福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
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はじめに

家族や恋人、友人、職場の同僚から、ある日ふいに「死にたい」と打ち明けられたら——。多くの方は頭が真っ白になり、「どう答えるのが正解なのか」「変なことを言って追い詰めてしまわないか」と、その場に立ちすくんでしまいます。

この記事は、打ち明けられて動揺しているご家族や身近な方に向けて書いています。自殺予防を専門とする精神科医・松本俊彦先生の著書『もしも「死にたい」と言われたら』の内容に加え、精神科の専門誌『精神科治療学』の自殺対策特集の知見も参考に、よくある誤解、避けたい言葉と役立つ応え方、そして医療につなぐタイミングまでを整理しました。

先に一番大切なことをお伝えします。あなたに打ち明けたということ自体が、「この人なら分かってくれるかもしれない」という信頼の表れです。完璧な返答は必要ありません。まず、その意味を知っていただければと思います。

「話題にすると危険」は誤解です

打ち明けられた側がまず抱くのは、「自殺の話を掘り下げたら、かえって背中を押してしまうのでは」という恐れではないでしょうか。

著者の精神科医は、この心配に対してはっきりと答えています。尋ねたことで自殺が起きやすくなることを示した研究はいまのところひとつもなく、多くの自殺予防の専門家は、むしろ率直に質問すべきだと強調している、と。専門家の言葉として「質問されることで、これまで必死に秘密にしてきたことに終止符が打たれ、むしろ安心することが多い」という指摘も紹介されています。

もうひとつ知っておいていただきたいのは、「本気で死にたい」と考えた経験を持つ人は決して少数ではない、と国内の調査でも報告されていることです。死にたい気持ちが頭をよぎること自体は、実は決して珍しいことではありません。「そんなことを考えるなんて異常だ」という前提を手放すだけでも、落ち着いて向き合いやすくなります。

逆に注意したいのは、深刻な死にたい気持ちほど隠される傾向がある、という点です。著者によれば、強く思い詰めた人ほど周囲に気づかれないよう平静を装ったり、ことさら元気に振る舞ったりすることさえあるといいます。だからこそ、本人が言葉にしてくれた機会を、「そんなこと言わないで」と閉ざしてしまうのはもったいないのです。「よく話してくれたね」と受け止め、話せる場を保つことが第一歩になります。

「死にたい」は「死にたいほどつらい」というSOS

では、「死にたい」という言葉をどう理解すればよいのでしょうか。

著者の精神科医は、こう述べています。「死にたい」と誰かに告げることは、「死にたいくらいつらい」ということであり、「もしこのつらさが少しでもやわらぐなら、本当は生きたい」という意味なのだ、と。死を考える人の心は「助かりたい」と「助かりたくない」のあいだでたえず揺れており、本当に望んでいるのは死そのものではなく、抱えている困難な問題が解決されることだ、というのです。

さらに著者は、人は誰彼かまわず死にたい気持ちを打ち明けるわけではなく、「この人なら理解してくれるかもしれない」と相手を選んで告白している、とも指摘しています。また、別れ際や時間切れ間近のタイミングでようやく切り出されることが多いのは、ずっと言い出せずにためらってきた末の告白だからだそうです。

つまり、あなたに向けられた「死にたい」は、追い詰められた末に、勇気を振り絞って発せられたSOSです。そう捉え直すと、必要なのは気の利いた返答ではなく、そのつらさに耳を傾けることだと見えてきます。自殺予防教育では「TALKの原則」——率直に伝え、尋ね、聴き、安全を守る——が知られていますが、その中心にあるのも「まず聴く」姿勢です。

避けたい言葉と、役立つ応え方

避けたい言葉

著者の精神科医は、「残された人はどうするんだ」「家族の身になってみろ」「死んではいけない」といった叱責や強引な説得は好ましくない、と明確に述べています。「自殺はいけない」と決めつけられた時点で、本人はもう正直な気持ちを語れなくなってしまうからです。また、安易な励ましもすべきではないとされます。「がんばって」という言葉は、すでに限界までがんばってきた本人には「まだ足りない」と響きかねません。

自分の人生観や信念に基づいて死の是非を議論することも、不毛であるだけでなく有害になりうると指摘されています。議論で言い負かしても、つらい気持ち自体は何も変わらないためです。「一時の気の迷いでしょう」と軽く流すことも、本人の苦痛そのものを否定することにつながるとされています。

役立つ応え方

一方、勧められているのはシンプルです。ひとつは、打ち明けてくれたことをねぎらうこと。「話してくれてありがとう」「よく言ってくれたね」という言葉は、「正直に気持ちを語ってよいのだ」というメッセージになります。その際、慌てず騒がず、静かで穏やかな態度を保つことが望ましいとされています。

