福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
休診日: 水曜・木曜・日曜・祝日

親の介護が始まって数年。夜中に何度も起こされ、日中は仕事や家事と介護の往復。気がつけば、自分のことは後回しのまま――。眠りが浅くなり、食事がおいしくなくなり、ふとした拍子に涙が出る。それでも「介護をしているのだから、疲れるのは当たり前」と、自分に言い聞かせていないでしょうか。

配偶者や親の介護を担う方が、心身の不調をきたすことは決してめずらしくありません。そして、その不調が「介護疲れ」という言葉のなかに押し込められて、うつ病などの治療が必要な状態になっていても、受診が遅れてしまうことがよくあります。

この記事では、介護する人に起こりやすいこころの不調、「介護疲れ」とうつ病の境目のサイン、受診が遅れやすい理由、介護の負担そのものを減らす考え方、精神科・心療内科でできることを、福岡県春日市の精神科・心療内科の視点からお伝えします。

介護する人に起こりやすいこころの不調

介護は、終わりの見えにくい長期戦です。身体的な負担(夜間の対応、移乗や入浴の介助など)に加えて、次のような特有の心理的負担があるとされています。

  • 休みがない:介護には土日も夜間もありません。「自分が見ていないと」という緊張が続きます
  • 先が見えない:いつまで続くのか分からないことが、疲労の回復を妨げます
  • 関係の変化への戸惑い:かつて頼っていた親や、支え合ってきた配偶者が変わっていく姿を見続けることは、それ自体が喪失の体験です
  • 孤立:介護のために外出や人付き合いが減り、悩みを話せる相手がいなくなっていきます
  • 罪悪感:イライラして強い口調になってしまった、施設に預けることを考えてしまった――そのたびに自分を責める方が多くいらっしゃいます

こうした負担が積み重なると、不眠、食欲の低下、気分の落ち込み、不安、イライラといった症状が現れやすくなります。介護を担う方にうつ状態や不安の症状がみられることは、国内外の調査でも繰り返し指摘されています。

「介護疲れ」とうつ病の境目――このサインに気づいてください

疲労とうつ病のあいだに、くっきりした線が引けるわけではありません。ただ、次のような変化は「疲れの範囲を超えているかもしれない」と考える目安になります。

  • 眠れない:疲れているのに寝つけない、夜中に目が覚めて介護のことを考え続ける、早朝に目が覚めてしまう
  • 食べられない:食欲がない、食事の味がしない、体重が減ってきた
  • 涙が出る:理由がはっきりしないのに涙が出る、涙が止まらない
  • 楽しめない:以前は気晴らしになっていたことに、何の気持ちも動かなくなった
  • 回復しない:一晩眠っても、介護のない時間があっても、疲れが抜けなくなった
  • 自分を責め続ける:「自分の介護が悪いからだ」「自分には価値がない」という考えから抜けられない
  • 「消えてしまいたい」と思う:ふと「このまま消えてしまいたい」「いっそ楽になりたい」という考えが浮かぶ

特に大切なのは最後のサインです。「消えてしまいたい」「介護している相手と一緒に楽になりたい」といった考えが浮かぶ状態は、疲労ではなく、治療が必要なうつ状態に入っている可能性が高いと考えてください。こうした症状が2週間以上続いているときは、うつ病の評価を受けることをおすすめします。また、介護という明らかなストレス状況に反応して心身の不調が出ている状態は、適応障害として整理できることもあります。

なぜ受診が遅れるのか――「自分が頑張らねば」の構造

介護する方の受診は、しばしば大きく遅れます。そこには、本人の性格の問題ではなく、介護という状況が生み出す構造があります。

「本人のほうが大変」という比較

介護されている本人の苦しさを間近で見ているため、「自分の不調など、本人に比べれば大したことはない」と感じてしまいます。しかし、つらさは比較するものではなく、あなたの不眠や落ち込みは、それ自体が治療の対象です。

「自分が倒れたら回らない」という責任感

代わりがいないと感じているほど、「休む」「受診する」という選択肢が頭から消えていきます。皮肉なことに、責任感が強く、まじめに介護に向き合ってきた方ほど、この構造にはまりやすいとされています。

