福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
休診日: 水曜・木曜・日曜・祝日

食事の時間になっても、お腹が空かない。好物だったはずのものを口に運んでも、砂を噛んでいるようで味がしない。「食べなきゃ」と思って無理に口に入れるものの、数口で箸が止まってしまう。気がつけば、ズボンやスカートがゆるくなっていた――。

「食欲がない」というと、単なる胃腸の不調や夏バテのように聞こえるかもしれません。しかし、食欲不振はうつ病の代表的な身体症状のひとつです。気分の落ち込みより先に「食べられない」「味がしない」という形で心の不調が現れることもあり、本人も周囲も、それが心のSOSだとは気づきにくいのです。

この記事では、うつ病と食欲不振の関係、ストレスと胃腸のつながり、体の病気を先に除外することの大切さ、体重減少の目安と受診のタイミングについて、福岡県春日市の精神科・心療内科の視点からお伝えします。

「食べたくない」「味がしない」――うつ病で起こる食欲の変化

うつ病というと「気分が落ち込む病気」というイメージが強いですが、実際には体の症状もたくさん現れます。眠れない、体がだるい、頭が重い――そして、食欲の変化もそのひとつです。うつ病の診断基準にも「食欲の減退または増加、体重の変化」が項目として含まれているほど、食欲は心の状態と深く結びついています。

うつ病に伴う食欲不振には、いくつかの特徴的な訴えがあります。

  • お腹が空いたという感覚そのものが湧かない(空腹感の消失)
  • 食べても美味しくない、味がしない。「砂を噛むよう」「紙を食べているみたい」と表現される方が多くいます
  • 好物にも心が動かない。食事のことを考えるのも億劫
  • 数口食べると、それ以上入らない
  • 食事を「楽しみ」ではなく「こなすべき作業」のように感じる

「味がしない」という訴えは特に印象的な症状です。味覚の検査では異常がないことも多いのですが、うつ病では、ものごとへの興味や喜びを感じる力が全般的に低下するため、食べるという行為そのものから喜びが失われ、味気なく感じられることがあると考えられています。逆に言えば、「ごはんが美味しいと感じられるか」は、心の元気さを映すバロメーターでもあります。

なお、うつ病のなかには非定型うつ病と呼ばれるタイプがあり、こちらでは逆に食欲が増して食べすぎてしまう(過食傾向)ことが知られています。食欲の変化は「減る」方向だけとは限らないのですが、この記事では食欲が落ちるタイプを中心にお話しします。

なぜストレスで食べられなくなるのか――脳と胃腸のつながり

「心配ごとがあると食事が喉を通らない」という経験は、多くの方がお持ちだと思います。これは気のせいではなく、体の仕組みとして説明できる現象です。

脳と消化管は、自律神経などを通じて双方向に影響し合っており、この関係は脳腸相関と呼ばれています。強いストレスがかかると、体は緊張モード(交感神経優位)になります。交感神経が優位な状態では、胃腸の動きは抑えられ、消化液の分泌も減るため、食欲が湧かない、胃がもたれる、少し食べただけで胃が張る、吐き気がする、といった症状が起こりやすくなります。

短期間のストレスであれば、原因が去れば食欲も自然に戻ります。問題は、ストレスが長く続いたり、うつ病に進展したりした場合です。緊張状態が慢性化すると、食欲不振も慢性化し、食べられないことで体力と気力がさらに落ち、ますます心の回復が難しくなる――という悪循環に入ってしまうことがあります。

また、検査をしても胃や腸に異常が見つからないのに、胃もたれや胃の痛み、食欲不振が続く機能性ディスペプシアと呼ばれる状態も、ストレスとの関連が深いとされています。ストレスによる胃腸症状や自律神経の乱れについては、自律神経失調症の解説ページもあわせてご覧ください。

まず体の病気を除外することが先です

ここで、順序としてとても大切なことをお伝えします。食欲不振や体重減少は、心の不調だけでなく、さまざまな体の病気でも起こる症状です。

  • 消化器の病気:胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がん・大腸がんなどの悪性腫瘍、肝臓や膵臓の病気
  • 甲状腺の病気:甲状腺機能の異常は、食欲や体重、気分の変化を引き起こすことがあります
  • 糖尿病などの内分泌・代謝の病気
  • 貧血や感染症、その他の全身の病気
  • 薬の影響:服用中の薬の副作用として食欲が落ちることもあります

