで気が緩んだ瞬間に物を手放すため、そこに物が集まるのです。これは裏を返せば、その場所こそが自分にとっての「物の定位置」に向いているということ。使い終わる場所のすぐ近くに収納棚や箱を置けば、「立ち上がってしまいに行く」という億劫な動作を挟まずに片付けられます。

その2: 一時置きの箱を1つだけ作る。 中身を見ていない郵便物、もう一度着たい服、読みかけの本——「本来の場所とは違うところに置いておきたい物」は必ず出てきます。それらの受け皿として一時置きの箱を用意すると、床やテーブルへの散乱を防げます。ただしルールは2つ。箱は1か所に1つだけにすること(増やすとどこに何があるかわからなくなります)、そして定期的に中を空にすること。あくまで「仮の場所」です。

その3: 一緒に使うもの同士でまとめる。 パスポートならスーツケースと一緒に「海外旅行セット」、懐中電灯なら電池と一緒に——使う場面を想像してセットで収納しておくと、探し物が一気に減ります。物を「大事なものだから」と単体で特別な場所にしまうと、かえって行方不明になりがちです。

その4: 中身が見える収納にする。 ふたや扉を開けないと中が見えない収納は、片付けが苦手な人にとって鬼門です。「とりあえず入れておこう」と物が押し込まれ、地層のように堆積して、何が入っているかわからなくなります。透明・半透明のかごや袋を使う、可能なら収納の扉を外してしまう、といった工夫で「見るだけで中身がわかる」状態にすると、出し入れのハードルが大きく下がります。

置き場所を決めるときの物差しは、「必要かどうか」という曖昧な感情ではなく、使用頻度という測れる基準がおすすめです。毎日使う物はひざから目の高さの一番使いやすい場所へ、季節ごとの物はふた付きの収納へラベルを貼って、というように、使う頻度で置き場所の「格」を決めていきます。捨てるかどうか迷う物は、同じ種類の物を家中から集めて並べて比較すると、「結局これしか使っていない」と判断基準がはっきりしてきます。

2026年のやり方——写真とアプリで「見える化」する

上の原理は、いまのスマホや家電を使うともっと手軽に実現できます。

  • 収納の中身をスマホで撮っておく。 ふた付きの収納や押し入れの中身は、しまうときにスマホで撮影してアルバムにまとめておくと、「どこに入れたっけ?」を写真検索で解決できます。スマホの写真アプリは「書類」「衣類」などの被写体検索も年々賢くなっています。
  • 紛失防止タグを付ける。 鍵や財布、パスポートケースなど「なくすと致命的な物」には、AirTagなどの紛失防止タグを付けてしまうのが確実です。置き場所の習慣化に失敗しても、スマホから鳴らして探せます。
  • フリマアプリ・宅配買取で「捨てる」の心理的ハードルを下げる。 「もったいなくて捨てられない」タイプの方は、フリマアプリや宅配買取を使うと「誰かが使ってくれる」という納得感とともに手放せます。段ボールに詰めて送るだけの宅配買取は、出品作業が続かない方にも向いています。
  • ロボット掃除機を「片付けの締切」にする。 ロボット掃除機は床に物があると動けません。「毎週金曜の朝に自動で起動する」と設定しておくと、木曜の夜に床の物を片付ける締切が自動的に生まれます。

AIに手伝ってもらう

⚠️ メールや書類・レシート・部屋の写真をAIに渡すときは、氏名・会社名・取引先名・金額など、特定につながる部分を「A社」「上司」などに置き換えてから渡してください。

片付けの大きな壁である「どこから手をつければいいかわからない」「置き場所の決め方がわからない」は、ChatGPTやClaudeなどの対話型AIに相談しやすいテーマです。抽象的な片付けのコツを、自分の部屋に合わせた具体的な手順に「翻訳」してもらえます。

散らかった部屋を前に固まってしまうときは、部屋の写真を撮って渡し、最初の一歩を決めてもらいます。写っている郵便物や表札など個人が特定できるものは撮らないようにしてください。

📷 写真で渡す
この部屋の写真を見て、片付けの手順を作ってください。条件: (1)15分で終わる小さなステップに分けて、やる順番に番号を付ける、(2)最初のステップは「ごみ袋を1枚持ってくる」レベルまで簡単にする、(3)「あとで判断する物」を入れる一時置きの箱を1つ決めて、迷った物はすべてそこに入れる方針にする、(4)今日やるのは最初の3ステップまでと宣言してください。私は片付けの途中で別の物に気を取られやすいので、「思い出の品は開かずに箱へ」のような注意も添えてください。

