「主治医に大きな不満があるわけではないけれど、なんとなく合わない気がする」「転院を考えているが、先生に言い出しにくい」――精神科や心療内科に通院している方から、こうしたお悩みを伺うことは決して珍しくありません。
体の病気と違って、こころの治療は医師との対話そのものが治療の一部です。だからこそ「合う・合わない」が気になりやすく、同時に「先生を裏切るようで申し訳ない」という気持ちも生まれやすいものです。
この記事では、転院やセカンドオピニオンを考えてよい場面、紹介状(診療情報提供書)の役割と頼み方、そして転院のときに薬を切らさないための段取りまで、順を追ってご説明します。
転院を考えるのは「悪いこと」ではありません
まずお伝えしたいのは、転院を考えること自体は、わがままでも失礼なことでもないということです。
精神科の治療は長く続くことが多く、その間には生活の変化もあれば、治療への疑問が生まれることもあります。医師の側も、患者さんが転院することは日常的に経験しており、「この患者さんには別の環境のほうが合うかもしれない」と考える場面は少なくありません。
また、医師と患者さんの相性は、どちらが悪いという話ではありません。説明が簡潔な医師が合う方もいれば、じっくり話を聞いてほしい方もいます。同じ医師でも、ある患者さんには「頼りになる」と感じられ、別の患者さんには「そっけない」と感じられることがあります。これは人と人との組み合わせの問題であり、前の医療機関や今の主治医が劣っているという意味ではありません。
「転院を考えている自分」を責める必要はない、ということを最初に押さえておいてください。
そのうえで、どんなときに転院を検討してよいのでしょうか。よくあるのは次のような場面です。
引っ越しや生活の変化で通院が難しくなった。 転居、転職、家族の事情などで通院距離が延びた場合、無理をして遠方に通い続けるより、生活圏内の医療機関に移るほうが治療を続けやすくなることがあります。
通院の負担が大きい。 待ち時間が長い、予約が取りづらい、診療時間と仕事の都合が合わないなど、通院そのものがストレスになっているケースです。通院がつらくて足が遠のくくらいなら、通いやすい環境に変えるのは合理的な選択です。
治療方針に疑問が解消されないまま残っている。 「この薬を続ける意味がわからない」「診断について納得できていない」といった疑問を伝えても十分な説明が得られず、不信感が積み重なっている場合です。
どうしても相性が合わないと感じる。 話しづらい、症状を正直に言えない、診察のたびに緊張してしまう――こうした状態が長く続くと、診察で必要な情報が医師に伝わらず、治療の質にも影響します。
一方で、「調子が悪い時期にたまたま診察が短かった」「一度きつい言い方をされた気がする」といった一時的な出来事だけで判断すると、後で「早まったかな」と感じることもあります。しばらく様子を見てから考える、という余裕があってもよいと思います。
転院の前に試せること
転院は選択肢のひとつですが、その前にできることもあります。
ひとつは、疑問や不安を診察の場で率直に聞いてみることです。「この薬はいつまで続けるのでしょうか」「診断名について、もう少し詳しく教えてください」「副作用が気になっています」――こうした質問は、医師にとって答えるのが当然のものです。遠慮して聞けずにいた疑問を口にしてみたら、きちんと説明してもらえて不信感が解消した、ということは実際によくあります。
診察時間が短くて言い出せない場合は、聞きたいことをメモに書いて渡す方法もあります。口頭よりも確実に伝わりますし、医師側も要点を把握しやすくなります。
もうひとつは、薬への不安をそのまま伝えることです。「薬を減らしたい」「この薬が合っていない気がする」という気持ちは、我慢して飲み続けたり、黙って自己調整したりするのではなく、言葉にして主治医に伝えてください。処方は対話のなかで調整していくものです。
また、精神科の薬には効果が出るまで数週間かかるものが多く、「効いていない気がする」と感じている時期が、実は効果が現れる少し手前だった、ということもあります。治療がうまくいっていないように見える理由が、医師との相性ではなく治療の途中経過にある可能性も、一度立ち止まって考えてみてください。判断に迷うときこそ、その迷いを診察で言葉にしていただくのがいちばんの近道です。
主治医との相性や、診察での伝え方を整理したい方は、主治医と合わないと感じたときの記事もあわせてご覧ください。
