福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
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「ネットで調べたら、この治療は効かないと書いてありました」「〇〇がいいという記事を読んだのですが、先生はどう思いますか」――診察室では、こうした言葉をよく伺います。

そして、それを言い出すのをためらう方も同じくらいいらっしゃいます。「勝手に調べたと思われそうで」「先生に失礼かもしれないと思って」。けれども、調べること自体は少しも悪いことではありません。自分の体と心に起きていることを知ろうとするのは自然な行動ですし、何を調べてきたかを伺うと、その方がいちばん心配していることがはっきり見えてくることも多いのです。

難しいのは、調べることではなく、出てきた情報をどう受け取るかのほうです。健康情報は、書き手に悪気がなくても、読み手には実際より強い意味に見えてしまう書かれ方をすることがあります。「信じる」か「信じない」かの二択で処理しようとすると、どちらを選んでも落ち着きません。

この記事では、目にした情報を自分で測るための物差しを4つお渡しします。難しい専門知識は必要ありません。どれも、記事を読みながら自分に投げかけられる形の問いです。

なお、ここで扱うのは、研究や統計をもとに書かれた記事の読み方です。個人の体験談やレビューとの距離の取り方については、副作用が怖くて薬を飲めないときの記事でふれています。

物差し1 「差があった」と「暮らしで感じられる差」は別のこと

健康情報でよく見かける表現に、「統計学的に有意な差が認められた」があります(記事によっては「統計的に有意」とも書かれます)。

これは、偶然のばらつきだけでは説明しにくい差が見つかった、という意味の、研究の世界の言葉です。日常語の「有意義」「意味がある」とは別の言葉だと考えてください。その差が確かにあるらしいということと、その差が暮らしのなかで感じ取れる大きさかということは、まったく別の問いなのです。

たとえば、研究に参加した人数が非常に多いと、ごくわずかな差でも「有意」と表現されることがあります。「有意差あり」という言葉だけを見て「はっきり効く」と読むと、実際より大きな期待を持ってしまうことになります。

ですから、見ていただきたいのは「差があったか」ではなく、「どのくらいの差があったか」のほうです。

「割合」で語られた差は、大きく見えやすい

もうひとつ、差の大きさが実際より大きく見えやすい書き方があります。架空の例で説明します。

ある方法を試したグループでは、ある出来事が起きた人が100人中2人。試さなかったグループでは100人中4人だったとします。このとき、次のどちらの書き方もできます。

  • 「リスクが半分に減った」「50%の減少」
  • 「100人のうち2人ぶんの差」

同じ事実を指しているのに、読んだときの印象はまるで違います。そして見出しに使われやすいのは、たいてい前者です。

もとの数が小さいときほど、割合の表現は大げさに見えます。「何%減った」という数字を見たら、「では、実際には何人ぶんの違いなのだろう」と探してみてください。書かれていないことも多いのですが、その「書かれていない」ということ自体が、ひとつの手がかりになります。

物差し2 「関連がある」と「それが原因」は別のこと

「〇〇な人は、△△になりやすい」。この形の情報は、健康記事のなかで最も多い型のひとつです。

ここで立ち止まっていただきたいのは、二つのことが一緒に起きているという観察と、片方がもう片方を引き起こしているという説明は、まったく別物だということです。

架空の例を挙げます。「夜遅くまで起きている人は、気分が落ち込みやすい」という調査結果があったとしましょう。この一文には、少なくとも三通りの読み方があります。

  • 夜更かしが気分に影響している
  • 気分が落ち込んで眠れないから、結果として夜更かしになっている(順番が逆)
  • 仕事の負荷など、夜更かしと気分の落ち込みの両方を引き起こす別の事情がある

三つ目のような「両方の背景にひそんでいる事情」を、研究の世界では交絡(こうらく)と呼びます。研究者はさまざまな工夫でこの影響を小さくしようとしますが、そもそも測っていない事情まで取り除くことはできません。だからこそ、人々を観察してわかったことは、「関連がありそうだ」までは言えても、「これが原因だ」と言い切るには届かないことが多いのです。

読むときの問いは、こうなります。「この記事は、原因だと言っているのか、それとも一緒に起きていると言っているだけなのか」。

この物差しは、自分を責めないためにも役立ちます。「〇〇な人は病気になりやすい」という見出しを読んで、「では自分の生活のせいだったのか」と受け取ってしまう方は少なくありません。関連が示されただけの情報を、自分への責めに変換しなくてよいのです。健康に関するニュースを見て不安が強くなりやすい方は、ニュースが不安で眠れないときの記事もあわせてご覧ください。

