福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
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通勤電車に乗るとお腹が痛くなり、途中の駅で降りてトイレに駆け込む。大事な会議の前になると決まって下痢をする。病院で検査を受けても「異常なし」と言われたのに、症状は続いている――。

このような悩みの背景には、過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)という病気が隠れていることがあります。IBSは決して珍しい病気ではなく、日本人の10人に1人程度が該当するともいわれています。そして、その経過にストレスや不安が深く関わることが知られており、消化器内科と精神科・心療内科の両方にまたがるテーマでもあります。

この記事では、IBSとはどんな病気か、なぜ検査で異常が出ないのに症状が続くのか、ストレス・不安との悪循環、パニック障害や不安症との関係、そして精神科でできることと受診の目安について、福岡県春日市の精神科・心療内科の視点からお伝えします。

過敏性腸症候群(IBS)とは――検査で異常がないのに症状が続く病気

過敏性腸症候群は、腹痛と便通の異常(下痢・便秘)が慢性的に続くにもかかわらず、内視鏡検査や血液検査では炎症や腫瘍などの目に見える異常が見つからない病気です。

症状のパターンによって、いくつかのタイプに分けられます。

  • 下痢型:緊張する場面で急な腹痛と下痢が起きやすいタイプ。通勤・通学中の症状で悩む方に多くみられます
  • 便秘型:強い腹痛とともに便秘が続くタイプ
  • 混合型:下痢と便秘を交互に繰り返すタイプ

「検査で異常がないのに症状がある」と聞くと、「気のせいと言われているようだ」と感じる方もいるかもしれません。しかしそうではありません。IBSは、腸の形や組織には異常がなくても、腸の動きや知覚の調節がうまくいかなくなっている状態であり、症状は実在するものです。国際的な診断基準も定められている、れっきとした病気です。

まずは消化器内科で「他の病気ではないこと」の確認を

大切なことを先にお伝えします。お腹の症状が続いている場合、まず受診していただきたいのは消化器内科です

IBSの診断は、「腹痛や便通異常を起こす他の病気がないこと」を確認したうえでなされます。潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患、感染性腸炎、大腸のポリープやがん、甲状腺の病気など、似た症状を起こす病気(器質的疾患)は少なくありません。特に、血便がある、体重が減ってきた、発熱を伴う、夜中に症状で目が覚める、といった場合は、IBS以外の病気の可能性を検査でしっかり確認する必要があります。

「ストレスのせいだろう」と自己判断して検査を受けないまま過ごすことは、おすすめできません。逆に、検査で異常がないことが確認できれば、それは「安心して次の対処に進める」という大事な情報になります。精神科・心療内科でのご相談は、そのうえで検討していただくのが安全な順番です。

脳と腸はつながっている――「脳腸相関」という仕組み

なぜストレスでお腹が痛くなるのでしょうか。その鍵になるのが、脳腸相関と呼ばれる仕組みです。

脳と腸は、自律神経やホルモン、免疫などを介して、双方向に密接に影響し合っていることが知られています。緊張すると胃が痛くなる、心配ごとがあると食欲がなくなる――こうした経験は多くの方にあると思いますが、これは脳が感じたストレスが自律神経を通じて腸に伝わっている例です。

IBSでは、この脳と腸の連絡が過敏になっていると考えられています。

  • 脳から腸へ:ストレスや不安の信号が腸に伝わり、腸の動きが乱れて腹痛や下痢・便秘が起こる
  • 腸から脳へ:腸の不快な感覚が通常より強く脳に伝わり、わずかな刺激でも痛みとして感じやすくなる

つまり、ストレスが腸の症状を起こし、腸の症状がまたストレスや不安になる、という双方向の増幅が起きやすい状態なのです。「気の持ちよう」ではなく、体の仕組みとして説明できる現象です。こうした自律神経を介した心身のつながりについては、自律神経失調症のページでも解説しています。

「電車でまた痛くなったらどうしよう」――予期不安と回避の悪循環

IBSの症状で特につらいのが、症状そのものより「症状への恐怖」が生活を狭めていくという側面です。

典型的な経過はこうです。ある日、通勤電車の中で強い腹痛に襲われ、途中下車してトイレに駆け込んだ。冷や汗をかきながら「間に合わなかったらどうなっていたか」と考え、強い恐怖を感じた。それ以来、電車に乗るたびに「また痛くなるのではないか」と考えるようになった――。

この「また起きるのではないか」という不安を予期不安と呼びます。予期不安は、それ自体がストレス反応として腸を刺激するため、「不安になるから実際にお腹が痛くなる」という自己成就的な悪循環を生みます。