こうした働きかけをしてもなお状況が変わらないと感じたとき、転院やセカンドオピニオンが現実的な選択肢になってきます。
セカンドオピニオンと転院の違い
「セカンドオピニオン」と「転院」は混同されがちですが、意味が異なります。
セカンドオピニオンは、今の主治医のもとで治療を続けることを前提に、別の医師の意見を聞くことです。診断は妥当か、いまの治療方針は標準的か、ほかの選択肢はあるか――こうした点について第三者の視点をもらい、その結果をふまえて今の主治医との治療を続けていきます。主治医を替えるための手続きではありません。
転院は、主治医を替えて治療の場そのものを移すことです。
「診断や治療に疑問はあるが、先生との関係は悪くない」という場合は、まずセカンドオピニオンで疑問を確かめる、という順番が考えられます。別の医師から「いまの治療は妥当だと思います」と聞けて安心し、元の主治医との治療に前向きに戻れる方もいらっしゃいます。逆に、通院負担や相性の問題が中心であれば、最初から転院を検討するほうが話が早いこともあります。
どちらの場合も、これまでの治療内容が新しい医師に伝わることが大切です。そこで役に立つのが紹介状です。
紹介状(診療情報提供書)とは何か、なぜあったほうがよいのか
紹介状の正式名称は「診療情報提供書」といいます。これまでの診断、治療の経過、使ってきた薬とその反応、検査結果などを、医師から医師へ伝えるための書類です。作成には所定の費用がかかりますが、健康保険が適用されます。
紹介状があると何がよいのか。最大の利点は、同じ試行錯誤を繰り返さずに済むことです。
精神科の治療では、「この薬は効かなかった」「この薬は副作用が強かった」という経過そのものが、次の治療を選ぶうえで重要な手がかりになります。紹介状がないと、新しい医師はゼロから情報を集めることになり、過去に合わなかった薬を再び試すことになったり、診断の見立てに時間がかかったりする可能性があります。数年分の通院で積み上がった情報を、一枚の書類で引き継げる――それが紹介状の価値です。
セカンドオピニオンを受ける場合も同様で、意見を求められた医師は、経過の情報がなければ的確な意見を出しにくくなります。
もうひとつの利点は、患者さん自身の負担が減ることです。初診で数年分の経過を口頭で説明するのは、それだけでかなりの労力ですし、つらかった時期のことを一から話すのは心理的にもこたえます。紹介状があれば、事実関係の多くは書面で伝わり、診察の時間を「これからどうするか」の相談に使うことができます。
紹介状の頼み方――気まずさは思っているより小さい
「転院したいので紹介状をください」と主治医に言うのは、たしかに勇気がいります。しかし、ここで知っておいていただきたいことがあります。
紹介状の作成は、医師にとってごく日常的な業務です。 医師は日々、他院への紹介状を書き、他院からの紹介状を受け取っています。転院の申し出を「裏切り」と受け取る医師はまずいませんし、患者さんが自分に合う治療環境を選ぶのは当然の権利だと、多くの医師は考えています。あなたが何日も悩んだその依頼は、医師側では数ある事務作業のひとつとして淡々と処理されることがほとんどです。
伝え方は、理由を正直に言って構いません。「通院の負担が大きくて」「自宅の近くで診てもらいたくて」「治療について別の先生の意見も聞いてみたくて」――どれもよくある、まっとうな理由です。
とはいえ、面と向かって相性のことを言うのはつらい、という方もいるでしょう。その場合は、「引っ越すことになった」「家の近くに移りたい」など、言いやすい形で伝えても差し支えありません。 医師の側も、理由を深く詮索することは通常ありません。診察で言い出しにくければ、受付で「紹介状をお願いしたい」と伝えるだけで手続きできる医療機関も多くあります。
転院先が決まっている場合は医療機関名を伝え、決まっていない場合は「宛名なし(または「〇〇市内の精神科」など)で書いてほしい」と依頼できるかを相談してみてください。
紹介状なしで転院する場合に準備しておきたいもの
事情があって紹介状をもらわずに転院する場合も、受診は可能です。当院も紹介状なしの初診を受け付けています。ただ、その場合は次のものを準備していただくと、新しい医師に経過が伝わりやすくなります。
- お薬手帳:現在と過去の処方内容がわかる、最も重要な情報源です。必ずお持ちください。
