福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
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はじめに

薬を始めた。量が増えた。減らした。別の薬に変わった。

その数日後から、調子が崩れてくる。多くの方が、このとき同じことを考えます。「病気が悪くなったのだ」と。

しかし、薬が動いた直後に起きた変化には、いくつもの可能性があります。病気そのものの悪化は、そのうちのひとつでしかありません。

この記事は、その可能性を並べて整理するためのものです。似たテーマとして、副作用の説明書を読むと怖くて薬が飲めないときでは飲む前の不安を、薬が効いているかわからないときでは効果の見極め方を扱っています。この記事が扱うのは、薬が動いたあとに出た不調をどう考えるかです。

はじめにお断りしておきます。この記事は、自己判断で薬を止める・減らすためのものではありません。 急にやめること自体が不調の原因になる薬があります。判断は診察で行います。

起こりうることを並べてみる

薬が動いたあとの不調には、少なくとも次のようなものが考えられます。

1. 飲み始め・増量のあとの反応(賦活症候群)

抗うつ薬を始めた、あるいは増やしたあとに、いらだち、不安、焦り、パニック発作、怒りっぽさ、衝動性、不眠、じっとしていられない感じ、そして逆に気分が高ぶって眠らなくても平気なほど活動的になることなどが出ることがあります。とくに最後のものは、ご本人が「調子が良くなった」と受け取って報告しないことがあるため、注意が必要です。専門書ではこれを賦活症候群と呼んでいます。

見過ごされやすいのが厄介な点です。「些細なことで切れやすくなった」という訴えは決して珍しくない、と専門書は書いています。そして25歳未満では、SSRIなどの抗うつ薬が、偽の薬(プラセボ)と比べて自殺念慮という副作用を有意に多く生じさせるというデータがあるため、若い方への投与は慎重であるべきで、この症候群が出ていないか頻繁に確認しなければならない、とされています。

若い方でこうした変化があるときは、次の診察を待たずにお伝えください。

2. 減量・中止のあとの反応(離脱症状/中断症状)

薬を減らした、やめた、切り替えたあとに出るものです。

ここで、専門書が指摘している落とし穴があります。離脱症候群は、うつ病の症状と見分けがつきにくい。 そのため、薬をやめて離脱症候群が出ると、「やはり薬がないと症状が出る」「薬をやめるとうつが再発する」と患者も医師も考えてしまい、その結果、服薬が長期に及ぶ例が珍しくない、と。

つまり、減らしたあとの不調をそのまま「再発の証拠」と読むのは、必ずしも正しくないということです。

SSRI(抗うつ薬の一種)について広く使われている基準では、次のように整理されています。

  • SSRIを4週間以上飲んだあとに、中止または減量した
  • その10日以内に、次のような症状が2つ以上出た
    • ふらつき、めまい
    • 吐き気、嘔吐
    • 頭痛
    • 眠気
    • 不安、焦り
    • 刺すような痛み、しびれ、電気が走るような感覚
    • ふるえ、発汗
    • 不眠、いらだち、下痢
  • それが生活に支障をきたしている
  • 体の病気や他の薬では説明がつかない
  • もともとの病気の再燃・再発ではない

最後の二つは、ほかの可能性を医師が確かめて初めて満たせる項目です。ご自身でチェックできる性質のものではありませんので、自己判断の材料ではなく、診察で何が確かめられているかを知るための一覧としてご覧ください。

注目していただきたいのは、電気が走るような感覚やしびれです。これらは、もともとのうつや不安の症状として経験されていたものとは質が違います。こうした感覚が混じっているときは、離脱の側を疑う手がかりになります。