もうひとつは、聴くことと、尋ねることです。本人の言い分にまず耳を傾け、大事な言葉を繰り返したり、「つまり、〜のことで苦しいんだね」と整理を手伝ったりしながら、「そこまでつらくさせているものは何か」を一緒に明らかにしていきます。死の是非を判断するのではなく、背景にあるつらさの正体に目を向ける——これが、身近な人にもできる最も大切な関わりです。

聴くときのちょっとしたコツとして、本人の言葉を安易に別の言葉に言い換えないことも挙げられます。自殺予防の相談実践の報告でも、相談者の言葉をそのまま使い、質問を連発しないことが大切だとされています。「消えたい」と言った人に「つまり死にたいってこと?」と先回りするのではなく、本人が選んだ言葉のまま受け取るほうが、安心して話を続けやすくなります。

また、つらさを聴いたあとに、「それでも、これまで何があなたを支えてきたの?」と尋ねてみる方法もあります。精神科の診察でも、危険の評価とあわせて「なぜこれまで踏みとどまってこられたのか」という支えの側を確認することが重視されています。家族が無理に聞き出す必要はありませんが、本人の口から「子どものこと」「仕事のこと」など支えが語られたら、それは大切な手がかりです。

小さなつながりが、命を守る力になります

「自分に何ができるのか」と無力感を抱く方も多いのですが、自殺予防の研究では、意外なほど小さな関わりに効果があることが示されています。

たとえば海外の研究では、治療を中断した自殺未遂経験者に、毎月〜隔月に1回、短い手紙を送り続けただけのグループで、その後の自殺や再企図が有意に減ったという報告があります。高齢者への定期的な電話による見守りで自殺率が大きく下がったという報告もあります。特別なカウンセリング技術ではなく、「あなたを気にかけている人がいる」という感覚——専門的には「所属感」と呼ばれます——を保つこと自体に、予防の力があると考えられているのです。

逆に、困ったときに実際に頼れる相手がいない人は、自殺念慮を抱きやすいことも報告されています。家族や友人が「いる」ことと、「頼れる」ことは同じではありません。あなたが日常のなかで連絡を取り続け、食事をともにし、「困ったら言ってね」と伝えておくこと。それは素朴に見えて、研究の裏づけのある関わりです。

ひとつの関係だけで抱え込むのではなく、家族・友人・職場・医療など、複数の緩やかなつながりを保てるように手伝うことも、長い目で見て本人の支えになります。

自殺未遂があった場合——そのあとの1年間が大切です

もしすでに自殺未遂があった場合には、知っておいていただきたいことがあります。自殺未遂の経験は、その後の自殺の最も強い危険因子のひとつとされ、再企図の多くは1年以内に起きることが知られています。つまり、未遂のあとの1年間、医療とのつながりを切らさないことが、命を守るうえでとても重要です。

このとき家族が「魔が差しただけでしょう」と出来事を小さく扱ったり、「なんてことをしたんだ」と叱責したりすると、本人は正直な気持ちを話せなくなり、再企図のリスクが高まるとされています。動揺するのは当然ですが、責めるのではなく、「助かってよかった」「これからのことを一緒に考えたい」と伝え、通院に同行するなど治療の継続を支えることが、家族にできる最も確かな関わりです。救命救急センターでの研究でも、退院後に医療・生活支援へ切れ目なくつなぐ支援が再企図を減らすことが示されています。

あわせて気をつけたいサイン——お酒と不眠

死にたい気持ちの周辺で、家族が気づきやすい危険信号が2つあります。

ひとつはお酒です。飲酒は衝動性を高め、自殺のリスクを大きく上げることが知られています。つらさを紛らわすための飲酒、眠るための飲酒が増えているときは、それ自体が受診を考えるサインです。

もうひとつは不眠です。眠れない状態が続くことは、うつ病などの精神疾患とは独立して自殺のリスクと関連することが報告されています。「死にたいとまでは言わないが、ずっと眠れていない」——それだけでも、精神科・心療内科を受診する立派な理由になります。不眠と心の不調の関係は、不眠とうつ・不安のつながりの記事でも解説しています。

また、自殺の背景はひとつの原因だけで説明できないことがほとんどで、たとえば借金や仕事の問題と、うつ病などの不調が重なったときに危険が高まるとされます。「悩みの原因がはっきりしているから、医療は関係ない」と考えず、生活の問題への対処と医療への相談を並行して進めることが勧められます。

