「今年こそ貯金するぞ」と決めて積立を申し込んだのに、数か月後には生活費が足りなくなって解約。気づけば「積立を始めては解約」を何度も繰り返している——。
あるいは、「老後のために貯めないと」と頭ではわかっているのに、なぜか全く現実味がわかず、給料が入るとその月のうちにほぼ使い切ってしまう。同僚が「貯金が○百万円ある」と話しているのを聞いて、自分だけ大人になりきれていないような気持ちになる——。
「貯められない」という悩みは、大人の発達障害、とくに注意欠如多動症(ADHD)の特性がある方の相談でよく出てくるテーマです。この記事では、なぜ貯金が続かないのか、昔から知られている工夫と2026年のいまならではのやり方、そして受診を考える目安について解説します。
なぜ貯められないのか——「意志」ではなく特性の問題
貯金が苦手なこと自体は、誰にでもあります。ただ、ADHDの特性がある方の「貯められない」には、意志の力だけでは変えにくい背景があると考えられています。
遠い未来を実感しにくい。 「老後のため」「将来に備えて」という動機は、何十年も先の話です。ADHDには、残り時間や先の予定を体感としてつかみにくい時間感覚の特徴が指摘されており、遠い未来のための貯金は理屈ではわかっても感覚的にピンときません。実感のわかない目標のために、目の前の楽しみを我慢し続けるのは、誰にとっても難しいことです。
目の前の楽しみが優先されてしまう。 ADHDの衝動性(思いついたことにまず手が出る)があると、「貯めよう」という長期の計画より、いま欲しいもの・いま楽しいことにお金が向かいやすくなります。貯蓄用のお金でも、引き出せる環境にあると「あとで戻せばいいから」とつい使ってしまいがちです。
勢いで無理な目標を立ててしまう。 「老後には○千万円必要」といった情報を目にして、いきなり大きな目標額で積立を契約してしまう——これもADHD傾向のある方によく見られるパターンです。無理な金額設定は生活費を圧迫し、結局解約に至ります。「始めては挫折」の繰り返しは、「自分はお金の管理ができない人間だ」という自己否定にもつながります。
一方、自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある方では、「緊急時にいくら必要か」の目安が情報源によってバラバラで確信が持てず、かえって動けなくなることがあります。見通しが立たないことへの不安が強い分、逆に手元にお金があるという安心感が浪費の歯止めになりやすいという面もあります。
つまり「貯められない」は、だらしなさの問題というより、時間の感じ方と目標の立て方という情報処理のスタイルの問題です。だからこそ、意志ではなく「仕組み」で貯まるようにするのが基本方針になります。
昔からの知恵——「先取り」と「引き出しにくくする」
発達障害のお金の本で古くから勧められてきた工夫は、大きく3つに整理できます。
その1: 小さく始めて「貯まる快感」を先に体験する。 いきなり老後資金を目指すのではなく、10万円、100万円といったスモールステップで「貯めるスキル」を育てます。金額は最初は生活に響かない少額でよく、続いたら少しずつ増やします。筋トレと同じで、少しずつ負荷を上げるのが近道です。また、「老後のため」より「ライブの遠征費」「欲しかった鞄」のような具体的で楽しい使い道を目標にしたほうが、遠い未来を実感しにくい特性があっても続きやすくなります。500円玉貯金のように、貯まっていく手応えが物理的に感じられる方法から始めるのも昔ながらの知恵です。
その2: 給料日直後に「先取り」する。 残ったら貯金しよう、では残りません。給料が入った直後に貯蓄分を先に取り分けて、残りで生活する方式にします。会社に財形貯蓄(給与天引きの貯蓄制度)があれば、天引きなので最初から見えないお金として貯まっていきます。
その3: 貯蓄用口座を「引き出しにくく」しておく。 生活用の口座と貯蓄用の口座を分け、貯蓄用はあえて使いにくくします。キャッシュカードを財布に入れない、そもそもカードを作らない、生活圏にATMがない銀行を選ぶ——衝動的に引き出したくなったときのハードルを、物理的に上げておくわけです。
