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連載「性格と生きづらさ」第2回(全3回) 第1回から読む →

はじめに

「本当は人と親しくなりたい。でも、嫌われたり笑われたりするのが怖くて、誘いを断ってしまう」「会議で発言できない自分を、家に帰ってから何度も責めてしまう」「新しい仕事や恋愛のチャンスを、失敗が怖くて最初からあきらめてしまう」――。

人付き合いを避けているように見えて、心の中では誰よりも人とのつながりを求めている。そんな矛盾したつらさを、長いあいだ抱えてきた方がいます。周囲からは「おとなしい人」「付き合いの悪い人」と見られ、本人だけがその内側の葛藤を知っている、ということも少なくありません。

こうした状態の背景には、「回避性パーソナリティ障害」と呼ばれるものが関わっていることがあります。この記事では、その特徴、よく似た社交不安症やHSPとの違い、治療の考え方についてお伝えします。

回避性パーソナリティ障害とは

回避性パーソナリティ障害は、批判・非難・拒絶への強い恐れと、「自分は人より劣っていて、受け入れてもらえない」という否定的な自己イメージが、若いころから長く続き、生活のさまざまな場面に影響している状態です。

特徴として、次のような傾向が挙げられます。

  • 批判や拒絶を恐れて、人と関わる仕事や役割を避ける
  • 好かれている確信がもてないと、人と関わろうとしない
  • 恥をかくことを恐れて、親しい間柄でも自分を出せない
  • 人前で批判されたり拒絶されたりすることに、頭がいっぱいになる
  • 新しい対人場面では、「自分は不器用で魅力がない」という感覚にとらわれる
  • 恥ずかしい思いをするかもしれない新しい活動に、手を出したがらない

大切なのは、これが「人嫌い」ではないという点です。むしろ人とのつながりや愛情を強く求めているからこそ、拒絶されたときの痛みが恐ろしく、先回りして避けてしまう。近づきたい気持ちと、傷つくことへの恐れとのあいだの葛藤が、この状態の中心にあります。

「性格が内気なだけ」との違い

内気さ、恥ずかしがり、慎重さは、性格の自然な幅であり、それ自体は治療の対象ではありません。

では何が違うのか。精神科では一般に、恐れや不安が状況に不釣り合いなほど強く持続しているか、そして仕事・学業・人間関係など生活に明らかな支障が出ているか、という二つの目安で考えます。

たとえば「初対面では緊張するが、慣れれば話せる」のは性格の範囲でしょう。一方、「昇進の打診を、人前に立つ役割が怖くて断り続けている」「友人がほしいのに、拒絶が怖くて何年も新しい関係を作れない」というように、本人の望む人生の選択そのものが恐れによって狭められているなら、それは治療で変わりうる「困りごと」として扱う価値があります。

また、パーソナリティ障害という診断は、その人の人柄全体を否定するレッテルではありません。パーソナリティの専門書でも、診断とはあくまで暫定的な見立てであり、治療の計画や見通しを立て、その人を深く理解するための道具だと強調されています。敏感さや思慮深さといった持ち味は、そのまま強みでもあります。

社交不安症との違い

回避性パーソナリティ障害とよく似た状態に、社交不安症があります。人前で注目される場面に強い恐怖を感じ、そうした場面を避けるようになる病気で、実はこの二つは重なりがとても大きく、両方の特徴をあわせもつ方も多いことが知られています。

あえて違いを挙げるなら、次のような整理ができます。

  • 社交不安症は、スピーチ・会食・電話など「特定の対人場面での恐怖と緊張」が中心。場面を離れれば比較的落ち着ける
  • 回避性パーソナリティ障害は、「自分は劣っていて受け入れられない」という自己イメージが土台にあり、恐れが特定の場面を超えて、生き方・対人関係のパターン全体に広がっている

ただしこの線引きは専門家のあいだでも議論があり、実際の診療では「どちらか」を厳密に決めることより、その方の恐れの中身と生活への影響を丁寧に見立てることが重視されます。社交不安症の特徴については社交不安症(対人恐怖・あがり症)とはで、また不安をやり過ごすための行動がかえって不安を強めてしまう仕組みについては社交不安症の「安全行動」で詳しく解説しています。

HSP・シゾイドタイプとの違い

HSP(繊細さん)との違い

「自分はHSPだから人付き合いが苦手なのだ」と理解している方もいるでしょう。HSPは感受性の強い気質を表す言葉で、医学的な診断名ではありません。敏感であること自体は病気ではなく、治療の対象でもありません。

ただ、「HSPだから仕方ない」という理解のもとに、実は治療で楽になれる状態が隠れてしまうことがあります。拒絶への恐れから生活の幅が長年狭くなっているなら、気質の問題として抱え込まず、一度整理してみる価値があります。この点はHSPと精神科の関係で詳しく扱っています。

「一人が好き」なタイプとの違い

人と距離を取る状態としては、シゾイドと呼ばれるタイプも知られています。精神分析の古典的な理解では、回避性パーソナリティはこのシゾイド的な性格群と近い仲間として論じられてきた歴史があります。どちらも、生まれつき刺激に敏感な気質と、「近づきたいが呑み込まれたくない・傷つきたくない」という親密さへの葛藤が背景にあると考えられてきました。

