体のあちこちが痛い、動悸やめまいが続く、いつも体がだるい。心配になって内科で検査を受けても「異常ありません」。別の病院でも「どこも悪くない」。でも、症状は確かにここにあるのに――。
このようなつらさを抱えて、いくつもの医療機関を回っている方は少なくありません。「異常なし」と言われるたびに、安心するどころか「原因が分からないなんて、もっと悪い病気では」と不安が増し、症状のことが頭から離れなくなっていく。そんな状態には、身体症状症という名前がついています。
この記事では、身体症状症とはどんな状態か、症状は決して「気のせい」ではないこと、病気不安症や自律神経失調症との関係、検査を繰り返すことがかえってつらさを長引かせる構図、そして精神科でできる治療と受診の目安について、福岡県春日市の精神科・心療内科の視点からお伝えします。
身体症状症とはどんな状態か
身体症状症は、痛み・倦怠感・動悸・めまい・吐き気・しびれなど、つらい身体症状が長く続き、その症状に対する考えや不安、行動が過剰になって、生活に大きな支障が出ている状態を指す診断名です。
ポイントは、診断の中心が「検査で異常があるかないか」ではなく、症状への「とらわれ」の強さにあることです。具体的には、次のような特徴があるとされています。
- 症状の深刻さについて、繰り返し考え続けてしまう
- 健康や症状についての強い不安がずっと続いている
- 症状や体調の心配に、多くの時間とエネルギーを費やしている
つまり、症状そのもののつらさに加えて、「この痛みは何か重大な病気のサインではないか」「悪くなっていくのではないか」という考えが頭を占領し、体の感覚を常に監視するようになり、生活の中心が症状になってしまっている――この全体が、身体症状症という状態です。
なお、身体症状症は、検査で異常が見つからない場合だけの診断ではありません。実際に体の病気がある方でも、その病気から予想される程度を大きく超えて症状へのとらわれが強い場合には、身体症状症が併存していると考えることがあります。
症状は本物です――「気のせい」「詐病」ではありません
まず、いちばん大切なことをお伝えします。身体症状症の症状は、本人が実際に感じている本物の症状です。
「検査で異常がない=症状が存在しない」ではありません。痛みや不調の感じ方には、脳が体からの信号をどう処理するかが深く関わっており、不安や緊張が続くと、体の感覚に対する脳の感度が上がり、同じ刺激でもより強く、よりつらく感じられるようになると考えられています。
たとえば、症状が心配で体に注意を向け続けると、普段なら気に留めない小さな感覚まで拾い上げるようになります。拾い上げた感覚が「やはり何かおかしい」という不安を強め、不安が体の緊張や自律神経の乱れを生み、それがまた新しい症状として感じられる――こうして、症状と不安がお互いを増幅し合う悪循環ができあがります。
この悪循環の中で感じている痛みやだるさは、装っているものでも、気の持ちようで消えるものでもありません。「気のせいと言われた」「大げさだと思われている」と感じて傷ついてきた方にこそ、身体症状症という考え方は、「あなたの症状は本物で、そして治療の対象になる」というメッセージとして受け取っていただきたいのです。
病気不安症との違い――症状が主役か、不安が主役か
身体症状症とよく似た状態に、病気不安症があります。混同されやすいのですが、中心にあるものが異なります。
- 身体症状症:実際につらい身体症状があり、その症状そのものへのとらわれが中心
- 病気不安症:身体症状は軽いかほとんどないのに、「がんではないか」「重い病気が隠れているのではないか」という病気への不安が中心
たとえば、「毎日続く頭痛やだるさがつらくて、そのことばかり考えてしまう」なら身体症状症に近く、「体は大きくつらくないが、ささいな変化のたびに重病を疑って検索や検査を繰り返してしまう」なら病気不安症に近い、というイメージです。
もっとも、実際の患者さんでは両方の要素が混ざっていることも多く、線引きそのものに大きな意味があるわけではありません。どちらも「体と病気への不安の悪循環」という共通の構図があり、治療的なアプローチにも重なる部分が多くあります。病気不安症については、病気不安症の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
「自律神経失調症」という呼び名との関係
検査で異常のない体の不調に対して、日本では昔から「自律神経失調症」という呼び名が広く使われてきました。実は、自律神経失調症は国際的な診断基準にある正式な病名ではなく、多彩な身体の不調を広く指す日本での通称という位置づけです。
