福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
休診日: 水曜・木曜・日曜・祝日

明らかに眠れていない。食事の量が減り、口数も減って、仕事から帰るとすぐ部屋にこもってしまう。心配して「一度病院に行ってみたら?」と声をかけると、「大丈夫」「病気じゃない」「放っておいて」と拒まれてしまう――。

ご家族のこうした悩みは、決して珍しいものではありません。心の不調では、本人よりも先に周囲が異変に気づくことがよくあります。そして、心配すればするほど言葉が強くなり、本人は頑なになり、家の空気まで重くなる、という悪循環に入ってしまいがちです。

この記事では、本人が受診を嫌がる背景にある心理、説得や正論がかえって逆効果になる理由、無理強いせずに受診への一歩を後押しする声かけの工夫、そして見落とされがちな「家族自身のケア」について、福岡県春日市の精神科・心療内科の視点からお伝えします。

なぜ本人は受診を嫌がるのか――拒否の裏にある心理

「あんなにつらそうなのに、なぜ病院に行こうとしないのか」。家族には理解しがたいこの態度の裏には、いくつかの心理が働いていると考えられます。

「自分は病気じゃない」という否認

心の不調を認めることは、本人にとってとても怖いことです。「病気だと認めたら、自分が壊れてしまう気がする」「弱い人間だと認めることになる」――そんな思いから、無意識のうちに不調を否定してしまうことがあります。これは強がりというより、心を守るための自然な反応でもあります。

なお、この「自分は病気じゃない」という言葉は、気持ちの上での否定だけで説明できるとは限りません。精神医学では、「いつもと違う」という実感と、自分が病気だと分かることを、別のものとして分けて考えます。この見かたについては病識とは?で解説しています。

精神科への偏見・周囲の目への不安

「精神科に通っていると知られたら、会社での評価に響くのではないか」「近所の人に見られたらどうしよう」という不安は、いまも受診の大きな壁になっています。実際には精神科・心療内科の受診はずっと身近なものになっていますが、本人の中のイメージが昔のままで止まっていることは少なくありません。

「これくらいで受診するなんて大げさだ」という過小評価

うつ状態のときは、自分の状態を正しく評価する力そのものが低下することがあります。「みんな疲れている」「自分の頑張りが足りないだけ」と、不調を性格や努力の問題にすり替えてしまうのです。

過去の医療体験への失望・「連れて行かれる」ことへの恐れ

以前に受診したときの経験――話をよく聞いてもらえなかった、薬を飲んで嫌な思いをした、本意でない形で入院になった――が心の傷として残り、医療そのものへの警戒につながっている場合があります。地域で医療につながりにくい方を支援する専門家の間でも、医療の中断や拒否の背景に過去のつらい治療体験があることは古くから指摘されています。この場合、「病院」という言葉自体が本人にとって脅威になっており、拒否は「わがまま」ではなく、自分を守るための反応です。

また、「病院に連れて行かれるのではないか」「無理やり入院させられるのではないか」という恐れから、家族の心配そのものを警戒してしまうこともあります。だからこそ、後述するように「本人の意思を無視して連れて行く」方法は避けたいのです。

疲れすぎていて、動けない

見落とされがちですが、とても重要な点です。不調が深まると、病院を調べる・予約を取る・出かけるという一連の行動そのものが、大きすぎるハードルになります。「行きたくない」のではなく「行く気力が残っていない」場合、必要なのは説得ではなく、手続きの負担を減らす手助けです。

説得・正論・脅しが逆効果になる理由

心配のあまり、家族はつい次のような言葉を口にしてしまいます。

  • 「絶対おかしいよ。病気だよ」(断定)
  • 「早く行かないと手遅れになるよ」(脅し)
  • 「あなたのためを思って言ってるのに」(善意の押しつけ)
  • 「行かないなら、もう知らないから」(突き放し)

これらはどれも、本人を追い詰める方向に働きやすい言葉です。理由ははっきりしています。説得は、本人の「否認」と正面衝突するからです。

本人は「自分は病気ではない」と思うことで、かろうじて心の均衡を保っています。そこに「病気だ」という正論をぶつけると、本人は自分を守るためにさらに強く否定するしかなくなります。議論に勝てば勝つほど、本人の心は閉じていく――受診の説得には、そういう構造があります。