違いを大づかみに言えば、シゾイドタイプは一人の内的な世界に引きこもることで安定を得やすいのに対し、回避性ではつながりへの欲求と拒絶への恐れの板挟みがより表に出やすく、孤独そのものが強い苦痛になりやすい、と整理されます。もっとも、これも程度の差を含む連続的なもので、実際の見立ては診察のなかで行います。

治療の考え方

回避性パーソナリティ障害の治療の中心は、精神療法(カウンセリング的な関わりを含む対話による治療)です。

拒絶を恐れる方にとっては、診察室で医師と話すこと自体が「批判されるかもしれない場面」になりえます。だからこそ治療では、まず安心して話せる関係を土台にすることが重視されます。そのうえで、次のようなことに時間をかけて取り組みます。

  • 「自分は劣っている」「失敗したら見捨てられる」といった思い込みを、実際の経験と照らして少しずつ検討する
  • 避けてきた場面に、無理のない小さな一歩から段階的に取り組む
  • 敏感さを欠点としてではなく、付き合い方を工夫できる持ち味として捉え直す

また、社交不安症やうつ状態、強い不眠などが併存している場合には、それらに対して薬物療法が助けになることがあります。薬の要否や選択は状態によって異なりますので、診察のなかで相談しながら決めていきます。

パーソナリティの特徴は短期間で一変するものではありません。しかし固定した運命でもありません。避けることで守ってきた生活から、少しずつ「試してみる」経験を積み重ねることで、行動の幅も自己イメージも変わっていくことが期待できます。

当院での実際

当院では、予約はWEB(デジスマ)でお取りいただけます。受診前に画面の中で問診にお答えいただく形のため、「対面でうまく話せるか不安」という方も、伝えたいことをあらかじめ文字で整理してお伝えいただけます。

初診の所要時間は問診を含めて30分程度を目安とし、通院は基本的に2週間に一度のペースで、生活の様子をうかがいながら進めていきます。

ご家族のみでのご相談はお受けしていませんが、ご本人が受診に同意されたうえでの同席は可能です。ご本人がどうしても受診できない場合は、公的な相談先、または受診を予定している医療機関へお問い合わせください。

受診の目安

次のようなことが長く続き、生活に影響していると感じるなら、一度ご相談ください。

  • 人と親しくなりたいのに、拒絶が怖くて関係を避けてしまう
  • 批判や失敗への恐れで、仕事・進学・恋愛などの選択肢を狭めてきた
  • 「自分は人より劣っている」という感覚が若いころから消えない
  • 人前の場面が怖く、避けることが習慣になっている
  • 落ち込みや不眠など、心身の不調も出てきている

当てはまる項目があっても、それだけで診断が決まるわけではありません。診断は診察のうえで医師が行います。「性格の問題だから相談してはいけない」と線を引かず、つらさがあること自体を相談の理由にしていただいて構いません。

まとめ

回避性パーソナリティ障害は、批判や拒絶への強い恐れと否定的な自己イメージのために、本当は求めている人とのつながりを避けてしまう状態です。社交不安症とは重なりが大きく、HSPという気質の言葉で理解されてきた方のなかにも、治療で楽になれる方がいます。

診断は性格へのレッテルではなく、困りごとの成り立ちを整理し、合った治療につなげるための見立てです。時間をかけて取り組めば、行動の幅も自分への見方も変わっていきます。ひとりで抱え込まず、まずは相談することから始めてみてください。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • パーソナリティ障害の診断と治療(ナンシー・マックウィリアムズ)
  • 精神科治療学 第35巻12号 特集「現代社会における不安の病理と対応」

よくある質問

回避性パーソナリティ障害と社交不安症は、どう違うのですか。

重なりの大きい概念ですが、社交不安症が人前での緊張や特定の対人場面への恐怖を中心とするのに対し、回避性パーソナリティ障害では「自分は劣っていて受け入れられない」という自己イメージが若いころから生活全体に及んでいる点が特徴とされます。両方の特徴をあわせもつ方も少なくありません。区別は専門的な評価が必要で、診断は医師が行います。

HSP(繊細さん)だと思っていたのですが、病気の可能性もあるのでしょうか。

HSPは医学的な診断名ではなく、感受性の強さを表す言葉です。敏感さそのものは治療の対象ではありませんが、批判や拒絶への恐れから仕事・交友・恋愛など生活の幅が長期間狭くなっているなら、回避性パーソナリティ障害や社交不安症など、治療で変わりうる状態が隠れていることがあります。

内気な性格とは何が違うのですか。

内気さや慎重さは性格の幅の範囲であり、それ自体は問題ではありません。違いを考える目安は、恐れや回避が状況に不釣り合いなほど強く長く続いているか、そして仕事・学業・人間関係など生活に明らかな支障が出ているかどうかです。性格か治療対象かの線引きは、ご自身で決めつけず一度ご相談ください。

回避性パーソナリティ障害は治りますか。

パーソナリティの特徴は短期間で一変するものではありませんが、固定したものでもありません。安心できる治療関係のなかで、避けてきた場面に少しずつ取り組み、自分への厳しい見方をゆるめていくことで、生活の幅が広がっていく方は多くいます。あせらず時間をかけて取り組む価値のある状態です。

診断名がつくと、性格を否定されたことになりませんか。

なりません。診断は人柄へのレッテルではなく、困りごとの成り立ちを整理し、合った治療や見通しを考えるための暫定的な見立てです。敏感さや思慮深さといった持ち味まで病気とみなすものではなく、つらさを生んでいる部分にだけ焦点を当てるための道具だとお考えください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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