2026年のやり方——「自動で貯まる」を最初に作る
上の原理は、いまの銀行アプリ・キャッシュレス環境なら、ほぼ全部を自動化できます。
- 銀行の自動積立・自動振替を設定する。 多くの銀行では、毎月決まった日に決まった額を貯蓄用口座へ自動で移す設定がアプリから数分でできます。給料日の翌日に設定すれば「先取り貯金」がそのまま自動化され、以後は意志の力を一切使いません。まずは無理のない少額から設定し、続いたら金額を上げましょう。
- 目的別口座・バーチャル口座で「使い道」を見える化する。 ネット銀行の中には、1つの口座の中を「引っ越し資金」「旅行」など目的別に分けて管理できるものがあります。「何のためのお金か」が常に見えるので、具体的な目標があると貯めやすい特性と相性のよい仕組みです。
- 貯蓄用口座はスマホアプリからログアウトしておく。 現代版の「キャッシュカードを財布に入れない」です。残高確認は月1回と決めて、普段は目に入らないようにしておくと、衝動的な引き出しを防げます。
- 家計簿アプリで「増えていく残高」を月1回眺める。 口座やカードを連携できる家計簿アプリを使うと、資産全体の残高推移がグラフで見えます。細かい記帳が続かなくても、「先月より増えた」を月1回確認するだけで、貯金の手応え(昔の500円玉貯金の重さにあたるもの)を実感できます。
- 制度の名前だけ知っておく。 勤め先の財形貯蓄のほか、iDeCoやNISAといった国の税制上の制度もあります。利用するかどうかの判断は投資の話になるため本記事では扱いません。関心がある場合は、金融庁など公的機関の情報や金融機関の窓口で確認してください。
AIに手伝ってもらう
⚠️ メールや書類・レシート・給与明細をAIに渡すときは、氏名・会社名・取引先名・口座番号など、特定につながる部分を「A社」「○○銀行」などに置き換えてから渡してください。
「無理のない積立額がわからない」「目標の立て方がわからない」という貯金の最初のつまずきは、ChatGPTやClaudeなどの対話型AIに相談しながら決めると、ぐっと楽になります。
毎月の収支をおおまかに伝えるだけで、無理のない積立額の候補を一緒に考えてくれます。通勤中などに音声で話すだけでも構いません。
私は貯金が苦手で、積立を始めても無理な金額にして挫折してきました。今から毎月の手取りとおおまかな支出を話すので、(1)聞き終わったら内容を一覧に整理し、(2)「絶対に生活に響かない金額」から始める毎月の積立額を3段階(最小・標準・少し頑張る)で提案してください。(3)最初の3か月は最小額で様子を見る前提で、いつ・どうやって増額を判断するかも決めてください。投資商品の提案はしないでください。
「何のために貯めるか」が思いつかないときは、AIと話しながら具体的な目標に落とし込むと、遠い未来の話が「あと○か月で達成できる話」に変わります。
貯金の目標を一緒に決めてください。私は「老後のため」のような遠い目標だとやる気が出ないタイプです。私の楽しみ・欲しいもの・近い将来やりたいことをこれから箇条書きで書くので、(1)それぞれに必要そうな金額の目安を私に質問しながら確認し、(2)「金額×達成時期」が具体的な目標を2〜3個に絞り、(3)毎月いくら積み立てれば何か月で達成できるかを表にしてください。 【楽しみ・欲しいもの・やりたいこと】 (ここに箇条書きで書く) 【毎月積立にまわせそうな金額】(ここに書く)
銀行アプリの自動積立の設定は、画面を見ながらAIに聞くとつまずきにくくなります。設定画面のスクリーンショットを渡すときも、口座番号や氏名が写る部分は隠してください。
銀行アプリで毎月の自動積立(自動振替)を設定したいのですが、画面のどこを操作すればよいかわかりません。今からアプリの画面のスクリーンショットを渡すので(口座番号と氏名は隠しています)、次にタップする場所と入力する内容を1手順ずつ教えてください。私は説明が長いと混乱するので、1回の返事につき1手順だけにしてください。