また、脅しや突き放しは「家族は敵だ」「誰も分かってくれない」という孤立感を深めます。心の不調からの回復には安心できる居場所が大切とされており、家庭が「受診をめぐる戦場」になってしまうことは、それ自体が回復の妨げになりかねません。

まず目指したいのは、「受診させること」ではなく、「この人には本音を話しても大丈夫だ」と思ってもらうことです。遠回りに見えて、これが受診への一番の近道になることが多いのです。

「だまして連れて行く」は避けてください

「別の用事だと言って病院に連れて行く」「本人に知らせず家族だけで話を進めてしまう」という方法は、切羽詰まった家族が思いつきやすいものですが、おすすめできません。その場では受診が実現しても、本人には「信頼していた家族にだまされた」という体験が残ります。この傷は、家族関係だけでなく、医療への信頼、その後の通院の継続にまで長く影響することがあります。

支援の専門書でも、「医療につなぐこと」自体を第一の目的にせず、本人の生活と気持ちを中心に据えること、本人の意思を置き去りにした支援はかえって傷を深めうることが強調されています。急がば回れ――本人の納得を少しずつ育てることが、結局は一番の近道です。

ただし、これは待つ余裕がある状況での話です。自分や他人を傷つけそうな切迫した言動があるときは、後述の「緊急性が高いサイン」の項をご覧ください。命に関わる状況では、説得の工夫よりも主治医への連絡や救急(119)の利用が優先されます。

効果的な声かけ――「症状」ではなく「困りごと」から入る

では、どう声をかければよいのでしょうか。ポイントは3つあります。

1. 病名ではなく、本人が自覚している困りごとを入口にする

「うつじゃない?」という切り口は否認を招きますが、「最近、眠れてる?」という切り口なら、本人も「そういえば眠れていない」と認めやすいものです。不眠・食欲・疲れといった身体の困りごとは、心の不調のなかで本人が最も自覚しやすく、かつ「病気を認める」ほどの心理的負担なしに話せるテーマです。

  • 「最近眠れてないみたいだけど、体はきつくない?」
  • 「食欲が落ちてるように見えるけど、大丈夫?」
  • 「疲れが取れてないんじゃない?」

そこから「眠れないのがずっと続くのはつらいよね。眠れるように相談だけでもしてみない?」と、「病気の治療」ではなく「困りごとの相談」として受診を提案すると、ハードルはぐっと下がります。

2. 「あなた」を主語にせず、「私」を主語にする(Iメッセージ)

「あなたはおかしい」「あなたは病院に行くべきだ」というYouメッセージは、非難として届きます。代わりに、私(I)を主語にした伝え方を意識してみてください。

  • ×「あなた、絶対に病気だよ」→ ○「私は最近のあなたを見ていて、心配でたまらないの」
  • ×「早く病院に行きなさい」→ ○「私が安心したいから、一度診てもらってくれると嬉しい」

Iメッセージは相手を裁かないため、反発を招きにくく、「家族が本気で心配している」という事実だけがまっすぐ伝わります。

3. タイミングを選び、一度で決めようとしない

同じ言葉でも、伝えるタイミングで受け取られ方はまったく変わります。口論の直後や本人がいらだっているとき、飲酒しているときは避け、落ち着いて話せる時間を選んでください。特に、本人が「つらい」「眠れない」「もう無理かもしれない」と弱音をこぼした瞬間は、最も自然な提案のチャンスです。「そんなにつらいなら、一度相談してみようか。予約は私がしておくよ」と、すっと差し出すことができます。

そして、一度断られても失敗ではありません。種をまくつもりで、間隔をあけて何度か伝える。断られたら深追いせず、「分かった。でも心配してることは覚えておいてね」と引く。この「押しては引く」の繰り返しが、本人の中で少しずつ受診を選択肢に変えていきます。

支援の現場でも、警戒の強い方には受診の話から入らず、本人の興味のあること、外出、家事といった日常の話題から関係を作り、本人のペースで不安や核心の困りごとを話せるようになるのを待つことが大切とされています。家庭でも同じです。受診の話題だけが会話のすべてにならないよう、ふだんどおりの雑談や食事の時間を保つこと自体が、本人にとっての安全基地になります。

精神科に抵抗が強いなら――内科や健康診断を入口にする

どうしても「精神科」という響きに抵抗が強い場合は、入口を変えるという方法があります。

不眠、食欲不振、体重減少、頭痛、めまい、動悸、胃の不調――心の不調は、こうした身体症状として現れることが少なくありません。身体症状があるなら、「体の調子が心配だから、かかりつけの内科で診てもらおう」という誘い方は、本人にとって受け入れやすい選択肢です。会社や自治体の健康診断・人間ドックをきっかけにするのも自然な流れです。

