福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
休診日: 水曜・木曜・日曜・祝日

「最近、娘の食事量が明らかに減っている」「食べたあとに長くお風呂やトイレにこもっている気がする」「体重の話になると人が変わったように怒る」――家族の食事のことで悩んで、この記事にたどり着いた方も多いと思います。

家族の目から見て食事の異変に気づいたとき、多くの方がまず「食べさせなければ」と考えます。それは自然な反応です。けれども、摂食障害が背景にある場合、正面からの説得はうまくいかないどころか、関係をこじらせてしまうことが少なくありません。

この記事では、摂食障害が疑われる家族にどう声をかけ、どう接すればよいのか、受診をすすめるときの伝え方、そして支える側であるご家族自身のケアについてお伝えします。

「食べなさい」が逆効果になりやすい理由

摂食障害、特に食事を制限するタイプでは、「食べないこと」は単なる好き嫌いや意地ではなく、症状そのものです。本人の中では、食べることへの強い不安や恐怖、「体重が増えたら大変なことになる」という切迫した感覚が働いています。周囲には不合理に見えても、本人にとっては現実的な恐怖です。

この状態で「食べなさい」「そんなに痩せて心配だから一口だけでも」と説得すると、次のようなことが起こりがちです。

  • 本人は「わかってもらえない」と感じ、心を閉ざす
  • 食卓が「監視と説得の場」になり、家族と食事をすること自体を避けるようになる
  • 言い合いになり、本人はますます食事を隠すようになる

食べられないのは、本人が家族を困らせたいからではありません。「食べなさい」という言葉は、症状と本人を切り分けずに、本人の意思の問題として扱ってしまうため、抵抗を強めやすいのです。

説得の代わりにできるのは、食事量そのものではなく、体調や気持ちへの心配として伝えることです。「最近眠れている?」「疲れているように見えて心配」といった言葉のほうが、本人が受け取れる余地が残ります。

体型・体重の話題は避ける

もう一つ大切なのは、体型や体重に関する話題を、良い意味でも悪い意味でも避けることです。

  • 「痩せたね」――心配のつもりでも、本人には「努力の成果を認められた」というメッセージになることがあります
  • 「少しふっくらしてきたね、よかった」――回復を喜ぶ言葉のつもりでも、本人には「太った」と聞こえ、強い不安を引き起こすことがあります
  • 「そんなに細くて大丈夫?」――体型への注目そのものが、本人の体型へのとらわれを強めます

つまり、体型に触れる言葉は、どの方向であっても本人の「体型・体重で自分の価値をはかる」考え方を刺激してしまうのです。家族自身のダイエットの話や、テレビを見ながらの「この人痩せてきれい」といった何気ない会話も、本人には強く響くことがあります。

言及するなら、体型ではなく健康面の変化に焦点を当ててください。「顔色がよくない気がして心配」「ふらついているのが気になる」といった伝え方であれば、本人の体型への評価を含まずに心配を伝えられます。

痩せが進んだときに体に現れる危険なサインについては、拒食症の体のサインに関する記事で詳しく解説しています。また、過食や嘔吐が中心となるタイプについては、過食症・むちゃ食い症の記事を参考にしてください。

食事以外の会話と時間を保つ

摂食障害のある方の生活は、食べ物・体重・カロリーのことで頭の中が占められていきます。家族が食事のことばかり話題にすると、家庭の中でも本人の世界が「食」一色になってしまいます。

だからこそ、家族にできる大切なことの一つが、食事以外の会話と時間を意識して保つことです。

  • 好きだった音楽、ドラマ、ペット、共通の思い出など、食と関係のない話題をいつも通りに話す
  • 「食べたかどうか」を毎回確認する習慣をやめる
  • 一緒に散歩する、買い物に行くなど、食卓以外の場面で一緒に過ごす時間を持つ