物差し3 その研究は、誰を見た研究なのか

どんな研究も、必ず「特定の人たち」を対象にして行われます。年齢の範囲、症状の重さ、ほかに持っている病気、住んでいる地域、行われた時期。すべてが決まったうえで実施され、その条件のもとでの結果が報告されます。

ですから、情報を見たときに「これは誰について調べたものだろう」と確認すると、自分との距離が測れます。目安になるのは次のような点です。

  • 年齢の幅はどうか。 若い世代だけを見た調査と、高齢の方を含む調査では、意味合いが変わります。
  • 症状の重さはどうか。 重い状態の方だけを集めた研究なのか、軽い方も含むのかで、結果の見え方は変わります。
  • ほかの病気を持つ人が含まれているか。 持病のある方があらかじめ除かれている研究も珍しくありません。
  • どこで、いつ行われたか。 医療の仕組みも治療の選択肢も、国や時代によって違います。

条件が自分と大きく違えば、その結果をそのまま当てはめることはできません。逆に、自分に近い人たちを見た研究だとわかれば、その情報は自分にとって重みを増します。ただし、重みが増しても一本の研究であることは変わりません。この点は次の物差し4でふれます。

そしてこれは、「効果があった」という情報だけでなく「効果がなかった」という情報にも同じように当てはまります。ある条件の人たちで差が見られなかったからといって、別の条件の人に当てはまるとはかぎらないのです。

物差し4 一本の研究と、積み重なった知見

四つ目が、おそらくいちばん誤解されやすい点です。

研究は、一本で完結しません。同じテーマについて、別の研究者が、別の集団で、別のやり方で調べ直す。そうして結果が揃ってきて、はじめて「どうやらこう言えそうだ」という段階に進みます。この記事が参考にした書籍でも、ひとつの研究論文は大きなパズルの小さな1ピースにたとえられています。

ところが、ニュースになりやすいのは、たいてい新しい1ピースのほうです。目新しいものほど記事になりやすいからです。一方、日々の診療が拠り所にしているのは、たくさんの研究を突き合わせて整理した診療ガイドラインのような、地味で話題になりにくい文書のほうです。あるテーマの研究をまとめて紹介する総説(そうせつ)も手がかりになりますが、こちらは書き手の見方や選び方が入ることもあります。

ですから、「新しい研究でこんなことがわかった」という情報を見たときは、「これは1ピースの話なのか、それとも積み重なった結論なのか」と問うてみてください。1ピースであっても価値はあります。ただ、それだけを理由に治療の方向を変えるには足りない、ということです。

これと関連して、有名な雑誌に載ったかどうか、大きく報道されたかどうかも、その情報が自分に当てはまる保証にはなりません。掲載先の知名度は、その研究の目的や対象者が自分と合っているかどうかとは、別の話だからです。

「〇〇は効かない」と書いてあったときの読み方

「効く」という情報より、「効かない」という情報のほうが、心に刺さりやすいものです。いま続けている治療への迷いに直結するからだと思います。この形の情報に出会ったときは、次の四つを確かめてみてください。

  • 「差が確認できなかった」と「効果がないと確かめられた」は違います。 参加した人数が足りない、観察した期間が短い、測り方が合っていないなどの理由で、実際には差があっても見えないことがあります。「差がなかった」は「同じだと証明された」という意味ではありません。
  • 誰にとって効かなかったのかを見ます。 物差し3と同じ問いです。対象になった人たちが自分と違えば、その結論は自分の話ではありません。
  • 何をもって「効く」としたのかを見ます。 研究では「何を測るか」があらかじめ決められています。測られたものが、自分が本当に知りたいこと――たとえば「朝、起き上がれるようになるか」――と同じとはかぎりません。
  • 書き手が何を勧めているかを見ます。 「〇〇は効かない」という記事の結びで、別の商品や方法が勧められている場合は、いったん距離を置いて読んだほうが安全です。ただし、勧めている人がいるというだけで内容が誤りとはかぎりません。書き手の立場は、内容を確かめるきっかけであって、それ自体が判定ではありません。

そのうえで、いちばん大事なことをお伝えします。いま続けている治療をやめるかどうかを、記事を読んだその夜に一人で決めないでください。 薬によっては、急に中止すること自体が体調を乱すことがあります。「効いている実感がないうえに、こんな記事も見た」という状態なら、それはむしろ相談すべきタイミングです。効果の見極め方については、薬が効いているのかわからないときの記事もご参考になさってください。

主治医に持っていくときのこと

「否定されそうで言い出せない」。これも、本当によく伺うお話です。

けれども、医師にとって知りたいのは、その情報が正しいかどうかだけではありません。むしろ、なぜそれが気になったのかのほうが大事なことがあります。「効かないと書いてあった」という言葉の裏に「最近、効いている実感がない」があるかもしれません。「この方法がいいらしい」の裏に「そろそろ薬を減らしたい」があるかもしれません。そちらこそ、診察で扱うべきことです。