- これまでの経過メモ:いつ頃から不調が始まったか、どの医療機関にいつからいつまで通ったか、診断名を聞いていればその名前、効いた薬・合わなかった薬、入院歴の有無などを、箇条書きで構わないのでまとめておくと役立ちます。
- 前の医療機関の診察券:通院期間や医療機関名の確認に使えます。
- 自立支援医療を利用している方は受給者証:転院に伴い指定医療機関の変更手続きが必要です。窓口となる自治体での手続きを忘れずに行ってください。
転院の空白期間に薬を切らさないために
転院で最も気をつけていただきたいのが、薬の空白期間をつくらないことです。
抗うつ薬や抗不安薬、睡眠薬などは、自己判断で急にやめると症状がぶり返したり、離脱症状(めまい、しびれ感、不安の増強など)が出たりすることがあります。「もうすぐ転院するから」と手持ちの薬が切れたまま過ごすのは避けてください。
安全な段取りは次のとおりです。
- 先に転院先の初診予約を取る。 精神科の初診は予約が数週間先になることもあります。
- 初診日までの日数を確認し、今の主治医にその分の処方をお願いする。「〇月〇日に転院先を受診予定なので、それまでの薬をお願いします」と伝えれば大丈夫です。
- 薬が切れそうなのに初診日がまだ先、という場合は、今の医療機関の受診を続ける。 転院を決めた後でも、空白を埋めるために今の主治医にかかることは何ら問題ありません。
また、転院先の初診では、新しい医師がまず経過の把握から始めるため、その日のうちに薬が大きく変わるとは限りません。当面は同じ処方を続けながら様子を見ることも多い、という見通しを持っておくと、「転院したのに変わらない」と焦らずに済みます。治療の連続性を保つことが、転院を成功させるいちばんの土台です。
なお、転院を決めたからといって、初診日より前に自己判断で通院や服薬をやめてしまうのは危険です。新しい主治医に引き継がれるその日まで、治療は続いているものとお考えください。
当院への転院を考えている方へ
当院(春日メンタルクリニック)は、福岡県春日市で精神科・心療内科の外来診療を行っています。他院からの転院のご相談も日常的にお受けしています。
- 初診はWEB予約からお取りいただけます。
- 紹介状をお持ちの方は初診時にご持参ください。 治療の引き継ぎがスムーズになります。
- 紹介状がなくても受診いただけます。 その場合は、お薬手帳とこれまでの経過のメモをお持ちいただけると助かります。
- 現在服薬中の方は、薬が切れないよう、初診日までの処方を現在の主治医にご相談のうえお越しください。
転院は、治療をやり直すことではなく、これまでの治療を次の場所へ引き継ぐことです。「合わないかもしれない」と感じながら通い続けることも、環境を変えてみることも、どちらもご自身の治療のための選択です。迷いがある段階でのご相談でも構いませんので、どうぞ安心してお越しください。
なお、強い希死念慮があるなど緊急を要する状態のときは、転院の手続きを待たず、現在の主治医・かかりつけの医療機関に連絡するか、状況によっては救急(119)を利用してください。
よくある質問
紹介状がなくても転院はできますか?
可能です。当院も紹介状なしで受診いただけます。ただし紹介状があると治療歴や薬の経過が正確に伝わり、同じ試行錯誤を繰り返さずに済みます。ない場合は、お薬手帳とこれまでの経過を書いたメモをお持ちいただくと診療がスムーズになります。
主治医に紹介状を頼むのが気まずいのですが、どう伝えればよいですか?
紹介状の作成は医師にとって日常業務のひとつで、転院の申し出で気分を害する医師はほとんどいません。理由を正直に伝えて構いませんし、「通院の負担」「引っ越し」など言いやすい形で伝えても問題ありません。受付で依頼できる医療機関も多くあります。
セカンドオピニオンと転院はどう違うのですか?
セカンドオピニオンは、今の主治医のもとで治療を続けることを前提に、別の医師の意見を聞くことです。転院は主治医を変えて治療の場を移すことを指します。診断や治療方針に疑問がある場合、まずセカンドオピニオンで確認してから考えるという選択肢もあります。
転院の間に薬が切れそうで不安です。どうすればよいですか?
自己判断で薬を中断すると症状がぶり返したり、離脱症状が出たりすることがあります。転院先の初診日を決めてから、今の主治医にそこまでの日数分を処方してもらうのが安全です。初診の予約が先になる場合は、その旨を現在の主治医に伝えてください。