はじめに
「わたし、ほんとうは女の子(男の子)なの」――。ある日、子どもからそう打ち明けられたら、多くの親御さんは驚き、どう答えてよいかわからなくなると思います。
「一時的なものだろうか」「私の育て方がいけなかったのだろうか」「これからどうなるのだろう」。頭の中をさまざまな思いが駆けめぐるのは、ごく自然なことです。
この記事では、性別に違和感をもつ子どもについて書かれた専門書の内容をもとに、親御さんがまず知っておきたい基本的な考え方を整理します。医学的な治療の是非を論じるものではなく、「否定せずに聴く」「必要なときに専門機関につながる」という、ご家庭でできる最初の一歩に焦点をあてます。
「性別への違和感」とはどういうことか
からだの性別と、自分が感じている性別(性自認)とのあいだにずれがあり、そのことに苦痛を感じる状態は、医学的には「性別違和」と呼ばれています。
かつては「性同一性障害」という診断名が使われていましたが、現在の国際的な診断分類では名称が見直され、病気として扱うよりも、本人が感じている苦痛に目を向け、多様性の一つとしてとらえる方向へと変わってきています。世界保健機関の分類でも、精神疾患の枠組みから外す方向で整理が進みました。
もう一つ、混同されやすい概念として「性的指向」があります。誰を好きになるか(性的指向)と、自分の性別をどう感じるか(性自認)は、まったく別のことです。子ども自身も、自分の感じている違和感をうまく言葉にできず、混乱していることが少なくありません。だからこそ、周囲の大人が急いで「こういうことでしょう」と決めつけないことが大切になります。
まず知っておきたいこと――育て方が原因ではありません
親御さんが最初に苦しみやすいのが、「自分の育て方のせいではないか」という自責の念です。
この点について、専門書でははっきりと、性別への違和感は育て方が原因で生じるものではない、と説明されています。性のあり方はもともと多様なものであり、親の関わり方がそれを作り出したわけではありません。
原因については、からだの性別が決まる過程と、性自認が形づくられる過程との関係などが研究されていますが、はっきりした結論は出ていません。ただ、どの研究の立場をとっても、「親の育て方が悪かったから」という説明にはならない、という点は共通しています。ご自分を責める必要はないのです。
打ち明けられたときの受け止め方
子どもが性別への違和感を親に伝えるのは、とても勇気のいることです。実際には、幼いころから違和感を抱えていても、小学生のうちに言葉で伝えられた子どもは少なく、長いあいだ一人で抱え込んでいたと考えられるケースが多いとされています。
打ち明けられたときの基本の姿勢は、次のようなものです。
- すぐに評価や判断をしない。 「気のせいよ」「そんなはずない」と否定することも、逆に急いで結論を出すことも、どちらも急がない
- まず、話してくれたことに感謝を伝える。 「話してくれてありがとう」という一言が、子どもにとって大きな安心になります
- さえぎらず、最後までゆっくり聴く。 親の意見を伝えるのは、子どもの話を聴き終えてからでも遅くありません
そしてもう一つ、とても重要なことがあります。本人の同意なく、その内容を第三者に伝えないということです。これは「アウティング」と呼ばれ、たとえ支援のつもりであっても、本人を深く傷つけ、追い詰めてしまうことがあります。学校の先生や親族に相談したいときも、「誰に、どこまで話してよいか」を必ず本人と相談してから決めてください。
子どもの性別の感じ方は「揺らぐ」ことがあります
もう一つ、親御さんに知っておいていただきたいのは、子どもの性別についての感じ方は、発達の途中で揺らぐことが自然だ、という点です。
専門書では、子どものころに性別への違和感があっても、思春期・成人期にそのまま持ち越さない例が少なくないという研究報告が紹介されています。一方で、第二次性徴でからだが変化する時期に苦痛が強まり、その後も違和感が続いていく例もあります。
つまり、「一時的なものに決まっている」と軽く見ることも、「この子は一生こうなのだ」と早くから決めてしまうことも、どちらも適切ではありません。専門家のあいだでも、支援に決まった型はなく、本人の希望を聴きながら、家族や学校と一緒にその子に合った関わり方を考えていくことが基本とされています。
親にできるのは、揺らぎも含めてそのまま受け止めながら、本人が話したいときに話せる関係を保っておくこと、そして必要になったときに専門機関へつながれるよう準備しておくことです。先回りして何かを決めてしまうのではなく、本人の意思を尊重することが軸になります。
学校との連携と、専門機関への相談
学校でできる配慮
文部科学省は2015年に、性同一性障害等の児童生徒へのきめ細かな対応を求める通知を出しており、学校現場では、服装や髪型、更衣の場所、呼び方、体育や宿泊行事での配慮など、個別の状況に応じた対応の実例が積み重ねられています。学校に相談する際は、繰り返しになりますが、本人の同意を得たうえで、誰に何を共有するかを決めていくことが前提です。
専門機関への橋渡し
