朝になると布団から出てこない。「お腹が痛い」「頭が痛い」と言って学校を休む日が増えた。行きなさいと言えば言うほど、部屋にこもってしまう。夜遅くまでゲームをして、昼過ぎに起きてくる――。
子どもが学校に行けなくなったとき、親御さんの心には、心配と焦り、そして「自分の育て方が悪かったのだろうか」という自責が入り混じります。誰にも相談できないまま、家の中の空気が重くなっていくご家庭は少なくありません。
最初にお伝えしたいのは、不登校そのものは病気ではないということです。学校に行かない・行けないというのはあくまで「状態」であり、その背景には実にさまざまな事情があります。ただし、その背景に治療や支援の対象になる不調が隠れていることがあるのも事実です。
この記事では、不登校の背景に隠れていることのある不調、医療機関への相談を考える目安、親としての関わり方の考え方を、福岡県春日市の精神科・心療内科の視点からお伝えします。
不登校は病気ではない――けれど、背景に不調が隠れていることがあります
不登校のきっかけや背景は一人ひとり異なります。友人関係のつまずき、学業の負担、部活動の疲れ、家庭環境の変化、あるいは本人にもはっきり言葉にできない「なんとなく行けない」という感覚――。多くの場合、複数の要因が重なり合っています。
「学校に行けない=心の病気」と決めつける必要はありません。一方で、次のような不調が背景に隠れていて、それが「行けなさ」を作っている場合があることが知られています。
うつ状態
気分の落ち込み、何をしても楽しめない、口数が減る、食欲が落ちる、朝がとくにつらそう――こうした変化が続いているときは、うつ状態が背景にある可能性があります。思春期のうつは、大人と違ってイライラや反抗的な態度として表に出ることもあるとされています。うつ状態の一般的な特徴はうつ病のページで解説しています。
不安症
人前で発表するのが極端に怖い、教室で注目されることに強い恐怖がある、漠然とした不安で登校前に動悸や吐き気が出る――不安の症状が学校という場面と結びついて、登校を難しくしていることがあります。
起立性調節障害などの体の不調
朝起きられない、立ちくらみやめまいがする、午前中は調子が悪く午後になると元気になる――こうしたパターンには、起立性調節障害と呼ばれる、自律神経の働きに関わる体の不調が隠れていることがあります。これは「怠け」ではなく体の側の問題であり、その評価はまず小児科の役割です。体の症状が目立つ場合、体の側の評価をおろそかにしないことが大切です。
発達特性に伴う疲弊
感覚の過敏さ、集団のペースに合わせることの苦手さ、対人関係の読み取りにくさなど、発達の特性を持つお子さんが、学校生活の中で人一倍のエネルギーを使い続け、あるとき電池が切れたように行けなくなる、ということがあります。
睡眠リズムの乱れ
夜更かしと昼夜逆転が定着すると、それ自体が登校を物理的に難しくします。もともとの不調の結果として昼夜逆転している場合と、リズムの乱れが不調を強めている場合の両方があり、悪循環になりやすい部分です。
医療機関への相談を考える目安
すべての不登校に受診が必要なわけではありません。ただ、次のようなサインがあるときは、「様子を見る」だけで抱え込まず、医療機関への相談を検討する目安になるとされています。
- 食事や睡眠が明らかに崩れている(食べる量が大きく減った・増えた、眠れていない)
- 腹痛・頭痛・吐き気などの体の症状が続いている(体の症状はまず小児科・内科での評価を)
- 昼夜逆転が続き、生活リズムが戻らない
- 表情が乏しくなった、口数が減った、好きだったことにも興味を示さなくなった
- 「死にたい」「消えたい」という言葉が出る、自分を傷つける行動がある
- ゲームやインターネットへの没入が、楽しみというより現実からの逃避として強まっているように見える
- 家族との会話をほぼ完全に拒み、部屋から出てこない状態が長く続いている
- 不登校の状態が長引き、本人も家族も出口が見えず消耗している
とくに「死にたい」という言葉や自傷がある場合は、様子見をせず早めに相談してください。命に関わる差し迫った状況では、ためらわず救急(119)を利用してください。すでに通院先がある場合は主治医に相談してください。
親ができること――責めないこと、休ませることの意味
「どう関わればいいのか」は、親御さんが最も悩まれるところです。一律の正解はありませんが、考え方の軸としてお伝えできることがいくつかあります。
登校を促すべきかどうかは、一律に決められません
「無理にでも行かせたほうがよい」「絶対に登校刺激をしてはいけない」――どちらの極端な意見も耳にされると思いますが、登校刺激の是非はお子さんの状態と時期によって異なるとされています。心身が消耗しきっている時期に登校を迫れば状態は悪化しやすく、一方、エネルギーが戻ってきた時期には、小さな一歩を後押しする関わりが回復を助けることもあります。今がどの段階なのかを見立てるためにも、後述する学校や医療の第三者の視点が役に立ちます。
責めない・問い詰めない
「なぜ行けないの」と理由を問い詰められても、本人にも説明できないことが多いものです。理由を言えないことを責められると、子どもは「わかってもらえない」と感じ、心を閉ざしやすくなります。原因追及よりも、「つらいんだね」と状態を受け止めることが、回復の土台になるとされています。
休ませることには意味があります
学校を休むことは「逃げ」や「甘え」ではなく、消耗した心身を回復させるために必要な期間である場合があります。骨折したら安静にするのと同じように、心のエネルギーが尽きた状態では、まず休息が優先されることがあります。ただし、休ませる=放置ではありません。生活リズム(とくに朝の光を浴びること、食事の時間)をゆるやかに保つ手助けや、家庭を安心できる場所にしておくことは、休んでいる間の大切な支えになります。