切り出し方に迷うときは、次のような形が使いやすいと思います。

  • 「こういう記事を見たのですが、私の場合はどうでしょうか」
  • 「読んで不安になったので、確かめさせてください」
  • 「これを試してみたいのですが、いまの治療と一緒でも大丈夫ですか」

いずれも、答えを持ち込むのではなく、一緒に考えたいという形になっています。診察の時間は限られていますので、気になったことは短くメモにして持っていくと出しやすくなります。メモの作り方は診察の準備メモの記事にまとめています。

なお、質問すること自体がどうしても難しいと感じる状態が続くなら、それは情報の問題ではなく、相性や関係の問題かもしれません。その場合は主治医と合わない気がするときの記事や、転院・セカンドオピニオンの記事もご覧ください。

当院での実際

当院の診療対象は18歳以上の方です。

ご予約はデジスマによるWEB予約で承っており、初診の前にWEB問診にお答えいただきます。初診の所要時間の目安は、問診を含めて30分程度です。初診では、いま服用中のお薬に加えて、市販薬やサプリメントも確認しています。調べて試している健康食品やサプリメントがあれば、そのままお伝えください。飲み合わせを考えるうえで必要な情報ですし、伏せておく必要はまったくありません(市販薬・サプリメントと精神科の薬の記事もあわせてどうぞ)。

通院頻度の基本は2週間に一度です。一度の診察ですべてを話し切る必要はありません。気になったことをその都度お持ちいただければ十分です。

なお、ご家族のみでのご相談はお受けしていません。ご本人が受診に同意されたうえでの同席は可能です。ご本人が受診できない状況の場合は、お住まいの自治体の公的相談先、または受診を予定されている医療機関へお問い合わせください。

まとめ

調べた情報を診察に持ってくることは、まったく悪いことではありません。持ってきていただいたほうが、話がはやいことも多いのです。

そのうえで、4つの物差しをもう一度まとめます。

  1. 「差があった」と「暮らしで感じられる差」は別のこと。どのくらいの差なのかを見る
  2. 「関連がある」と「それが原因」は別のこと。一緒に起きているだけかもしれない
  3. その研究は誰を見たものか。自分と条件が違えば、そのままは当てはまらない
  4. 一本の研究と、積み重なった知見は重さが違う。新しい一本だけで方向を変えない

この4つは、情報を疑うための道具ではなく、受け取り方の幅を持つための道具です。「全部信じる」でも「全部でたらめだ」でもない、その中間に立てるようになると、健康情報はずいぶん扱いやすくなります。

そして、読んで生まれた迷いや不安は、一人で結論を出さずに診察へお持ちください。通院中の方は主治医にご相談を、身の安全に関わる緊急時はためらわず救急(119)をご利用ください。

当院は福岡県春日市の精神科・心療内科です。「ネットで見た話で不安になってしまって」という切り出し方で、まったく差し支えありません。受診をご希望の方は、WEB予約からご都合のよい日時をお選びください。

参考にした書籍

この記事は、次の書籍の記述を要約・再構成して作成しました(原文の転載ではありません)。

  • 僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。(後藤匡啓/羊土社)

よくある質問

診察で「ネットにこう書いてありました」と言ってもいいのでしょうか。

はい、遠慮なくおっしゃってください。調べること自体はごく自然な行動ですし、どんな情報が気になったのかは、その方がいま何を心配しているのかを知る手がかりになります。医師にとっては「その情報が正しいかどうか」よりも、「なぜそれが引っかかったのか」のほうが大事な情報であることも少なくありません。否定されるのではないかと心配せず、そのままお持ちください。

「統計学的に有意な差があった」と書いてあれば、効果があるということですか。

「統計学的に有意」は、偶然のばらつきだけでは説明しにくい差が見つかった、という研究の世界の言い方です。日常語の「意味がある」とは別の言葉だとお考えください。参加した人数が多い研究では、ごく小さな差でも「有意」と表現されることがあります。ですから「差があったかどうか」だけでなく、「どのくらいの差だったのか」「その差は暮らしのなかで感じ取れる大きさか」まで見ていただくと、受け取り方が変わります。

「効果がなかった」という記事を読みました。いま続けている治療をやめたほうがよいでしょうか。

記事を読んだその日に、ご自身だけで決めないでください。「差が確認できなかった」ことは「効果がないと確かめられた」ことと同じではありませんし、その研究が見ていた人たちがあなたと同じ条件とはかぎりません。また、薬によっては急にやめること自体が体調を乱すことがあります。迷いが生まれたときは、その迷いごと次の診察にお持ちいただくのがいちばん安全です。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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