自律神経失調症と呼ばれてきた状態の中身を丁寧に見ていくと、
- 身体症状症にあたる方
- うつ病の身体症状(だるさ・痛み・食欲不振など)が前面に出ている方
- パニック障害や不安症の身体症状(動悸・めまい・息苦しさなど)が中心の方
- 生活リズムやストレスによる一時的な自律神経の乱れの方
など、さまざまな状態が含まれています。どれにあたるかによって治療の力点が変わるため、「自律神経失調症だから仕方ない」で終わらせず、背景に何があるのかを整理することが、改善への第一歩になります。自律神経失調症という考え方や当院での診かたについては、自律神経失調症のページをご覧ください。
どんな人がなりやすい?――背景にあるもの
身体症状症は、特別な人だけがなるものではありません。誰にでも起こりうる状態ですが、次のような背景があると、症状と不安の悪循環に入りやすいと考えられています。
- 強いストレスや環境の変化:仕事の負荷、人間関係の悩み、介護や育児、身近な人との別れなど、心の負担が続いている時期に、体の症状として現れることがあります
- 体の病気や体調不良の経験:自分や家族が大きな病気をした経験があると、体の感覚に敏感になり、小さな変化も「またあの時のように」と結びつけやすくなります
- まじめで我慢強い性格傾向:つらさを言葉にするのが苦手で、弱音を吐かずに頑張り続ける方は、心の負担が体の症状として表に出やすいといわれています
- 「心の不調」への抵抗感:「精神的なものと認めたくない」という気持ちが強いほど、体の原因探しに向かいやすく、結果として検査の繰り返しにつながることがあります
大切なのは、これらは「本人の弱さ」ではないということです。ストレスが体の症状として現れるのは、心と体がつながっている以上、誰にでも起こる自然な反応です。むしろ、心のつらさを言葉にせず頑張ってきた方ほど、体が代わりにSOSを出している、と考えることもできます。
ドクターショッピングの悪循環――検査の「安心」が続かない理由
身体症状症の方がたどりやすい道筋に、ドクターショッピング(医療機関を次々に変えて受診を繰り返すこと)があります。
「異常なし」と言われた直後は、少しほっとします。しかし数日もすると、「あの検査では分からない病気かもしれない」「見落とされたのでは」という疑いが頭をもたげ、また症状が気になり始めます。そこで別の病院でもう一度検査を受ける。また「異常なし」。また一時的な安心。また不安のぶり返し――。
この繰り返しには、つらい構図が隠れています。
- 検査による安心は長続きしない:検査は「その時点で大きな異常がない」ことしか保証できず、「絶対に病気ではない」証明にはなりません。不安が強い状態では、そのわずかな余白がすぐに新しい心配の種になります
- 検査を重ねるほど、体への注目が強まる:受診と検査が生活の中心になると、体の感覚を監視する時間が増え、症状はかえって拾い上げられやすくなります
- 「異常なし」が孤立感を深める:どこへ行っても原因が見つからないことで、「誰にも分かってもらえない」という気持ちが強まり、それ自体がストレスとなって症状を悪化させます
誤解しないでいただきたいのですが、体の病気を除外するための検査は必要なものです。問題は、除外が十分に済んだあとも「原因探しの検査」だけを繰り返し続けることです。そこで得られる安心は一時的で、そのあいだ、症状とのつき合い方を変えるための治療は始まらないまま、つらい時間だけが延びていきます。検査で大きな異常がないと確認できた段階は、ゴールではなく、「治療の軸足を移すタイミング」なのです。
精神科でできる治療――症状を消すことより、生活を取り戻すことから
身体症状症の治療は、「症状を完全にゼロにする」ことを最初の目標にはしません。それよりも、症状にとらわれる時間を減らし、症状があっても送れる生活を少しずつ取り戻すことを目指します。遠回りに見えて、結果的に症状そのものが軽くなっていくことも多い道筋です。
一般的に、次のようなアプローチが行われます。
- 状態の整理と共有:まず、これまでの経過、受けた検査、症状の出方、生活への影響を丁寧にうかがいます。「症状は本物であること」「不安と症状の悪循環という構図」を医師と患者さんで共有すること自体が、治療の土台になります
- 認知行動療法的なアプローチ:「この痛みは重病のサインだ」といった考え方のクセに気づき、症状の監視や検索、繰り返しの検査といった不安を維持する行動を少しずつ手放していく方法が有効とされています