置き場所が決められないときは、よく使う物のリストを渡して「住所」を提案してもらいます。

⌨️ 貼り付けて渡す
よく行方不明になる物のリストと、私の生活動線を書きます。それぞれの物の「置き場所(住所)」を提案してください。条件: (1)「使い終わる場所のすぐ近く」に置く、(2)一緒に使う物同士はセットにする、(3)ふたや扉のない見える収納を優先する、(4)提案は「物→置き場所→理由」の表にまとめる。
【よくなくす物】(例: 鍵、爪切り、充電ケーブル、印鑑…)
【家でよくいる場所と、そこでやること】(例: ソファでスマホ、食卓で郵便物を開ける…)

捨てるかどうか迷う物は、迷いポイントを話すだけでも判断の整理を手伝ってくれます。

🎤 音声で渡す
今から、捨てるかどうか迷っている物について思いつくまま話します。話し終わったら、物ごとに「物としての評価(使っているか・状態)」と「私の感情(もったいない・思い出など)」を分けて表に整理し、「使う」「処分(フリマ・買取含む)」「半年保留」の3択でおすすめを付けてください。決めるのは私なので、無理に捨てさせようとしないでください。

AIはあくまで判断の補助です。捨てる・残すの最終判断は必ず自分で行い、あとで後悔しそうな物は「半年保留」の箱に逃がしてください。

当院での実際/受診の目安

片付けは工夫と道具でかなり補えます。ただ、いろいろ試しても部屋の状態が生活に支障をきたし続けている、探し物のせいで遅刻や紛失が繰り返される、家族との衝突や強い自己嫌悪・気分の落ち込みが出てきている——そんなふうに生活や仕事への支障が続くときは、工夫だけで抱え込まず、精神科の受診をご検討ください。片付けられない背景にADHDなどの特性があるのか、うつ状態など別の要因が重なっているのか(気力が出ずに部屋が荒れるのは、うつ状態のサインのこともあります)によって、対応の考え方が変わります。

当院の受診について、よくご質問いただく点をご案内します。

  • ご予約はデジスマのWEB予約からお取りいただけます。初診の方には受診前にWEB問診にお答えいただいており、初診の所要時間は30分程度が目安です。
  • 通院の頻度は、基本を2週間に一度としています。困りごとの経過を確認しながら、暮らしの工夫や治療について一緒に考えていきます。

緊急のとき——自分を傷つけてしまいそうなほど追い詰まっているときは、様子を見ずに救急(119)への連絡や、かかりつけの医療機関への相談を行ってください。

まとめ

  • 片付けられないのはだらしなさではなく、注意の向き方や空間・物の捉え方という特性が背景にあることが多い
  • 基本は「使い終わる場所の近くに置き場所を作る」「一時置きの箱は1つだけ」「一緒に使う物はセットに」「中身が見える収納に」
  • 置き場所は「必要かどうか」ではなく使用頻度で決めると迷いにくい
  • 収納の写真記録・紛失防止タグ・フリマアプリ・対話型AIなど、いまの道具で片付けの弱点は補える
  • 工夫しても支障が続くときは、一人で抱え込まず受診を

関連記事: 大人の発達障害「生活の困りごと」解決ガイド(総目次)

参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 『発達障害の人が上手に暮らすための本』(村上由美、翔泳社)

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

よくある質問

片付けられないのは性格やだらしなさのせいではないのですか?

片付けの苦手さは誰にでもありますが、注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある方では、「置き場所を決めて、使ったら戻す」という原則を感覚的に身につけにくい背景があると考えられています。目の前の刺激に注意が移りやすい、抽象的な片付けのコツを自分の生活に翻訳しにくいといった情報処理のスタイルの問題なので、根性ではなく仕組みで補うほうが現実的です。

片付けの本を読んでも実行できません。どうしたらよいですか?

片付けの本の多くは「必要なものを取り出しやすく」のような抽象的な表現で書かれており、それを自分の部屋の具体的な行動に置き換える作業が実は難しいポイントです。「よく使う=週1回以上使う」「使いやすい場所=ひざから目の高さ」のように具体的な言葉に置き換えること、そして部屋全体ではなくかばんやポーチなど小さな場所から始めることをおすすめします。

家族に「片付けなさい」と言われ続けてつらいです。

叱責が続くと自己嫌悪が強まり、かえって片付けに手がつかなくなる悪循環に陥りがちです。本人の意思の問題ではなく特性と仕組みの問題であることを家族と共有し、「一時置きの箱を置く」「収納の扉を外す」など環境側を変える工夫を一緒に試すほうが建設的です。落ち込みや不安が強く続く場合は受診もご検討ください。

片付けられないだけで受診してもよいのでしょうか?

かまいません。片付けの苦手さそのものに加えて、探し物による遅刻や紛失、家族との衝突、強い自己嫌悪など生活への支障が続いている場合は、背景にADHDなどの特性があるのか、うつ状態など別の要因が重なっているのかを整理する意味でも、一度精神科でご相談ください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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