そして悪循環が進むと、行動の回避が始まります。

  • 快速や急行を避けて、各駅停車しか乗らない
  • トイレの場所を常に確認し、トイレのない場所には行かない
  • 朝食を抜く、出発の何時間も前から何も飲まない
  • 会議や外出の予定が入ると、数日前から憂うつになる
  • 車内では常にドア付近に立ち、路線図でトイレのある駅を数えている

回避すると一時的には安心できますが、「電車=危険な場所」という学習が強まり、不安はむしろ育っていきます。行動範囲が狭まり、遅刻や欠勤が増え、「自分は社会人失格だ」という自己否定や気分の落ち込みにつながっていくことも少なくありません。

この構図は、パニック障害でみられる広場恐怖(逃げられない場所・助けを求められない場所への恐怖と回避)と非常によく似ています。恐怖の対象が「パニック発作」か「腹部症状」かの違いはあっても、不安の仕組みと悪循環の構造は共通しているのです。

周囲に理解されにくいつらさ――「ただの腹痛」ではありません

IBSの悩みには、症状そのものに加えて、周囲に打ち明けにくいという特有のつらさがあります。

腹痛や下痢は日常的な症状であるだけに、「誰にでもあることでは」「気にしすぎでは」と受け取られやすく、遅刻や中座の本当の理由を職場に説明できないまま、一人で抱え込んでいる方が少なくありません。「お腹が弱いだけで病院に行くなんて大げさだ」と、ご自身でも受診をためらってしまうことがあります。

しかし、毎朝の通勤が恐怖になっている、外出の予定が立てられない、というレベルであれば、それはもう「体質」や「お腹が弱い」で済む話ではありません。困りごとの大きさは、症状の派手さではなく、生活への影響の大きさで測るものです。生活が狭まっているなら、それは相談する十分な理由になります。

パニック障害・不安症との併存は珍しくありません

IBSのある方には、パニック障害や不安症、うつ状態などが併存することが少なくないと報告されています。

  • 電車内の腹痛への恐怖に加えて、動悸や息苦しさ、「このままどうにかなってしまうのでは」という強い恐怖の発作が出る場合は、パニック障害の併存が考えられます
  • お腹のこと以外にも、仕事・健康・将来などさまざまな心配が止まらず、緊張や不眠が続いている場合は、全般性の不安症が背景にあるかもしれません
  • 症状が続く消耗から、気分の落ち込みや興味の低下といったうつ状態に至ることもあります

併存がある場合、腸の治療だけを行っても不安の悪循環が残り、症状がぶり返しやすくなります。逆に、不安の側の治療が進むと、腸の症状も楽になっていくことがしばしば経験されます。どちらか一方ではなく、両方を視野に入れて全体を整理することが、回復への近道になります。

精神科・心療内科でできること――不安の側からのアプローチ

消化器内科でIBSと診断され、腸への治療を受けている(あるいは受けた)うえで、ストレスや不安の関与が大きいと感じる場合、精神科・心療内科では次のようなお手伝いができます。

1. 状態の整理

まず診察では、症状がどんな場面で出るのか、予期不安や回避がどのくらい生活を狭めているのか、パニック障害・不安症・うつ状態の併存がないか、睡眠や生活リズムはどうかを丁寧に整理します。「腸の問題」と「不安の問題」がどう絡み合っているのかが見えてくるだけでも、対処の方向が定まります。

2. 不安への治療

予期不安や回避が強い場合は、認知行動療法的なアプローチが役立つとされています。「電車で腹痛が起きたら人生が終わる」といった破局的な考え方に気づいて現実的な見方に修正していくこと、そして回避していた場面に無理のない段階を踏んで少しずつ慣れていくことが柱になります。不安が強い場合には、SSRIと呼ばれる抗うつ薬などによる薬物療法が助けになることもあるとされています。薬については薬についてのページもご参照ください。

3. 生活リズムとストレスの調整

腸は生活リズムの影響を受けやすい臓器です。睡眠不足、不規則な食事、過労は症状を悪化させる要因になります。診察では、睡眠の立て直しや、ストレスの元になっている働き方・環境について、現実的に調整できるところがないかも一緒に考えていきます。

4. 心身両面のフォロー

消化器内科での治療と並行して通院していただくことも可能です。「お腹は消化器内科、不安はこちら」と役割を分けながら、全体として回復に向かうよう診察のなかで一緒に考えていきます。