これらのなかには、早く見つけて治療を始めることが大切な病気も含まれています。ですから、食欲不振が続いている場合、まだ内科的な検査を受けていないのであれば、まず内科(かかりつけ医や消化器内科)で体の病気がないかを確認していただくのが基本の順序です。血液検査や、必要に応じて胃カメラなどの検査で、体の側の原因を調べてもらいます。

そのうえで、「検査では異常がないと言われたのに、食欲が戻らない」「体の病気は見つからなかったが、気分の落ち込みや眠れなさも続いている」という場合には、心の不調が背景にある可能性が高まります。ここからが精神科・心療内科の出番です。

実際には、最初から「気分の落ち込みも食欲不振もある」という方が精神科に直接お越しになることも多く、それでまったく問題ありません。その場合も、診察のなかで体の病気の可能性が疑われれば、内科での検査をおすすめします。受診先はご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

体重減少の目安――どのくらい減ったら要注意?

「食欲がない」だけでは受診のタイミングが分かりにくいので、体重を目安にする方法があります。

一般に、ダイエットなど意図的な減量をしていないのに、1か月で体重の5%程度が減った場合(例えば体重60kgの方なら約3kg)は、何らかの原因を調べたほうがよいサインとされています。半年で10%近く減っている場合も同様です。

さらに、次のような状態は緊急度が高いと考えてください。

  • 固形物がほとんど食べられない日が続いている
  • 水分も十分に取れない(尿の回数が明らかに減った、立ちくらみがひどい)
  • 急激に体重が減り、体に力が入らない、日常生活が立ち行かない
  • 食べられないことに加えて、「消えてしまいたい」という考えが浮かぶ

水分が取れない状態や、意識がもうろうとするような状態は、脱水や栄養不足が体の危機に直結します。この場合は精神科の予約を待つのではなく、すみやかに内科や救急外来を受診してください。命に関わる緊急の場合はためらわず救急(119)を、通院中の方は主治医に連絡してください。

そこまでの状態でなくても、食欲のない状態が2週間以上続いているなら、受診を考えてよいタイミングです。「これくらいで病院なんて」と思う必要はありません。

摂食障害との違いについて

食事の問題というと摂食障害を思い浮かべる方もいるかもしれませんので、簡単に違いに触れておきます。

うつ病による食欲不振は、「食べたい気持ちそのものが湧かない」状態です。やせたいわけではなく、むしろ「食べなければいけないのに食べられない」ことを心配している方がほとんどです。

一方、摂食障害(神経性やせ症など)では、体重や体型への強いこだわりが中心にあり、太ることへの恐怖から食事を制限したり、食べたものを吐いたりすることが特徴です。体重がかなり減っていても、本人は「まだ太っている」と感じていることもあります。

もっとも、実際にはうつ症状と食行動の問題が重なっているケースもあり、ご自身やご家族が正確に区別する必要はありません。どちらの可能性であっても、診察のなかで丁寧に確認していきますので、「食べられないこと」自体を入口としてご相談いただければ十分です。

食べられないときの工夫――「ちゃんと食べなきゃ」を手放す

食欲がないとき、周囲から「食べないと元気が出ないよ」と言われ、それがかえってプレッシャーになることがあります。回復までの間、少しでも負担を減らす工夫をいくつかご紹介します。

  • 「一日三食きちんと」にこだわらない:食べられるときに、食べられるものを、食べられる量だけで構いません
  • 口当たりのよいものから:ゼリー、ヨーグルト、スープ、おかゆ、果物など、噛む力や消化の負担が少ないものが入口になりやすいです
  • 水分だけは確保する:食事が難しくても、水分と最低限の塩分・糖分(経口補水液やスポーツドリンクなど)を意識してください
  • 栄養補助食品も選択肢:飲むタイプの栄養補助食品は、少量でエネルギーと栄養を補えます
  • 「食べられた」ことを責めない・数えすぎない:食事量の記録が自分を責める材料になるようなら、細かく数えないほうが楽なこともあります