不調の自覚が薄れる

疲労が慢性化すると、「つらい」という感覚そのものが麻痺し、不調を不調と認識しにくくなることがあります。周囲から「顔色が悪い」「痩せたね」と言われて初めて気づく方も少なくありません。

時間が取れない

物理的に、介護から離れて自分の受診に行く時間が作れない、という現実的な壁もあります。だからこそ、後述する介護サービスの調整と、ご自身の治療は、セットで考える必要があります。

介護の負担そのものを減らす――抱え込まないための仕組み

こころの治療と並行して、介護の負担そのものを減らすことも、同じくらい大切です。介護を一人で(あるいは一家庭で)抱え込まないための仕組みが、制度として用意されています。

ケアマネジャーに「限界が近い」と伝える

すでに介護保険サービスを利用している場合、担当のケアマネジャーが介護計画(ケアプラン)の相談相手です。「自分が眠れなくなっている」「限界が近い」と率直に伝えることで、サービスの内容や回数を見直してもらえることがあります。介護者自身の健康状態は、ケアプランを考えるうえで大切な情報です。遠慮せずに伝えてください。

地域包括支援センターに相談する

まだ介護保険サービスを利用していない、何から始めればよいか分からない、という場合は、お住まいの市区町村の地域包括支援センターが高齢者の介護に関する総合的な相談窓口になっています。要介護認定の申請や利用できるサービスについて、相談することができます。

レスパイト――「介護者が休むためにサービスを使う」という考え方

デイサービスやショートステイ(短期入所)などを利用して、介護者がまとまった休息を取ることは「レスパイト(休息)」と呼ばれ、介護を長く続けるための正当な方法として広く知られています。「本人を預けて自分が休むなんて」と罪悪感を持つ方が多いのですが、介護者が回復する時間を確保することは、介護される方にとっても介護の質を保つことにつながります。休むことは、手抜きではなく介護の一部です。

精神科・心療内科でできること――介護者自身の受診は正当な医療です

介護をしておられる方ご自身の不眠・落ち込み・不安は、精神科・心療内科で相談できる不調です。当院でも、介護を担う方ご自身のこころの不調のご相談をお受けしています。

状態の評価と診断

診察では、いまの症状がどの程度のもので、疲労の範囲なのか、うつ病や適応障害などの治療が必要な状態に入っているのかを一緒に評価します。介護がいつから始まり、生活がどう変わったかを伺いながら、不調の全体像を整理します。

睡眠の立て直し

介護者の不調は、夜間の介護による睡眠の分断から始まることが少なくありません。眠れない状態が続くと、日中の気分や判断力にも影響が広がります。生活リズムの調整を含め、睡眠の治療から立て直しを図ることがあります。眠れない状態については不眠症のページでも解説しています。

薬による治療・環境調整の助言

うつ状態が中等度以上と考えられる場合には、お薬による治療が選択肢になります。また、診察のなかで「介護サービスの調整をケアマネジャーに相談してみましょう」「ここは家族で分担できないか話し合ってみましょう」といった、負担を減らす方向の整理を一緒に行うこともあります。

「話せる場所」としての診察

介護の悩みは、身近な人にほど話しにくいものです。診察室は、罪悪感やイライラも含めて、評価されずに話せる場所として使っていただけます。話して整理するだけでも、視界が少し開けることがあります。

なお、介護されているご本人ではなく、介護しているあなた自身の診察としてお越しください。ご本人の受診について検討したい場合の進め方は、受診を検討している医療機関に問い合わせてご確認ください。

日常でできる工夫――完璧な介護者をやめる

  • 「合格点を下げる」:100点の介護を続けることは誰にもできません。「今日は最低限できていれば合格」と基準を下げることを、意識的に自分に許してください
  • 介護のない時間を予定に入れる:「時間が空いたら休む」では、休む時間は永遠に来ません。サービス利用日など、介護から離れる時間を先に予定として確保します
  • 一人で抱えている作業を書き出す:介護・家事・手続きを紙に書き出すと、家族に分担を頼める部分や、サービスに置き換えられる部分が見えてくることがあります
  • 体の不調は体の診療科で確認する:血圧の上昇、頭痛、胃の不調など体の症状が出ているときは、まず内科など体の側の評価もおろそかにしないでください。介護中は自分の健診や通院が後回しになりがちです
  • 「話す相手」を一人確保する:家族、友人、ケアマネジャー、主治医――誰でも構いません。介護の実情を定期的に話せる相手がいるかどうかで、孤立の度合いは大きく変わります