内科で検査をして体に大きな異常がなければ、それは「では、この不調はどこから来ているのか」を考える材料になります。医師から「ストレスの影響かもしれないので、心療内科で相談してみては」と勧められれば、家族の言葉よりも受け入れやすいことがよくあります。体の症状と心の不調のつながりについては、自律神経失調症のページも参考になります。

また、実際に受診する段になったら、家族が手続きの負担を減らしてあげてください。前述のとおり、不調時は「調べる・予約する・行く」こと自体が高いハードルです。医療機関を調べる、WEB予約を代わりに取る(本人の了解を得て)、当日付き添う――こうした実務的な支えが、最後のひと押しになります。初診の流れが分かっていると本人の不安も減りますので、初めての方へのようなページを一緒に見ておくのもよい方法です。

それでも受診に至らないとき――家族だけで抱え込まない

声かけを工夫しても、入口を変えても、本人がどうしても受診に踏み出せないことはあります。そのとき知っておいていただきたいのは、「本人が受診しない=何もできない」ではないということです。

地域には、家族が相談できる窓口があります

お住まいの地域の保健所市区町村の精神保健相談精神保健福祉センターでは、本人がまだ医療につながっていない段階でも、家族からの相談を受け付ける仕組みがあります。状況によっては、保健師が家庭を訪問して本人や家族の話を聞くなど、こちらから出向かなくても支援が届く形(アウトリーチ=訪問型の支援)が検討されることもあります。

こうした訪問型の支援について書かれた精神科の専門書では、支援の目的を「医療につなぐこと」に置くのではなく、まず本人がどう暮らしたいかを支えることに置く姿勢が繰り返し強調されています。焦って医療に押し込もうとするより、本人の生活の困りごとから関係を作っていくほうが、結果的に医療にもつながりやすい――家庭での関わりにも通じる考え方です。

また、本人が自分の状況を判断できる状態で支援を望んでいないなら、状況が悪化しない範囲で「今は待つ」という選択も誤りではないとされています。家族が「今日説得できなかった」と自分を責める必要はありません。待つ間も、地域の窓口や受診を検討している医療機関とつながっておくことで、本人が「行ってみようかな」と思った瞬間に動ける準備ができます。

なお、当院を含め外来の医療機関では、ご本人の受診(およびご本人の同意のうえでの同席)という形でのご相談をお受けしています。ご本人が受診をためらっている段階での進め方は、上記の公的な相談窓口、または受診を検討している医療機関に問い合わせてご確認ください。

緊急性が高いサインを見逃さないでください

一方で、待ってよい状況と、待ってはいけない状況があります。

  • 「死にたい」「消えてしまいたい」という言葉や、自分を傷つける行動がある
  • 他の人を傷つけてしまいそうな切迫した言動がある
  • 食事や水分がほとんど取れていない、衰弱が進んでいる

こうしたサインがあるときは、説得の工夫を続けている場合ではありません。通院中であれば主治医に連絡し、命に関わる切迫した状況ではためらわず救急(119)を利用してください。

家族自身のケアを忘れないでください

最後に、この記事で一番お伝えしたいことのひとつです。支える家族自身の心の健康も、同じくらい大切です

受診を拒む本人を見守る日々は、想像以上に消耗します。「私の接し方が悪かったのだろうか」と自分を責めたり、腫れ物に触るような生活で神経をすり減らしたり、心配と苛立ちの間で気持ちが揺れたり。家族が先に疲れ果ててしまうケースは、決して珍しくありません。

  • 自分を責めないでください。 ご家族の対応のせいで心の不調が起こるわけではありません
  • 自分の生活を犠牲にしすぎないでください。 仕事、趣味、友人との時間など、本人と関係のない自分の時間を意識的に確保することは、罪悪感を持つことではなく、支え続けるために必要なことです
  • ひとりで抱え込まないでください。 信頼できる人に話すだけでも負担は変わります。ご家族自身の不眠や気分の落ち込みが続いているなら、ご家族ご自身が精神科・心療内科に相談することも、どうか選択肢に入れてください

