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連載「大人の発達障害と暮らし・お金」第8回(全13回) 第1回から読む →

机の上に自動車税の払込用紙を「目立つように」置いておいたのに、気づいたら締切日当日。今日は支払いに行く時間がない——。あるいは、クレジットカードの引き落とし日に口座の残高が足りず、後日カード会社からの連絡で気づいて慌てて振り込んだ——。

職場でも、経理から「先月分の経費精算、締切が過ぎていますが今回はなしでいいですか?」というメールが届き、書類の山から数か月前の領収書が出てくる——。

こうした「支払い忘れ」「残高不足」の悩みは、大人の発達障害、とくに注意欠如多動症(ADHD)の特性がある方の相談でよく出てくるテーマです。頭では「払わないと」とわかっているのに行動に結びつかない。それは「だらしない」からではなく、特性と仕組みの相性の問題であることが少なくありません。この記事では、なぜ支払い忘れが起こるのか、昔から知られている工夫と2026年のいまならではのやり方、そして受診を考える目安について解説します。

なぜ支払いを忘れてしまうのか——特性との関係

支払い忘れの背景には、いくつかの特性が関わっていると考えられています。

うっかり忘れやすい。 ADHDには不注意という特徴があり、目立つところに払込用紙を置いても、他のことに気を取られると見落としてしまいます。「見えるようにしておく」だけの対策では、一歩足りないのです。

残り時間を実感しにくい。 締切の日付は知っていても、「あと何日」という残り時間を体感としてつかみにくい時間感覚の特徴が指摘されています。余裕があるうちは切迫感がわかず、締切当日になって初めて「今日までだった!」と慌てることになります。

手順が多いほどミスが増える。 払込用紙での支払いは、「用紙を準備する→カバンに入れる→支払い場所へ行く→お金を用意する」と、実は工程がいくつもあります。工程が多いほど、どこかでうっかりが起こる確率は上がります。

いつものパターンと違うと抜けやすい。 自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある方では、毎月の支払いは問題なくても、自動車税のように年1回しかない支払いは普段のパターンと違うため抜けやすい、ということが起こります。

つまり支払い忘れは、意思や誠実さの問題というより、記憶と時間感覚に頼る支払い方法が特性と相性が悪いという問題です。対策の方向性はひとつ——「覚えておかなくても支払われる仕組み」に変えることです。

昔からの知恵——手順を減らし、支払いを一か所に集める

発達障害のお金の工夫の本で以前から勧められてきた考え方は、次の2つに整理できます。

その1: 支払いの工程を減らす。 窓口やコンビニへ「持って行って払う」方式は工程が多く、うっかりの入り込む余地が大きくなります。税金や公共料金はできるだけ口座振替やクレジットカード払い、ネット経由の支払いに切り替えて、「家で、落ち着いた状態で、少ない手順で」払える形にします。急かされない環境のほうがミスは減ります。

その2: 支払いをまとめて、お金の動きを見えやすくする。 家賃・電気・水道・ガス・通信費といった固定費や税金・社会保険料は、できるだけひとつの口座からの引き落とし、またはひとつのクレジットカードに集約します。支払いがあちこちに散らばっていると、どこかが必ず抜けます。一か所に集まっていれば、残高の管理も家計の見直しも一度で済みます。

この「工程を減らす」「一か所に集める」という原理は、道具が変わっても変わらない基本です。

2026年のやり方——「忘れても大丈夫」を自動化する

いまのスマホとキャッシュレス環境なら、この原理をほぼ全自動で実現できます。

  • 固定費は口座振替・カード払いに全部寄せる。 電気・ガス・水道・通信費・サブスクは口座振替かクレジットカードに集約します。多くの自治体の税金もスマホ決済アプリやクレジットカードで自宅から納付できるようになっており、払込用紙を持ち歩く必要自体をなくせます。
  • 引き落とし口座は給与振込口座と同じにする。 口座が分かれていると「お金を移し忘れて残高不足」が起こります。分けたい事情がなければ、給料が入る口座からそのまま引き落とされる形が最も事故が少ない設計です。
  • 残高不足を機械に見張らせる。 家計簿アプリには銀行口座やカードと連携して残高や引き落とし予定を自動で取り込み、残高不足のおそれを通知してくれるものがあります。銀行の公式アプリにも、残高の変動や引き落としをプッシュ通知する機能があります。「自分で確認する」のではなく「通知が来たら対応する」形に変えるのがポイントです。
  • カードの利用通知をオンにする。 クレジットカードの利用のたびにアプリへ通知が来る設定にしておくと、使いすぎに早く気づけて、引き落とし額の予想が立てやすくなります。
  • 年1回の支払いはカレンダーに「来年の分」まで入れる。 自動車税など切り替えできない支払いは、支払った直後に翌年のカレンダーへ「○月上旬:自動車税の通知が来る」と登録し、通知を複数回(2週間前・3日前・当日朝)設定しておきます。
  • 経費精算は「その場で記録」。 領収書は受け取った瞬間にスマホで撮影し、経費精算アプリやカメラロールの専用アルバムに入れます。交通費は交通系ICカードの履歴を読み取れるアプリを使えば手入力が要りません。月末にまとめて処理する方式は、先延ばしの特性と最悪の相性です。

AIに手伝ってもらう

⚠️ メールや書類・レシート・給与明細をAIに渡すときは、氏名・会社名・取引先名・口座番号など、特定につながる部分を「A社」「○○銀行」などに置き換えてから渡してください。

支払いの仕組みづくりで意外と大変なのが、「自分の支払いを全部洗い出す」という最初の作業です。ここはChatGPTやClaudeなどの対話型AIに整理を手伝ってもらうと、ぐっと楽になります。