受診の目安――こんなときはご相談ください

次のような状態に当てはまる場合は、一度受診を検討してください。

  • 眠れない・夜中に目が覚める状態が2週間以上続いている
  • 食欲がない、体重が減ってきた
  • 理由なく涙が出る、涙が止まらないことがある
  • 以前は楽しめたことに気持ちが動かなくなった
  • 休んでも疲れが回復しなくなった
  • 介護相手にイライラをぶつけてしまい、自分を責める日々が続いている
  • 「消えてしまいたい」「一緒に楽になりたい」という考えが浮かぶ

最後の項目に当てはまる方は、できるだけ早めの受診をおすすめします。すでに通院中の方は、まず主治医にご相談ください。命に関わる緊急の場合は、ためらわず救急(119)を利用してください。

まとめ――介護を続けるためにこそ、あなたの治療を

介護する方の不眠や落ち込みは、「介護しているのだから当たり前」で片づけてよいものではありません。眠れない・食べられない・涙が出る・楽しめない・消えてしまいたい――こうしたサインが続いているなら、それは疲労の範囲を超えて、治療できる不調に入っている可能性があります。ケアマネジャーや地域包括支援センターへの相談、レスパイトの活用で介護の負担を減らすことと、ご自身のこころの治療は、並行して進めることができます。

当院は福岡県春日市の精神科・心療内科として、介護を担っておられる方ご自身のこころの不調のご相談をお受けしています。「介護疲れかどうか自分では分からない」という段階のご相談で構いません。あなたが回復することは、介護を続けるための土台でもあります。WEB予約からご都合のよい日時をお選びください。

よくある質問

介護疲れとうつ病は、どこで見分ければよいのでしょうか?

はっきりした境界線があるわけではありませんが、目安になるのは「休んでも回復しなくなっているかどうか」です。一晩眠れば、あるいは介護のない日が一日あれば少し楽になるうちは、疲労の範囲であることが多いと考えられます。一方、眠れない・食べられない状態が2週間以上続く、以前は楽しめたことが楽しめない、涙が止まらない、「消えてしまいたい」と感じる――こうした変化が出てきたら、うつ病などの治療が必要な状態に入っている可能性があります。迷う段階でのご相談で構いません。

介護される本人ではなく、介護している私自身が精神科を受診してもよいのでしょうか?

もちろんです。介護を担う方ご自身の不眠、気分の落ち込み、不安は、それ自体が正当な医療の対象です。「本人のほうが大変なのだから自分は我慢すべき」と考えて受診を先延ばしにする方が多いのですが、介護する方が倒れてしまうと介護そのものが立ち行かなくなります。ご自身の体調を整えることは、介護を続けるための土台でもあります。当院でも、介護をしておられる方ご自身のこころの不調のご相談をお受けしています。

介護の負担そのものを減らす相談は、どこにすればよいですか?

介護保険サービスを利用中であれば、担当のケアマネジャーに現在の負担を率直に伝えることが第一歩とされています。まだサービスを利用していない場合は、お住まいの市区町村の地域包括支援センターが介護全般の相談窓口になっています。デイサービスやショートステイなどを使って介護者が休む時間を確保する「レスパイト」という考え方も広く知られています。負担を減らす制度の相談と、ご自身の心身の不調の治療は、並行して進めることができます。

「消えてしまいたい」と思うことがあります。すぐ受診したほうがよいですか?

はい。「消えてしまいたい」「介護相手と一緒に楽になりたい」といった考えが浮かぶ状態は、疲労の域を超えて、治療が必要なうつ状態に入っているサインの可能性があります。できるだけ早めの受診をおすすめします。すでに通院中の方は、次の予約を待たずに主治医にご相談ください。自分を傷つけてしまいそうなど、命に関わる差し迫った状況では、ためらわず救急(119)を利用してください。

このテーマの記事を探す

症状や困りごとから探し直す

執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

WEB予約