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連載「性格と生きづらさ」第3回(全3回) 第1回から読む →

はじめに

「境界性」「自己愛性」「回避性」――パーソナリティ障害について調べはじめると、似たような名前が次々に出てきて、「結局いくつあるの?」「自分や家族はどれに当てはまるの?」と戸惑う方が多いのではないでしょうか。

また、「パーソナリティ障害=性格の病気」という言葉の響きから、「性格が悪いと言われているようで傷つく」「性格なら治らないのでは」と感じてしまう方も少なくありません。

この記事では、パーソナリティ障害の全体像を整理します。10タイプの分類を地図のように見渡したうえで、「性格そのものの病気ではない」と考えられている理由、そして診断や治療の基本的な考え方をお伝えします。個別のタイプについて詳しく知りたい方のために、それぞれの解説記事への入口もまとめています。

パーソナリティ障害とは――「性格」と「障害」の違い

パーソナリティとは、その人らしいものの感じ方・考え方・人との関わり方のパターン、つまり「個性」のことです。個性そのものは病気ではありません。慎重な人、社交的な人、こだわりの強い人――どれも人間の多様さの一部です。

では、どこからが「障害」なのでしょうか。

精神医学の診断基準(DSM-5)では、おおまかに次のような条件がそろったときに、パーソナリティ障害と考えます。

  • ものの受け取り方、感情、対人関係、衝動のコントロールのパターンが、その人の属する文化から期待される範囲を大きく外れている
  • そのパターンに柔軟性がなく、生活の幅広い場面に及んでいる
  • 本人が強く苦しんでいる、または仕事や人間関係など大切な領域に支障が出ている
  • そのパターンが青年期または成人早期から長く続いている

ポイントは、「変わった性格かどうか」ではなく、「柔軟性が失われて、本人が苦しみ、生活に支障が出ているかどうか」で見る、という点です。同じような性格傾向でも、本人がそれなりにやっていけているなら、それは個性の範囲です。性格とパーソナリティ障害のあいだの中間領域は意外と幅広い、と指摘する専門家もいます。

10タイプの分類――A群・B群・C群という3つのグループ

DSM-5では、パーソナリティ障害として10のタイプが挙げられ、特徴の似たものどうしが3つのグループ(クラスター)にまとめられています。

A群――風変わりで、人と距離をとりやすいグループ

  • 猜疑性(妄想性)パーソナリティ障害:人への不信感や疑い深さが強く、他人の言動を悪意あるものと受け取りやすい
  • シゾイド(スキゾイド)パーソナリティ障害:人との親密な関係をあまり求めず、一人の世界で超然と過ごすことを好み、感情表現が乏しく見える
  • 統合失調型パーソナリティ障害:独特な考え方や風変わりな言動が目立ち、親しい関係を築きにくい

B群――感情の揺れや衝動性が目立つグループ

  • 境界性パーソナリティ障害(BPD):見捨てられることへの強い不安を中心に、感情・対人関係・行動が激しく揺れる
  • 自己愛性パーソナリティ障害(NPD):自分を特別な存在と感じる気持ちや賞賛への欲求が強い一方、内面には傷つきやすさを抱えている
  • 演技性パーソナリティ障害:注目の的でいたい気持ちが強く、感情表現が芝居がかって大げさになりやすい
  • 反社会性パーソナリティ障害:社会のルールや他者の権利を軽視する行動が続く

C群――不安や恐れが行動を縛りやすいグループ

  • 回避性パーソナリティ障害:「批判されるのでは」「恥をかくのでは」という恐れが強く、人と関わる場面を避けてしまう
  • 依存性パーソナリティ障害:誰かに頼っていないと不安で、自分で決めることが極端に苦手になる
  • 強迫性パーソナリティ障害:完璧主義や秩序へのこだわりが強く、融通がきかずに自分も周囲も疲れてしまう

このように並べると整然として見えますが、実際の臨床では、複数のタイプの特徴をあわせ持つ方や、どれか一つにきれいに収まらない方がむしろ普通です。分類は人にラベルを貼るためのものではなく、その人の生きづらさのパターンを理解するための地図として使われます。

「性格の病気」ではない、と考えられている理由

「パーソナリティ障害」という名前は、どうしても「性格そのものが病んでいる」という印象を与えがちです。しかし専門家の理解は違います。

第一に、治療の対象は性格そのものではありません。40年にわたりパーソナリティ障害の診療にあたってきた精神科医・牛島定信氏は、著書『パーソナリティ障害とはなにか』のなかで、治療の要諦はパーソナリティそのものをつくり変えることではなく「障害の部分」――柔軟性を失って生活の支障になっている部分――を治すことだ、という趣旨を述べています。慎重さや感受性の豊かさといったその人の持ち味は、治療で消すべきものではないのです。

第二に、表に見える「困った行動」と、内面の苦しさは切り離せません。周囲からは自分勝手・大げさ・扱いにくいと映る言動の裏側に、強い劣等感や空虚感、「私の人生はこんなはずではなかった」という思いが隠れていることが、臨床では繰り返し観察されています。問題行動と本人のつらさは、いわばコインの表と裏の関係にあります。

第三に、「一生変わらない」わけではありません。たとえば境界性パーソナリティ障害では、思春期から成人早期に症状が強まったあと、年月とともに和らいでいく経過が知られています。反社会性の傾向ですら、中年期に落ち着いていく現象が報告されています。パーソナリティ障害は「固定した欠陥」ではなく、時間と治療のなかで変化しうる状態です。