まず、思いつくままに支払いを話して、抜け漏れチェックと整理を頼む方法です。通勤中などに音声入力で使えば、書く手間がありません。

🎤 音声で渡す
今から、私が毎月・毎年払っているお金を思いつくまま話します。話し終わったら、(1)毎月の支払い・年に数回の支払い・年1回の支払いに分けて一覧にして、(2)「家賃・光熱費・通信費・サブスク・保険・税金」のうち私が言い忘れていそうな項目を質問して確認し、(3)口座振替やカード払いにまとめられそうなものを提案してください。私は支払いを忘れやすいので、忘れにくくする仕組みを優先してください。

払込用紙や督促のはがきが届いたときは、写真で渡して「何を・いつまでに・どう払うのが一番楽か」を整理してもらえます。

📷 写真で渡す
この払込用紙の写真から、(1)何の支払いか、(2)支払期限、(3)考えられる支払い方法(口座振替・カード・スマホ決済・コンビニなど)を整理してください。私はADHDの特性で支払いを先延ばしにしやすいので、「今日この場でスマホから終えられる方法」があれば最優先で教えてください。最後に、リマインダーに登録する文面(期限の3日前と当日朝の2つ)も作ってください。※氏名や番号は隠して渡しています。

引き落とし残高不足を防ぐ「月初のルーティン」も、AIと一緒に設計できます。

⌨️ 貼り付けて渡す
私の毎月の引き落とし予定を貼ります。(1)引き落とし日順に並べ替えて、(2)給料日からの日数を付け、(3)残高不足が起こりやすい危険な日を指摘してください。そのうえで、月に1回・5分でできる「残高チェックのルーティン」を、実施日と手順つきで提案してください。私は面倒な作業を先延ばしにしやすいので、手順は3ステップ以内にしてください。
【給料日】(ここに書く)
【引き落とし予定】(例: ○日 カード、○日 家賃、○日 通信費…)

AIはあくまで整理の補助です。金額や期限は必ず元の書類で確認し、口座番号などの情報は渡さないルールを守ってください。

当院での実際/受診の目安

支払いの仕組みを整えれば防げる範囲は、それで十分です。ただ、いろいろ工夫しても支払い忘れや督促が繰り返される、そのたびに強い自己嫌悪に襲われる、お金の問題が仕事や生活に響き続けている——そんなふうに支障が続くときは、工夫だけで抱え込まず、精神科の受診をご検討ください。また一般論として、浪費や借金がふくらむ背景に、躁状態など病状の変化が隠れていることがあります。「最近お金の使い方が変わった」と自分や家族が感じるときも、相談する価値があります。

当院の受診について、よくご質問いただく点をご案内します。

  • ご予約はデジスマのWEB予約からお取りいただけます。初診の方には受診前にWEB問診にお答えいただいており、初診の所要時間は30分程度が目安です。
  • 通院の頻度は、基本を2週間に一度としています。生活の困りごとの経過を確認しながら、工夫や治療について一緒に考えていきます。

緊急のとき——自分を傷つけてしまいそうなほど追い詰まっているときは、様子を見ずに救急(119)への連絡や、かかりつけの医療機関への相談を行ってください。

まとめ

  • 支払い忘れ・残高不足は「だらしなさ」ではなく、忘れっぽさと時間感覚の特徴に、工程の多い支払い方法が重なって起こる
  • 対策の基本は、支払いの工程を減らすことと、口座・カードへの集約
  • 2026年は、口座振替・スマホ納付・残高不足の自動通知・カード利用通知で「忘れても支払われる仕組み」をほぼ自動化できる
  • 経費精算は「その場で撮影・記録」がためこまないコツ
  • 工夫しても支障が続くとき、浪費や借金の背景が心配なときは、一人で抱え込まず受診を

関連記事: 大人の発達障害「生活の困りごと」解決ガイド(総目次)

参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手にお金と付き合うための本』(村上由美 著、翔泳社)

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

よくある質問

支払い忘れが多いのは、性格がだらしないからでしょうか?

支払い忘れは誰にでもありますが、注意欠如多動症(ADHD)の特性がある方では、忘れっぽさに加えて「あと何日」という残り時間を実感しにくい時間感覚の特徴が背景にあり、意思の力だけでは防ぎにくいことがあります。性格の問題として自分を責めるより、口座振替への集約や自動通知など「忘れても支払われる仕組み」を作るほうが現実的です。

残高不足でクレジットカードの引き落としができませんでした。どうすればよいですか?

気づいた時点で早めにカード会社へ連絡し、案内された方法で支払うのが基本です。再発を防ぐには、引き落とし口座を給与振込口座と同じにする、家計簿アプリの残高通知を使う、引き落とし日の数日前にスマホのリマインダーを設定するなど、複数の仕組みを重ねるのが有効です。

経費精算の締切をいつも守れません。工夫はありますか?

領収書を受け取ったその場でスマホで撮影して記録する、交通系ICカードの履歴を読み取れる経費精算アプリを使う、締切の数日前に繰り返しのリマインダーを入れる、といった「ためこまない仕組み」が基本です。月末にまとめて処理しようとするほど負担が大きくなり、先延ばしが強まります。

支払い忘れや浪費が続く場合、受診したほうがよいのでしょうか?

工夫を試しても支払い忘れや督促が繰り返され、生活や仕事に支障が続くときは、一度精神科の受診をご検討ください。背景にADHDなどの特性があるのか、あるいは浪費や借金の背景に躁状態など病状の変化が隠れているのかによって、対応の考え方が変わります。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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