ただし、これらはあくまで一時しのぎの工夫です。工夫をしても食べられない状態が続くなら、それは「気合いで食べる」問題ではなく、治療によって心の状態を回復させることで食欲も戻していくべき段階だと考えてください。うつ病の治療によって気分が上向いてくると、多くの場合、食欲も少しずつ戻ってきます。「ごはんが美味しい」と感じられるようになることは、回復の大切なサインのひとつです。

受診の目安――こんなときはご相談ください

次のような状態に心当たりがあれば、受診を検討するタイミングです。

  • 食欲のない状態が2週間以上続いている
  • 食べても味がしない、砂を噛むように感じる
  • ダイエットをしていないのに体重が減ってきた(1か月で5%程度が目安)
  • 内科で検査を受けたが異常はないと言われた。それでも食べられない
  • 気分の落ち込み、興味や喜びの喪失、不眠、だるさも一緒にある
  • 朝が特につらく、仕事や家事が以前のようにこなせない
  • 「消えてしまいたい」という考えが浮かぶことがある

うつ病の全体像(気分の症状・体の症状・治療の流れ)については、うつ病の解説ページで詳しく解説しています。

まとめ――「食べられない」は、心が発している大切なサインです

食欲がない、食べても味がしない、体重が減ってきた――こうした食欲不振は、うつ病の代表的な身体症状のひとつであり、気分の落ち込みより先に現れることもあります。ストレスは脳と胃腸のつながりを通じて食欲に直接影響しますが、一方で、食欲不振や体重減少は消化器や甲状腺などの体の病気でも起こるため、まず内科で体の病気を除外することが基本の順序です。検査で異常がないのに食べられない状態が続く場合や、落ち込み・不眠を伴う場合は、精神科・心療内科にご相談ください。水分も取れないほどの状態は、すみやかな受診が必要です。

当院は福岡県春日市の精神科・心療内科として、食欲不振をはじめとする心と体の不調のご相談をお受けしています。「気分の問題なのか、体の問題なのか分からない」という段階からのご相談で構いません。診察のなかで状態を整理し、必要であれば内科での検査もふくめて、進め方を一緒に考えます。初めての方は初めての方へをご覧のうえ、WEB予約からご都合のよい日時をお選びください。「たかが食欲」と我慢を重ねる前に、どうぞご相談ください。

よくある質問

食欲がないだけで精神科を受診してもよいのですか?

はい、ご相談いただいて構いません。ただし食欲不振は胃腸の病気や甲状腺の病気など体の病気でも起こるため、まだ内科的な検査を受けていない場合は、内科で体の病気がないかを確認することが先になるのが一般的です。内科で異常がないと言われたのに食欲が戻らない、気分の落ち込みや不眠も一緒にある、という場合は精神科・心療内科の受診を検討してください。

うつ病で本当に味が分からなくなることがあるのですか?

うつ病では「何を食べても味がしない」「砂を噛んでいるようだ」と感じる方が少なくありません。味覚そのものの検査で異常が出ない場合でも、食べることへの興味や喜びが失われることで、味気なく感じられることがあると考えられています。亜鉛不足や薬の影響、耳鼻咽喉科領域の味覚障害など他の原因もあるため、診察のなかで整理していきます。

どのくらい体重が減ったら受診したほうがよいですか?

目安として、ダイエットをしていないのに1か月で体重の5%程度(例えば60kgの方なら約3kg)が減った場合は、原因を調べたほうがよいとされています。それより少なくても、食欲のない状態が2週間以上続く、気分の落ち込みや不眠を伴う、という場合は受診を検討してください。急激な体重減少や水分も取れない状態は早めの受診が必要です。

うつ病の食欲不振と摂食障害はどう違うのですか?

うつ病の食欲不振は「食べたい気持ちそのものが湧かない」「食べても美味しくない」という状態で、やせたいという意図はありません。一方、摂食障害(神経性やせ症など)では、体重や体型へのこだわりから食事を制限することが中心にあります。ご自身では区別が難しいこともあるため、診察のなかで丁寧に確認していきます。どちらの場合もご相談いただけます。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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