性別違和についての専門的な評価や継続的な支援は、ジェンダー外来など、この分野を専門とする医療機関が担います。専門機関では診療だけでなく、学校への説明や、同じ立場の仲間と出会えるピアサポートグループの紹介など、生活を支える役割も果たしています。お住まいの地域にどのような専門外来があるか、自治体の相談窓口や学校のスクールカウンセラーを通じて調べることもできます。
なお、インターネットやSNSには当事者向けの情報も多くありますが、誤った情報や匿名でのやりとりに伴うトラブルもあるため、子どもが一人で抱え込んだままネットの情報だけを頼りにしないよう、緩やかに気にかけてあげてください。
親自身の気持ちの揺れも、自然なことです
わが子から打ち明けられた親の気持ちは、一直線に「受容」へ進むわけではありません。受け入れようとする気持ちと、戸惑いや否定したい気持ちとが交互に現れながら、らせん階段をのぼるように行きつ戻りつ進んでいく――専門書では、親の受容の過程はそのようなものだと説明されています。
気持ちが揺れること自体は、親として自然なことです。揺れる自分を責める必要はありません。ただ、その揺れを子ども本人に直接ぶつけ続けてしまうと、子どもは「やはり言わなければよかった」と口を閉ざしてしまいます。親御さん自身の戸惑いやつらさは、子どもとは別の場所で――信頼できる相談先や、必要であれば医療機関で――受け止めてもらうことを考えてみてください。
お子さんの様子で心配なことがあるとき、たとえば学校に行きづらくなっているときは、子どもが学校に行けないときの記事も参考になります。また、思春期のお子さんが受診自体をいやがる場合の考え方は、本人が受診を嫌がるときの記事で扱っています。
当院での実際
当院の診療対象は18歳以上の方です。お子さんの診療や、性別違和そのものの専門診療(専門的な評価や身体的治療)は行っておらず、この記事はご家族に向けた医療情報の紹介として掲載しています。
お子さんの支援は、上で述べたとおり、ジェンダー外来などの専門機関が担う領域です。学校のスクールカウンセラーや自治体の相談窓口を通じて、お住まいの地域の専門外来を調べることから始めてみてください。
なお、お子さんのつらさが強く、自分を傷つけたい気持ちが差し迫っていると感じられる場合は、記事を読むより先に、救急(119番)または通院中の主治医に連絡してください。
まとめ
- 性別への違和感は、病気というより多様性の一つとしてとらえる方向に、国際的な考え方が変わってきています
- 育て方が原因ではありません。親御さんが自分を責める必要はありません
- 打ち明けられたら、否定も断定もせず、「話してくれてありがとう」から始めて最後まで聴くこと
- 本人の同意なく第三者に伝えること(アウティング)は避けてください
- 子どもの性別の感じ方は揺らぐことが自然です。決めつけず、本人の意思を尊重しながら見守ってください
- 専門的な評価・支援はジェンダー外来などの専門機関が担います。お子さんに不安や抑うつなど心の不調が重なるときは、児童・思春期に対応している精神科・心療内科も相談先の一つです
参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):
- 性別に違和感がある子どもたち―トランスジェンダー・SOGI・性の多様性(康純 編著)
よくある質問
子どもが性別に違和感をもつのは、育て方が原因なのでしょうか。
いいえ。性別への違和感は育て方が原因で生じるものではないと考えられています。親の関わり方が悪かったのではないかとご自分を責める必要はありません。専門書でも、性のあり方はもともと多様なものであり、養育のせいではないことが繰り返し強調されています。
子どもの気持ちは、この先も変わらないのでしょうか。
子どもの性別についての感じ方は、発達の途中で揺らぐことが自然だと考えられています。子どものころの違和感がそのまま続かない例もあれば、思春期以降も苦痛が続き専門的な支援が必要になる例もあります。だからこそ「決めつけずに見守り、必要なときに専門機関へ相談できる状態にしておく」ことが大切です。
打ち明けられた内容を、学校の先生や親族に伝えてもよいですか。
本人の同意なく第三者に伝えること(アウティング)は、たとえ良かれと思ってでも避けるべきとされています。学校と連携する場合も、誰に・どこまで伝えるかを必ず本人と相談して決めることが基本です。
どこに相談すればよいのでしょうか。
性別違和そのものの専門的な評価や支援は、ジェンダー外来など専門の医療機関が担います。まずはお住まいの地域の専門外来や公的な相談窓口を調べることから始めてください。お子さんに強い不安や気分の落ち込み、不眠などの不調が重なっている場合は、児童・思春期に対応している精神科・心療内科がその部分の相談先になります。
親自身の気持ちが揺れてしまいます。おかしいことでしょうか。
おかしいことではありません。わが子のカミングアウトを受けた親の気持ちは、受け入れたい気持ちと戸惑いとが交互に現れながら、行きつ戻りつ進んでいくものだと専門書でも説明されています。揺れること自体が自然な過程です。親御さん自身がつらくなったときは、親自身の心の不調として相談することもできます。