なお、離脱症状は抗うつ薬に限りません。専門書は、ほぼすべての向精神薬で起こりうると書いています。睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン系、および、いわゆる非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬)では、不眠、不安、気分の悪さ、焦り、ふるえ、発汗、頭痛、吐き気、感覚の異常などが挙げられており、これらは中止だけでなく減量でも起こります。しかも、それらはこの薬がもともと治そうとしていた症状そのものでもあるため、離脱なのか病状が戻ったのかの区別は簡単ではないと、はっきり書かれています。依存との関係については抗不安薬と依存をご覧ください。

3. 元の症状が、前より強く戻る(リバウンド)

離脱症状とは別に、もともとの症状が、治療を始める前よりも強い状態で戻ってくる現象があります。専門書はこれをリバウンドと呼んで、中断症状とは区別しています。

体のほうが薬の効き方に合わせて調整をしていたところに、急に薬がなくなるために起きると説明されています。だからこそ、減らすときはゆっくり、という原則が出てきます。

時間についても記載があります。急な減量・中止では1週間以内に出てくるのがふつうで、元の量に戻せば速やかに改善し、多くは2〜6週のうちに和らいでいくとされています(ただし量を戻す判断は医師が行います)。

4. 病気そのものの再燃・再発

もちろん、この可能性もあります。こちらは中止から数週間〜数か月かけて、もとの症状が徐々に戻ってくる形をとることが多く、離脱症状よりゆっくりです(抗うつ薬をやめるときの中断症候群)。

ただし、上の三つを検討せずにここへ飛びつくと、必要のない増量や、必要な減薬の断念につながります。

5. 新しい薬の副作用

切り替えの場合は、前の薬をやめた影響と、新しい薬を始めた影響が重なります。両方が同時に起きていることも珍しくありません。

6. すぐに連絡すべきもの

まれですが、薬を始めた・増やした・足したあとに、発熱、筋肉のこわばり、けいれんに近い動き、意識のもうろうなどを伴う状態が起こることがあります。薬が動いた当日から数日以内に急に始まることが多いものですが、日数にかかわらず、これらが揃うときは次の診察を待たずに連絡してください。

見分けの手がかりは「時間」です

ここまで見てきたとおり、症状の中身だけで見分けるのは難しい場面があります。そこで手がかりになるのが、時間の情報です。

具体的には、次の三つです。

  1. 薬が動いた日(始めた、増やした、減らした、変えた。それぞれの日付)
  2. 不調が出た日(薬が動いてから何日目か)
  3. その後どう推移したか(日ごとに強くなっているか、弱くなっているか、変わらないか)

この三つが揃うと、離脱なのか、飲み始めの反応なのか、病気そのものの動きなのかを、医師が判断しやすくなります。逆に、「最近つらいです」だけでは、いずれの可能性も残ったままになります。

診察で何をどう伝えるかについては、診察の5分で何を話すかもご覧ください。

「元に戻して確かめる」という方法があります

離脱症状が疑われるとき、専門書が挙げている対処は明快です。いったん元の用量に戻し、状態が安定したら、今度は前よりもゆっくり減らしていく。

これは同時に、確かめる方法にもなっています。戻して落ち着くなら、減らしたことによる反応だった可能性が高くなるからです。

ただし――これは医師が判断して行うことです。 ご自身で量を戻したり増やしたりしないでください。用量を変える判断には、病状、薬の種類、これまでの経過が関わります。

薬の減らし方そのものについては、抗うつ薬をやめるときの中断症候群と安全な減らし方睡眠薬をやめたいときで詳しくお伝えしています。

「もう飲みたくない」と思ったときこそ、診察へ

この記事を読んで、「やはり薬をやめたい」と感じた方もおられるかもしれません。

その気持ちは、隠さずに診察に持ってきてください。気持ちを伝えたからといって、無理に続けさせられるわけではありません。 むしろ、やめたい理由(副作用がつらいのか、飲んでいること自体が嫌なのか、効いている実感がないのか)が分かると、選べる手が増えます。

いちばん困るのは、黙って自己判断で止めてしまい、その後の不調が離脱なのか再燃なのか誰にも分からなくなることです。そうなると、次に何をすればよいかの手がかりが失われます。