診断はチェックリストでは決められない

インターネットには各タイプのセルフチェックがあふれていますが、注意が必要です。

DSM-5自身が、診断基準に挙げられた症状を単純に照合するだけでは診断には不十分だと明記しています。診断には、症状の数だけでなく、次のような多くの要素をあわせて見る必要があります。

  • そのパターンがいつ頃から、どのくらい続いているか
  • 家庭・職場・友人関係など、複数の場面にまたがって現れているか
  • 生活にどの程度の支障が出ているか
  • うつ病や双極性障害、発達障害、不安症など、他の状態で説明できないか
  • 文化的な背景や置かれている環境の影響はないか

とくに最後の鑑別は重要です。たとえば境界性パーソナリティ障害と似た状態像が、実は発達障害や双極性障害など別の背景から生じている「もどき状態」であることも、臨床ではしばしば経験されると指摘されています。うつ状態のあいだだけ人が変わったように見える、ということもあります。

セルフチェックで「当てはまるかも」と感じたら、それを自己診断の結論にするのではなく、受診して相談するきっかけにしていただくのがよいと思います。診断は医師が行います。

本人も家族も気づきにくい、という特徴

パーソナリティ障害には、もう一つ知っておきたい特徴があります。それは、本人にとって自分のパターンが「当たり前」になっているため、本人も家族もなかなか気づきにくいということです(専門的には「自我親和的」と言います)。

うつ病や不安症のように「以前の自分と違う」という変化の自覚が持ちにくく、「うまくいかないのは周りのせい」「自分の努力不足」と解釈されたまま、生きづらさだけが積み重なっていくことが少なくありません。

そのため、受診のきっかけは「パーソナリティ障害かもしれない」という自覚ではなく、うつ状態・不眠・不安・職場や家庭での行き詰まりなど、別の困りごとであることがほとんどです。それで構いません。いま困っていることから相談を始めるなかで、背景にある対人関係のパターンが少しずつ見えてくる――それが自然な流れです。

当院での実際

当院では、パーソナリティの傾向に関連する生きづらさについても、まずは現在お困りの症状(気分の落ち込み、不安、不眠、対人関係のつらさなど)からご相談いただけます。予約はWEB(デジスマ)でお取りいただき、初診前にWEB問診にお答えいただきます。初診の所要時間は問診を含めて30分程度が目安です。通院は2週間に一度が基本で、診察を重ねながら状態の理解を深めていきます。

ご家族のみでのご相談はお受けしておりませんが、ご本人が同意されたうえでの診察への同席は可能です。ご本人が受診できない場合は、お住まいの地域の保健所・精神保健福祉センターなどの公的相談先か、受診を予定している医療機関へ問い合わせる方法をご案内しています。

各タイプの詳しい解説記事

このシリーズと当ブログでは、代表的なタイプを個別に解説しています。気になるものからお読みください。

まとめ

パーソナリティ障害は、DSM-5では10タイプがA群・B群・C群の3グループに整理されています。ただしこの分類は人にラベルを貼るためのものではなく、生きづらさのパターンを理解するための地図です。

パーソナリティ障害は「性格が悪い」ことではありません。性格の柔軟性が失われ、本人が苦しみ、生活に支障が出ている状態であり、治療の対象は性格そのものではなく「障害の部分」です。そして、時間と治療のなかで変化しうることがわかっています。

自分や家族に当てはまりそうだと感じても、チェックリストだけで結論を出す必要はありません。いま困っている症状――気分の落ち込み、不安、不眠、人間関係の行き詰まり――から、まずはご相談ください。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • パーソナリティ障害とはなにか(牛島定信)
  • DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル(米国精神医学会)

よくある質問

パーソナリティ障害は全部で何種類あるのですか。

アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)では10種類が挙げられ、特徴の似たものどうしがA群・B群・C群という3つのグループにまとめられています。ただし実際には、複数のタイプの特徴をあわせ持つ方や、どれか一つにきれいに当てはまらない方も少なくありません。分類はあくまで理解のための地図のようなものです。

パーソナリティ障害は「性格が悪い」ということなのでしょうか。

いいえ。パーソナリティ障害は、性格そのものの良し悪しではなく、ものの受け取り方や対人関係のパターンの柔軟性が失われて、本人が強く苦しんだり生活に支障が出たりしている状態を指します。個性の範囲にとどまるかぎり、どんな性格も病気ではありません。

自分がどのタイプに当てはまるか、チェックリストで調べてもいいですか。

セルフチェックはあくまで参考にとどめてください。診断基準は症状を照合するだけでは使えず、生い立ちや経過、生活への影響、他の病気との区別などを含めた総合的な判断が必要とされています。診断は医師が行いますので、気になる場合は受診のうえでご相談ください。

パーソナリティ障害は治らないのでしょうか。

「一生変わらない」というのは誤解です。治療の目標は性格をつくり変えることではなく、生活の支障になっている「障害の部分」を和らげることにあります。たとえば境界性パーソナリティ障害では、年月とともに症状が和らいでいく経過が知られています。

家族がパーソナリティ障害かもしれません。家族だけで相談できますか。

当院ではご家族のみでのご相談はお受けしておらず、ご本人の同意のうえでの診察への同席は可能です。ご本人が受診できない場合は、お住まいの地域の保健所・精神保健福祉センターなどの公的相談先か、受診を予定している医療機関に問い合わせる方法があります。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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