親御さん自身のケアも忘れずに
子どもの不登校は、親御さん自身の心身も消耗させます。親が疲れ果ててしまうと、家庭全体の余裕がなくなります。ご家族が自分の不調を感じたときに相談することも、回り回ってお子さんの支えになります。ご家族のメンタルヘルスについては初めての方へもご参照ください。
学校の資源も使えます――スクールカウンセラー・養護教諭
医療機関の前に、あるいは並行して、学校の中にある相談の窓口を使うこともできます。
- スクールカウンセラー:多くの学校に配置されており、本人だけでなく保護者からの相談も受けていることが一般的です。学校生活の状況を踏まえた助言が得られ、必要に応じて医療機関への相談を勧めてもらえることもあります
- 養護教諭(保健室の先生):教室には入れなくても保健室なら行ける、というお子さんもいます。日頃の様子を知る立場からの情報は、状態を見立てるうえでも役に立ちます
- 担任・学年主任との情報共有:出席の扱いや学習の遅れへの配慮など、学校側と相談できることは意外に多くあります
利用の可否や体制は学校によって異なりますので、まずは学校に確認してみてください。
精神科・心療内科でできること――そして、受診先の選び方
医療機関では、不登校を「治す」のではなく、背景に治療できる不調が隠れていないかを評価し、あれば治療することが役割になります。
- うつ状態・不安症などの評価と治療
- 睡眠リズムの乱れへの対応(生活リズムの立て直しの助言を含む)
- 発達特性の評価と、特性を踏まえた環境調整の助言
- 本人・家族の消耗に対する支えと、回復の段階に応じた関わり方の相談
ここで、当院について正直にお伝えしておきます。当院は主に思春期以降から大人の方を対象とした精神科・心療内科です。高校生年代以降のご相談はお受けしやすい一方、小学生など年齢の低いお子さんについては、児童思春期の診療を専門とする医療機関のほうが、より適切な支援につながる場合があります。また、朝起きられない・立ちくらみなど体の症状が目立つ場合は、起立性調節障害などの評価のため、まず小児科にご相談ください。
ご本人が受診を嫌がる場合や、まず親だけで話を聞いてほしい場合の受診の進め方は、受診を検討している医療機関に問い合わせてご確認ください。
なお、昼夜逆転など睡眠の問題が中心になっている場合の一般的な考え方は不眠症のページでも解説しています。
まとめ――「行けない」の背景を、一人で見立てようとしなくて大丈夫です
不登校そのものは病気ではありません。しかしその背景に、うつ状態、不安症、起立性調節障害、発達特性に伴う疲弊、睡眠リズムの乱れといった、支援や治療の対象になる不調が隠れていることがあります。食事や睡眠の崩れ、続く体の症状、昼夜逆転、「死にたい」という言葉などのサインがあるときは、医療機関への相談を検討してください。命に関わる差し迫った状況では救急(119)を、通院中であれば主治医を頼ってください。
親御さんにできるのは、原因を問い詰めることではなく、責めずに受け止め、休息の意味を認め、スクールカウンセラーや医療機関など外の視点を上手に借りることです。そして、親御さん自身が消耗しきってしまわないことも、同じくらい大切です。
当院は福岡県春日市の精神科・心療内科として、主に思春期以降から大人の方の診療を行っています。高校生年代以降のお子さんのご相談や、お子さんの不登校で消耗しているご家族ご自身の不調のご相談をお受けしています(年齢の低いお子さんは児童思春期の専門医療機関が適切な場合があります)。受診を検討される際は、WEB予約からご都合のよい日時をお選びください。
よくある質問
不登校は精神科に連れて行くべき状態なのでしょうか?
不登校そのものは病気ではなく、学校に行かない・行けないという「状態」です。すべての不登校に精神科の受診が必要なわけではありません。ただし、背景にうつ状態や不安症、睡眠リズムの乱れ、発達特性に伴う疲弊など、治療や支援の対象になる不調が隠れていることがあります。食事や睡眠が崩れている、腹痛や頭痛が続く、死にたいという言葉が出る、といったサインがあるときは、医療機関への相談を検討する価値があるとされています。
本人が受診を嫌がります。親だけで相談できますか?
思春期のお子さんが受診をためらうことは珍しくありません。無理に連れて行こうとすると、かえって心を閉ざしてしまうこともあります。ご本人が受診を嫌がる場合の受診の進め方は、受診を検討している医療機関に問い合わせてご確認ください。医療機関のほかに、学校のスクールカウンセラーや養護教諭も、保護者からの相談の入り口として利用できることがあります。
学校に行くよう促したほうがよいのでしょうか、休ませたほうがよいのでしょうか?
登校を促すこと(登校刺激)が良いか悪いかは、一律には決められないとされています。お子さんの状態や不登校の背景によって、適切な関わりは異なります。心身が消耗している時期に登校を強く迫ると、状態が悪化することがある一方、回復してきた時期には少しずつ社会との接点を戻す働きかけが役に立つこともあります。判断に迷うときは、スクールカウンセラーや医療機関など、第三者の視点を交えて考えることをおすすめします。
春日メンタルクリニックでは子どもの不登校を診てもらえますか?
当院は主に思春期以降から大人の方を対象とした精神科・心療内科です。小学生など年齢の低いお子さんについては、児童思春期の診療を専門とする医療機関のほうが適切な場合があります。また、立ちくらみや朝起きられないなど体の症状が目立つ場合、起立性調節障害などの身体側の評価はまず小児科の役割です。どの医療機関が適切か迷われる場合も含め、受診の進め方は受診を検討している医療機関に問い合わせてご確認ください。