これは問題から目をそらすことではありません。「あなたの価値は食べたかどうかで決まらない」「病気の部分だけでなく、あなた自身を見ている」というメッセージを、言葉ではなく日常の関わりで伝えることです。病気に飲み込まれていない本人の部分とつながり続けることが、回復の土台になります。

責めない、監視しすぎない

家族が疲れてくると、関わり方が両極端に振れやすくなります。

一つは責める方向です。「どうして食べないの」「家族がこんなに心配しているのに」「いい加減にして」――疲弊した家族から出てしまいがちな言葉ですが、本人は多くの場合、すでに自分を強く責めています。そこに家族からの叱責が加わると、罪悪感が深まり、症状を隠す方向に向かいやすくなります。

もう一つは監視の方向です。食事中ずっと見ている、トイレのあとを気にする、こっそり体重計の数字を確認する――心配からの行動ですが、本人には「信用されていない」「見張られている」と伝わり、隠れて食べ吐きをする、家で食事をしなくなるなど、かえって行動が見えなくなることがあります。

現実には、責めることも監視することも、心配の裏返しです。完璧にやめる必要はありませんが、「監視や叱責で症状は良くならない」ということは知っておいてください。家族の役割は、症状をコントロールすることではなく、本人が安心していられる場所を保つことです。言いすぎてしまった日は、「さっきは言いすぎた。心配だったの」と伝え直せば十分です。

受診をすすめるときの伝え方

摂食障害は、本人が「自分は病気ではない」「痩せているほうがいい」と感じていることが多く、受診のハードルが高い病気です。すすめ方には工夫が要ります。

「痩せすぎだから病院に行きなさい」ではなく、本人のつらさを入り口にする。 体重や食事を理由にすると抵抗が強くなりがちですが、本人自身も、眠れない、疲れやすい、集中できない、気分が沈む、体が冷える、といったつらさは感じていることが多いものです。「眠れていないのがつらそうだから、一度体のことを相談してみない?」という形のほうが受け入れられやすくなります。

脅さない、条件をつけない。 「行かないなら〇〇させない」といった圧力は、その場では効いても信頼を損ないます。「あなたを責めるためじゃなく、心配だから」という軸を繰り返し伝えてください。

一度断られても、扉を閉めない。 受診のすすめは一回勝負ではありません。「気が変わったらいつでも言って。一緒に行くから」と伝えて、時間を置いてまた話せる関係を保つことが大切です。

命に関わるサインがあるときは待たない。 著しい低体重で立ち上がれない、意識がもうろうとする、嘔吐のあとの強い動悸や脱力などがある場合は、本人の同意を待って精神科受診を調整するより、内科や救急の受診を優先してください。意識障害やけいれんなど緊急の場合は救急(119)です。

本人がどうしても受診したがらない場合の考え方は、受診を嫌がる家族への接し方の記事でも詳しく扱っています。あわせてお読みください。

当院での実際

当院での摂食障害に関わるご家族からのご相談について、実際の運用をお伝えします。

まず大切な点として、当院では、ご本人が受診されないままご家族のみでご相談いただくことはお受けしていません。ご本人が受診を希望され、同席に同意されている場合には、ご家族が診察に同席していただくことは可能です。ご本人の視点と、日常を近くで見ているご家族の視点の両方があると、状態の把握に役立つことは多くあります。

ご本人がどうしても受診に至らない段階では、お住まいの地域の保健所・精神保健福祉センターなどの公的相談先に相談するか、受診を検討している医療機関に「家族からの相談が可能か」を事前に問い合わせて確認していただく形をおすすめしています。

受診の流れとしては、予約はデジスマのWEB予約で受け付けており、初診の前にはWEB問診にお答えいただきます。問診の段階で、食事や体重のことで心配している内容をご記入いただけると、初診がスムーズになります。初診の所要時間は30分程度が目安です。通院が始まった場合、通院頻度は2週間に一度が基本です。