- 生活リズムと活動の回復:症状のために控えていた活動を、負担の小さいものから段階的に再開していきます。動ける範囲が広がると、症状に向く注意の割合が自然に減っていきます
- 薬物療法:うつ病や不安症が背景にある場合や、痛み・不安が強い場合には、抗うつ薬などによる薬物療法が助けになることがあるとされています。薬を使うかどうかは、状態を見ながら診察のなかで一緒に考えていきます
また、決まった主治医のもとで定期的に通院を続けること自体に治療的な意味があるとされています。「症状が出たら受診する」のではなく、「症状があってもなくても決まった間隔で診てもらう」形にすると、体調の変化を継続的に見てもらえる安心感が、検査を繰り返す必要性を減らしてくれるからです。
受診の目安――こんなときはご相談ください
次のような状態があれば、精神科・心療内科への受診を検討するタイミングです。
- 内科などで検査を受けて大きな異常はないと言われたのに、つらい症状が続いている
- 症状のことを考える時間が長く、頭から離れない
- 症状が心配で、仕事・家事・外出など生活に支障が出ている
- 「異常なし」と言われても安心できず、複数の医療機関で検査を繰り返している
- 体調の検索がやめられず、調べるほど不安になる
- 気分の落ち込みや不眠、食欲の低下も出てきた
なお、まだ体の検査を受けていない症状については、まず内科などで体の病気の確認を受けていただくことも大切です。すでに検査で大きな異常がないことを確認済みであれば、その結果(お薬手帳や検査結果があれば)をお持ちのうえでご相談いただくと、診察がスムーズになります。
また、つらさが積み重なって「消えてしまいたい」という考えが頭から離れないなど切迫した状態のときは、通院中の方は主治医に連絡し、命に関わる緊急の場合はためらわず救急(119)を利用してください。
まとめ――「異常なし」の先に、治療の道はあります
身体症状症は、検査で説明のつかない痛みや不調が続き、症状への強いとらわれによって生活が症状中心になってしまう状態です。症状は本人が実際に感じている本物のものであり、気のせいでも大げさでもありません。病気不安症とは「症状が主役か、病気への不安が主役か」という違いがあり、自律神経失調症と呼ばれてきた状態の中にも、身体症状症にあたる方が含まれています。
検査を繰り返すことで得られる安心は一時的で、原因探しだけを続けるうちに、つらい時間が延びてしまいがちです。体の病気の除外が済んだら、症状とのつき合い方を変え、生活を取り戻す治療へ軸足を移すことが、改善への入り口になります。
当院は福岡県春日市の精神科・心療内科として、検査で異常がないのに続く体の不調のご相談をお受けしています。「どこへ行っても分かってもらえなかった」という方こそ、これまでの経過を一緒に整理するところから始めましょう。WEB予約からご都合のよい日時をお選びいただけます。
よくある質問
身体症状症と言われました。症状は気のせいということですか?
いいえ、気のせいではありません。身体症状症の痛みや不調は、本人が実際に感じている本物の症状です。検査で説明できる異常が見つからないことと、症状が存在しないことは全く別の話です。身体症状症という診断は「つらさを装っている」という意味ではなく、症状へのとらわれが強まってつらさが増幅している状態に、治療の道筋をつけるための名前です。
身体症状症と病気不安症はどう違うのですか?
身体症状症は、痛みや倦怠感など実際の身体症状が続き、その症状へのとらわれが強い状態です。一方、病気不安症は身体症状そのものは軽いかほとんどないのに、「重い病気にかかっているのではないか」という不安が中心になる状態とされています。症状のつらさが主役か、病気への不安が主役か、という違いですが、実際には重なりもあり、診察のなかで丁寧に整理していきます。
自律神経失調症と身体症状症は同じものですか?
自律神経失調症は正式な診断名ではなく、検査で異常のない多彩な身体の不調を広く指す日本での通称です。その中には、身体症状症にあたる状態の方も、うつ病や不安症の身体症状として説明できる方も含まれています。呼び名にかかわらず、背景を整理して、その方に合った治療につなげることが大切です。
内科でいくつも検査を受けて異常なしでした。精神科を受診する意味はありますか?
あると考えられます。重い病気の見落としがないか検査で確認できたことは大切な情報で、そのうえで症状が続いているなら、症状へのとらわれや不安の悪循環に対して精神科でのアプローチが役立つ可能性があります。検査を繰り返すことよりも、「症状とどう付き合い、生活を取り戻すか」に軸足を移すことが改善の入り口になるとされています。