日常でできる工夫――症状と少し距離を取るために

治療と並行して、ご自身でできる工夫もあります。

  • 症状が出た場面を記録する:いつ・どこで・どんな状況で症状が出たかを簡単にメモすると、悪化の引き金(睡眠不足、特定の場面、空腹や特定の食事など)が見えてくることがあります
  • 「保険」を用意して行動範囲を守る:トイレの場所を調べておく、時間に余裕を持って出る、といった準備は、無理のない範囲であれば安心材料になります。ただし、準備がないと一切行動できない状態まで進んでいる場合は、治療で不安の土台を整えるサインです
  • 完全にゼロを目指さない:「二度と症状が出ないように」と考えるほど、体は緊張して症状が出やすくなります。「出ても対処できる」に目標を置き換えるほうが、結果として症状は落ち着きやすいとされています
  • 睡眠と食事のリズムを整える:夜更かしや欠食は腸のリズムを乱します。まず睡眠時間の確保から始めるのが取り組みやすいでしょう

受診の目安――こんなときはご相談ください

次のような状態があれば、精神科・心療内科への受診を検討するタイミングです。

  • 消化器内科で「異常なし」または「IBS」と言われたが、症状と不安が続いている
  • 「また痛くなったらどうしよう」という予期不安で、電車・会議・外出がつらい
  • 各駅停車しか乗れない、トイレのない場所を避けるなど、行動範囲が狭まってきた
  • 症状のせいで遅刻・欠勤が増え、仕事や学業に支障が出ている
  • 動悸や息苦しさを伴う強い不安の発作がある
  • 気分の落ち込みや不眠など、心の不調も出てきた

なお、血便・体重減少・発熱・夜間に目が覚めるほどの症状など、体の病気を疑うサインがある場合は、まず消化器内科での検査を優先してください。また、つらさが積み重なって「消えてしまいたい」という考えが頭から離れないなど切迫した状態のときは、通院中の方は主治医に連絡し、命に関わる緊急の場合はためらわず救急(119)を利用してください。

まとめ――「気のせい」ではなく、脳と腸の両方から対処できる病気です

過敏性腸症候群は、検査で異常が出ないのに腹痛や下痢・便秘が続く病気で、脳と腸が影響し合う「脳腸相関」の乱れが背景にあると考えられています。まずは消化器内科で他の病気がないことを確認することが前提ですが、そのうえで、ストレスや予期不安が症状を増幅する悪循環に陥っている場合は、不安の側からの治療が回復の大きな助けになります。

「電車でお腹が痛くなるくらいで精神科に行っていいのか」とためらう必要はありません。行動範囲が狭まり、仕事や生活に影響が出ているなら、それは十分に相談する価値のある状態です。

当院は福岡県春日市の精神科・心療内科として、IBSに伴う不安や、パニック障害・不安症のご相談をお受けしています。腸と心の両面から、どうすれば楽になるかを診察のなかで一緒に考えていきましょう。WEB予約からご都合のよい日時をお選びいただけます。

よくある質問

過敏性腸症候群(IBS)は精神科で診てもらえるのですか?

IBSの診断と腸の治療そのものは消化器内科が担当しますが、症状の悪化にストレスや不安が深く関わっている場合、精神科・心療内科が力になれる部分があります。特に「電車に乗るのが怖い」「また症状が出たらどうしよう」という予期不安が強い場合や、パニック障害・不安症を併発している場合は、不安の側からの治療が腸の症状の改善につながることがあります。

検査では異常なしと言われたのに、お腹の症状が続きます。気のせいなのでしょうか?

気のせいではありません。IBSは、内視鏡や血液検査で目に見える異常が見つからないのに、腹痛や下痢・便秘が続く病気です。脳と腸が自律神経などを介して影響し合う「脳腸相関」の乱れが背景にあると考えられており、検査で異常がないことと、症状が実在することは矛盾しません。

まず何科を受診すればよいですか?

まずは消化器内科の受診をおすすめします。大腸の炎症や感染症など、IBS以外の病気(器質的疾患)がないかを検査で確認することが先決だからです。そのうえでIBSと診断され、ストレスや不安との関連が強いと感じる場合や、電車・外出への恐怖が生活に影響している場合に、精神科・心療内科の受診を検討していただくとよいと思います。

電車に乗るとお腹が痛くなるのが怖くて、各駅停車しか乗れません。これもIBSですか?

腹部症状そのものはIBSの可能性がありますが、「途中で降りられない状況が怖い」「トイレのない場所を避ける」という回避が強くなっている場合、広場恐怖やパニック障害に似た不安の仕組みが重なっていることがあります。この場合、腸の治療だけでなく不安への治療を併せて行うことで、行動の幅が広がりやすくなるとされています。診察で状態を整理することをおすすめします。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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