なお、摂食障害は身体面の管理が重要な病気であり、低体重が著しい場合や身体的な危険がある場合には、体の管理ができる医療機関や専門的な入院治療が優先されることがあります。当院ではこれらは行っておらず、実施している医療機関はご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

支える家族自身の疲弊へのケア

最後に、この記事を読んでいるあなた自身のことです。

摂食障害のある方を支える家族は、長い経過の中で確実に消耗します。毎日の食事のたびに緊張し、言葉を選び、良くなったと思えばまた戻り、「自分の育て方が悪かったのか」と自分を責める――こうした状態が続けば、誰でも疲れ果てます。

知っておいてほしいことが三つあります。

家族のせいで起こる病気ではありません。 摂食障害は、性格・環境・社会的な影響など多くの要因が重なって生じる病気です。育て方や家庭環境だけが原因ということはありません。自分を責め続けることは、あなたを消耗させるだけでなく、本人との関わりの余裕も奪います。

家族が全部を引き受ける必要はありません。 症状を治すのは家族の仕事ではなく、治療の仕事です。家族の役割は、本人の生活の土台と関係を保つことであって、24時間の見張り番になることではありません。

あなた自身の生活を手放さないでください。 自分の睡眠、食事、仕事、息抜きの時間を保つことは、わがままではなく、支え続けるための必須条件です。もしあなた自身が眠れない、食欲がない、気分の落ち込みが続くという状態になっているなら、あなた自身が医療機関に相談することも考えてください。支える側の心身が守られていることが、結果的に本人の回復の支えになります。

家族の食事の心配は、先の見えない不安を伴います。けれども、摂食障害は治療によって回復していく病気です。正しい知識を持ち、本人を責めず、体型の話題から距離を取り、食事以外のつながりを保つ――今日からできることは確かにあります。一人で抱え込まず、公的相談先や医療機関への問い合わせも活用しながら、長い目で歩んでいきましょう。

よくある質問

食べない家族に「食べなさい」と言ってはいけないのですか?

心配のあまり口にしてしまうのは自然なことですが、摂食障害が背景にある場合、「食べなさい」という直接の説得は本人の抵抗を強め、食事の場が対立の場になってしまうことが少なくありません。食べられないのはわがままではなく、症状として食べることへの強い不安や恐怖があるためです。食事量そのものを議題にするより、「最近眠れている?」「疲れていない?」など体調への心配として伝えるほうが、本人が受け取りやすい傾向があります。

痩せたことを本人に指摘してもいいですか?

体型や体重に直接触れる言葉は、ほめる方向でも心配する方向でも、慎重にしたほうがよいと考えられます。「痩せたね」は本人にとって「努力が実った」という達成の確認になることがあり、「ちゃんと食べているの?」は監視されている感覚を強めることがあります。伝えるなら、体型ではなく「顔色がよくないのが心配」「ふらついていて心配」といった健康面の変化に焦点を当てる形が比較的受け取られやすいです。

家族だけで先に相談に行くことはできますか?

当院では、ご本人が受診されないままご家族のみでご相談いただくことはお受けしていません。ご本人が受診を希望され、同席に同意されている場合には、ご家族の同席は可能です。ご本人がどうしても受診に至らない場合は、お住まいの地域の保健所・精神保健福祉センターなどの公的相談先か、受診を検討している医療機関に、家族からの相談が可能かどうかを事前に問い合わせて確認していただくことをおすすめします。

命に関わる状態かどうか、どこで判断すればよいですか?

著しい低体重、立ち上がれない・意識がもうろうとする、繰り返す嘔吐のあとの動悸や脱力など、身体の危険を疑うサインがある場合は、精神科の予約を待たずに内科や救急の受診を優先してください。意識がない、けいれんしているなど緊急性が高い場合は救急(119)を呼んでください。すでに通院中の方は、まず主治医に相談してください。摂食障害は精神面だけでなく身体面の管理が重要な病気です。

このテーマの記事を探す

症状や困りごとから探し直す

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

WEB予約