AIはあくまで整理と設定の補助です。積立額や目標が現実的かどうかは自分の生活で確かめながら調整し、投資や金融商品の判断をAIに委ねないようにしてください。
当院での実際/受診の目安
貯金の仕組みづくりは、工夫や道具で補えるうちはそれで十分です。ただ、一般論として、浪費や借金の背景に病状が隠れていることがあります。たとえば、気分が高揚して金遣いが急に荒くなる躁状態では、本人は絶好調のつもりでも、あとから大きな後悔につながる使い方をしてしまうことがあります。工夫を試しても浪費が止まらない、貯金どころか借金が繰り返される、気分の波が大きい——そんなふうに生活や仕事への支障が続くときは、工夫だけで抱え込まず、精神科の受診をご検討ください。
当院の受診について、よくご質問いただく点をご案内します。
- ご予約はデジスマのWEB予約からお取りいただけます。初診の方には受診前にWEB問診にお答えいただいており、初診の所要時間は30分程度が目安です。
- 通院の頻度は、基本を2週間に一度としています。お金の困りごとを含めた生活面の悩みも、経過を見ながら一緒に考えていきます。
- 仕事を続けるか休むかの相談もお受けしています。休職の診断書は1か月毎に作成しており、診察の結果必要と判断すれば初診当日に発行することもあります。
緊急のとき——自分を傷つけてしまいそうなほど追い詰まっているときは、様子を見ずに救急(119)への連絡や、かかりつけの医療機関への相談を行ってください。
まとめ
- 貯金できないのは意志の弱さではなく、遠い未来を実感しにくい時間感覚と、無理な目標設定という特性が背景にあることが多い
- 対策の基本は、少額から始める・具体的で楽しい目標にする・給料日直後の先取り・貯蓄用口座を引き出しにくくする
- 2026年なら、銀行アプリの自動積立と目的別口座で「意志を使わずに貯まる仕組み」を最初に作れる
- 積立額や目標の設計は、対話型AIに相談しながら決めるとつまずきにくい(投資判断は委ねない)
- 浪費や借金の背景に躁状態などの病状が隠れていることもある。支障が続くときは受診を
関連記事: 大人の発達障害「生活の困りごと」解決ガイド(総目次)
参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):
- 『発達障害の人が上手にお金と付き合うための本』(村上由美、翔泳社)
執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏
よくある質問
貯金ができないのは性格やだらしなさのせいですか?
貯金が苦手なこと自体は誰にでもありますが、注意欠如多動症(ADHD)の特性がある方では、老後などの遠い未来を体感としてつかみにくい時間感覚の特徴や、勢いで無理な目標額を立ててしまう傾向が背景にあり、意志の力だけでは続けにくいことがあります。性格の問題と考えるより、先取り貯金の自動化など「意志に頼らない仕組み」で補うほうが現実的です。
積立を始めてもいつも途中で解約してしまいます。どうすればよいですか?
最初の金額設定が高すぎて生活費が足りなくなり、解約に至るパターンがよくあります。最初は生活に響かない少額から始めて、続いたら少しずつ増やす方法が勧められます。また、給料日直後に自動で貯蓄用口座へ移す「先取り」方式にして、貯蓄分を最初から見えなくしておくと、意志の力を使わずに続けやすくなります。
iDeCoやNISAはやったほうがよいのでしょうか?
iDeCoやNISAは国の税制上の制度で、利用するかどうか、どう使うかは制度の内容とご自身の状況を踏まえて判断するものです。当院は医療機関であり、投資や金融商品の助言はできません。制度の詳細は国税庁・金融庁などの公的機関の情報や、金融機関の窓口でご確認ください。
浪費がひどくて貯金どころではありません。受診の目安はありますか?
工夫を試しても浪費や借金が繰り返され、生活に支障が続くときは受診をご検討ください。お金の問題の背景に、ADHDの衝動性だけでなく、気分が高揚して金遣いが荒くなる躁状態など、治療が必要な病状が隠れていることもあります。お金の困りごとも診察でご相談いただける内容です。