家族に余裕があること――それ自体が、本人にとって安心できる環境をつくり、回復を支える力になります。

まとめ――「行かせる」ではなく「行ってみようかな」を育てる

本人が受診を嫌がる背景には、否認、偏見への不安、不調の過小評価、そして「動く気力すら残っていない」状態など、さまざまな心理があります。説得・正論・脅しは否認と正面衝突して逆効果になりやすく、有効なのは、病名ではなく「眠れてる?」という困りごとの切り口、「私は心配している」というIメッセージ、弱音をこぼした瞬間を逃さないタイミング、そして内科や健診を入口にする工夫です。断られても種まきと考えて、押しては引くを繰り返してください。

それでも受診に至らないときは、家族だけで抱え込まず、保健所や市区町村の精神保健相談、精神保健福祉センターなどの公的な窓口、または受診を検討している医療機関に問い合わせてご確認ください。また、自分や他人を傷つけてしまいそうな言動があるなど緊急性が高いときは、通院中であれば主治医に連絡し、命に関わる切迫した状況ではためらわず救急(119)を利用してください。

当院は福岡県春日市の精神科・心療内科です。眠れない、食欲がない、気力が出ないといった不調のご相談を、WEB予約でお受けしています。ご本人が「相談だけなら」と思えたときに一歩を踏み出しやすいよう、診察のなかで状態を整理し、進め方を一緒に考えます。ご家族の心配が、ご本人の回復の入口につながりますように。

参考にした書籍

  • 『精神科治療学』第36巻第4号 特集「精神科におけるアウトリーチの勧め」(星和書店、2021年)

※本記事は上記の専門誌の内容を参考に、一般向けに要約・再構成したものです。個別の状況については、公的な相談窓口や医療機関にご相談ください。

よくある質問

本人が「自分は病気じゃない」と言い張ります。どう対応すればよいですか?

正面から「病気だよ」と説得するのは、多くの場合逆効果です。本人にとって「病気を認めること」は怖いことであり、否定は自然な心の防衛でもあります。病名や受診の話はいったん脇に置き、「最近眠れてる?」「食欲はどう?」など、本人自身も自覚しやすい困りごとに焦点を当てて対話を続けるほうが、結果的に受診につながりやすいとされています。

精神科に抵抗が強い場合、内科から受診してもよいのでしょうか?

はい、ひとつの現実的な方法です。不眠・食欲不振・だるさ・頭痛などの身体症状があれば、「体の調子を診てもらおう」とかかりつけの内科や健康診断を入口にすることができます。内科で心の不調の関与が疑われれば、医師から精神科・心療内科の受診を勧めてもらえることがあり、家族が言うより本人が受け入れやすい場合があります。

受診を勧めるタイミングはいつがよいですか?

本人が「つらい」「眠れない」「もう限界かもしれない」と弱音をこぼした瞬間が、最も自然なタイミングとされています。逆に、口論の直後や本人が興奮しているとき、酔っているときに持ち出すと、受診の話そのものが「攻撃」として受け取られやすくなります。落ち着いて話せる時間帯を選び、一度で決めようとせず何回かに分けて伝えるのがコツです。

本人がどうしても受診しないとき、家族はどうすればよいですか?

まず、家族だけで抱え込まないことが大切です。ご本人が受診をためらっている場合の進め方については、受診を検討している医療機関に問い合わせてご確認ください。また、お住まいの地域の保健所や市区町村の精神保健相談、精神保健福祉センターでは、本人が受診していない段階でも家族が相談できる仕組みがあります。自分や他人を傷つける恐れがあるなど緊急性が高い場合は、通院中であれば主治医に連絡し、命に関わる切迫した状況ではためらわず救急(119)を利用してください。

本人をだまして病院に連れて行ってもよいですか?

おすすめできません。「買い物に行こう」と言って病院に連れて行くなどの方法は、その場では受診につながっても、本人にとって「信頼していた家族にだまされた」という体験として残り、その後の家族関係や治療への信頼を大きく損なうことがあります。過去に不本意な形で医療につながった経験が、のちの受診拒否の背景になっている場合もあると専門書でも指摘されています。時間はかかっても、本人の納得を少しずつ育てる関わりのほうが、結果的に治療の継続につながりやすいと考えられます。ただし、自分や他人を傷つける恐れがあるなど命に関わる切迫した状況は別で、そのときは説得の工夫を続けるのではなく、通院中であれば主治医に連絡し、ためらわず救急(119)を利用してください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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