自己判断で通院をやめてしまった方の再受診については、通院を自己判断でやめてしまったときもご覧ください。

当院での実際

当院では、初診の際に、いま服用中のお薬だけでなく市販薬やサプリメントも確認しています。飲み合わせをふまえて処方を考えるためです。

通院は基本的に2週間に一度としています。薬を変えた直後は、この間隔のあいだに変化が起きることが多いので、その期間の記録があると診察が進みやすくなります。

また、「夜だけ様子がおかしい」といったご相談を受けたときは、まず服用中の薬の内容を見直します。ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は急にやめること自体が状態を乱すため、見直しも医師が計画を立てて行います。

発熱とともに筋肉が硬くなる、意識がはっきりしない、けいれんが起きるといった場合は、次の診察を待たず、迷わず救急(119)を利用してください。通院中の方は、まず主治医にご相談ください。

まとめ

  • 薬が動いた直後の不調は、病気の悪化とは限りません。飲み始めの反応、離脱症状、元の症状の反動、新しい薬の副作用など、複数の可能性があります
  • 専門書は、離脱症候群がうつ病の症状と見分けにくく、その結果「やはり薬が必要だ」と結論されて服薬が長期に及ぶ例が珍しくないと指摘しています
  • 離脱症状は抗うつ薬に限らず、ほぼすべての向精神薬で起こりえます。睡眠薬・抗不安薬では、中止だけでなく減量でも生じます
  • 見分けの手がかりは時間です。薬が動いた日・不調が出た日・その後の推移、この三つを診察に持ってきてください
  • 用量を戻す・減らすの判断は医師が行います。自己判断で止めないでください。やめたい気持ちは、そのまま診察でお話しください

参考にした書籍

この記事は、次の書籍の記述を要約・再構成して作成しました(原文の転載ではありません)。

  • 『精神疾患の薬物療法講義』
  • 『ジェネラリストのための向精神薬の使い方』
  • 『専門医のための臨床精神神経薬理学テキスト』

よくある質問

薬を減らしたら調子が悪くなりました。やはり薬が必要ということですか。

離脱症状の可能性もあれば、実際に症状が戻ってきている可能性もあり、この二つは見分けが難しいことが知られています。専門書は、離脱症状がうつ病の症状と紛らわしいため「やはり薬がないとだめだ」と早く結論されてしまう場合があると指摘しています。どちらであるかは診察で確かめます。自己判断で量を変えず、まず主治医にご相談ください。

離脱症状と、病気が戻ってきたのとは、どう違いますか。

手がかりのひとつは時間です。SSRI(抗うつ薬の一種)については、中止・減量から10日以内に出るという基準が用いられています。ほかの抗うつ薬でも似た症状は起こりますが、日数の目安がそのまま当てはまるとは限りません。また、めまい、しびれ、電気が走るような感覚といった、もともとの症状にはなかった体の感覚が混じることがあります。確実な見分けは診察が必要です。

薬を飲み始めてから、かえってイライラして眠れません。

飲み始めや増量のあとに、いらだち、不安、焦り、怒りっぽさ、じっとしていられない感じ、不眠、そして逆に気分が高ぶって眠らなくても平気になることなどが出ることがあり、専門書では賦活症候群と呼ばれています。とくに25歳未満では注意が必要とされているため、早めに主治医へお伝えください。

自分で判断して、いったん薬を止めてもよいですか。

止めないでください。急にやめること自体が不調の原因になる薬があります。減らしたい、やめたいという気持ちがあるときは、その気持ちをそのまま診察でお話しください。減らし方には手順があり、医師が計画を立てて進めます。

すぐに連絡したほうがよいのは、どういうときですか。

発熱とともに筋肉が硬くなる、意識がもうろうとする、けいれんが起きるといった場合は、次の診察を待たずに連絡してください。差し迫った状況では、迷わず救急(119)を利用してください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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