打ち明けられたあなた自身のケアも忘れずに

重い告白を受け止めた側にも、大きな心の負担がかかります。眠れなくなったり、「自分が四六時中見張っていなければ」と追い詰められたりするのは自然な反応です。

しかし、ひとりで抱え込み続けることは、あなた自身が疲弊するだけでなく、支え自体が続かなくなる危険があります。著者も、支える人を増やし、孤立させない環境をつくることの重要性を繰り返し述べています。信頼できる他の家族と分担する、医療機関に相談するなど、「支える側のチーム」をつくることを意識してください。秘密を守りたい気持ちはあっても、命に関わる事柄は、あなたひとりの責任にしてよいものではありません。

受診・相談の目安

次のような場合は、専門の医療機関への相談をおすすめします。

  • 「死にたい」という言葉が繰り返される、または具体的な計画をほのめかしている
  • 眠れない・食べられない・仕事や学校に行けないなど、生活への影響が続いている
  • 身辺整理をする、大切な物を人に譲るなど、気になる行動の変化がある
  • 打ち明けられたあなた自身が、疲れ切って限界を感じている

本人がすでに医療機関に通院中であれば、まずその主治医に状況を伝えてください。実際に体を傷つけてしまった場合や、今まさに危険が迫っていると感じる場合は、ためらわず119番で救急要請をしてください。

受診をすすめるときは、「病院に行きなさい」と決めつける形よりも、「つらさが続いているのが心配だから、一度専門の先生に相談してみない?」と、本人のつらさを軽くする手段として提案するほうが受け入れられやすいとされます。本人が受診をためらう場合の関わり方は、本人が受診を嫌がるときの記事で詳しく解説しています。

当院での実際

当院では、ご家族のみの相談はお受けしていません。ご本人が受診に同意している場合は、ご本人の同意のうえでご家族が診察に同席いただけます。ご本人が受診できない場合は、公的相談先または受診予定の医療機関へお問い合わせください。

予約はWEB(デジスマ)で受け付けており、初診前にWEB問診があります。初診の所要時間の目安は問診を含めて30分程度です。なお、自殺の危険性の評価や治療方針の判断は、診察のうえで医師が個別に行うものです。この記事の内容だけで判断せず、迷ったときは医療機関にお問い合わせください。

まとめ

  • 「死にたい」を話題にしても危険は高まらないとされ、むしろ話せることが安心につながります
  • 「死にたい」は「死にたいほどつらい。本当は生きたい」というSOSであり、あなたは打ち明ける相手として選ばれた人です
  • 叱責・説得・安易な励ましは避け、「話してくれてありがとう」と受け止めて、まず聴くことが役立ちます
  • 手紙1通・電話1本レベルの小さなつながりにも、自殺予防の効果が示されています。「気にかけている」と伝え続けることに意味があります
  • 自殺未遂のあとは1年間が特に大切です。叱責や矮小化を避け、通院の継続を支えてください
  • 眠れない日が続く、お酒が増えている——それだけでも受診を考えるサインです
  • 打ち明けられた側のケアも大切です。ひとりで抱え込まず、支える側のチームをつくりましょう
  • 切迫した危険があれば119番、通院中なら主治医へ。迷うときは医療機関にご相談ください

参考にした書籍・文献(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 松本俊彦『もしも「死にたい」と言われたら 自殺リスクの評価と対応』
  • 『精神科治療学』第36巻第8号・第9号 特集「その後の自殺対策」(星和書店、2021年)

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

よくある質問

「死にたい」と言われたとき、自殺の話題に触れると逆に危険ではありませんか?

「聞くと背中を押してしまうのでは」という心配はとても多いのですが、質問したことで自殺が起きやすくなることを示した研究は現在のところ知られておらず、多くの専門家はむしろ率直に尋ねることを勧めています。話題にできたことで、本人がひとりで抱えてきた秘密に区切りがつき、安心につながることも多いとされています。

「がんばって」「死んではだめ」と励ますのはいけないのでしょうか?

励ます側に悪意はなくても、「死んではいけない」と決めつけられた時点で、本人は正直な気持ちを語れなくなりやすいと指摘されています。安易な励ましや説得よりも、まず「話してくれてありがとう」と受け止め、つらさの中身を聴くことが勧められます。対応に迷うときは、医療機関にご相談ください。

本人が受診を嫌がる場合、家族だけで相談してもよいですか?

本人がすぐに受診を望まない場合でも、打ち明けられた側が一人で抱え込む必要はありません。本人の様子や経緯をメモに整理したうえで、受診の進め方も含めて医療機関に問い合わせてみてください。本人が通院中の場合は、まずその主治医にご相談ください。

今まさに命の危険が迫っていると感じたら、どうすればよいですか?

実際に体を傷つけてしまった、意識がおかしい、目を離すと危ないと感じるなど切迫した状況では、ためらわず119番で救急要請をしてください。通院中の医療機関がある場合は、あわせて主治医にも状況を伝えてください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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