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「入社してまだ1年目なのに、もうつらいと感じている」「同期は頑張っているのに、自分だけ弱いのではないか」――そんなふうに、誰にも言えないまま出勤を続けている新社会人の方は少なくありません。

社会人1年目は、人生でも有数の大きな環境変化が起こる時期です。生活リズムも、人間関係も、求められる役割も、すべてが一度に変わります。そこでこころや体に不調が出るのは、決して珍しいことでも、恥ずかしいことでもありません。

この記事では、新社会人のメンタル不調がなぜ起こるのか、「五月病」だけではない不調の波、適応障害との関係、セルフケアと相談の目安、そして受診したら何が起こるのかをお伝えします。

社会人1年目に不調が起こりやすい理由

新社会人の不調の背景には、大きく三つの環境変化が重なっています。

生活リズムの変化

学生時代と比べて、起床時間・通勤・拘束時間・帰宅後の自由時間が大きく変わります。特に朝型への急な切り替えや通勤の負担は、睡眠の量と質を確実に削ります。睡眠が崩れると、気分の落ち込みや不安、集中力の低下が起こりやすくなり、不調の土台ができてしまいます。

人間関係の変化

学生時代は、気の合う人と過ごす時間をある程度自分で選べました。職場では、上司・先輩・取引先など、選べない人間関係のなかで、評価される立場として過ごすことになります。「怒られないか」「変に思われていないか」という緊張が一日中続くこと自体が、大きなエネルギーを消耗させます。

理想と現実のギャップ

「思っていた仕事と違う」「自分はもっとできると思っていた」「憧れて入った会社なのに楽しくない」――このギャップは、真面目に就職活動に取り組んだ人ほど大きく感じられます。期待が高かった分だけ、現実との落差がこころに響くのです。

これら三つが同時に、しかも逃げ場のない形で押し寄せるのが社会人1年目です。不調が出るのは、こころが弱いからではなく、負荷が客観的に大きいからだと考えてください。

「五月病」だけではない――夏から秋にも波は来る

新社会人の不調というと「五月病」が有名です。4月の緊張が連休で緩み、5月に気分の落ち込みや倦怠感が出る――たしかによくあるパターンです。

しかし、外来で新社会人の方を診ていると、不調の波は5月だけではありません。

  • 夏(7〜8月): 4月から張りつめて走り続けた疲れが、暑さと重なって一気に表面化する時期です。「5月は乗り切れたのに、最近になって朝起きられない」という形で現れます。
  • 夏〜秋(研修明け): 研修期間が終わり、独り立ちして責任のある仕事を任され始める時期です。守られていた期間が終わり、負荷が段階的に上がることで調子を崩す方がいます。
  • 秋以降: 「半年経ったのにまだ慣れない」「同期と差がついてきた気がする」という焦りが積み重なる時期です。

「五月病の時期は過ぎたから、今つらいのはおかしい」ということはありません。むしろ、時間差で出てくる不調のほうが、本人が「今さら言えない」と抱え込みやすい分、こじれやすい面があります。

適応障害との関係――「甘え」ではなく医学的な状態

環境の変化というはっきりしたストレスをきっかけに、気分の落ち込み・不安・不眠などが続き、仕事や生活に支障が出ている状態は、適応障害という診断がつくことがあります。適応障害は、新社会人のメンタル不調で最も多く出会う診断の一つです。

大切なのは、これが「甘え」や「気の持ちよう」ではなく、医学的な状態だということです。

  • ストレスの原因(職場環境)がはっきりしている
  • 原因から離れると症状が軽くなる(休日は少し楽になる、日曜の夜から苦しくなる)
  • 眠れない、食欲がない、涙が出る、出勤前に体が動かないなど、体にも症状が出る

こうした特徴があるとき、それは意志の力で乗り越えるべき試練ではなく、治療や環境調整の対象になる状態です。適応障害の症状や経過について詳しくは、適応障害の疾患ページをご覧ください。

放っておいて職場のストレスにさらされ続けると、うつ病に移行してしまうこともあります。早い段階で手を打つことが、結果的にキャリアを守ることにつながります。

セルフケアと、相談を考える目安

まず、自分でできる工夫として、次のようなことが役に立ちます。

  • 睡眠を最優先で守る: 帰宅後のスマートフォンの時間を削ってでも、睡眠時間を確保してください。睡眠が崩れると、すべての不調が増幅されます。
  • 休日に「回復の予定」を入れる: 疲れて寝て終わるだけの休日が続くのは、消耗のサインです。短い散歩や好きな食事など、小さくても「回復する時間」を意識的に確保しましょう。
  • 一人で抱えない: 家族や友人、話せる同期に「実はきつい」と口に出すだけでも、負荷は変わります。
  • 完璧を目指さない: 1年目は「できないことがある」のが当たり前の時期です。100点の新人である必要はありません。

そのうえで、次のような状態が2週間ほど続くようなら、セルフケアの範囲を超えているサインです。医療機関への相談を考えてください。

  • 眠れない日が続く、朝早く目が覚めてしまう
  • 食欲が落ちた、体重が減った
  • 出勤前に涙が出る、吐き気や動悸がする
  • 休日になっても気分が晴れず、何も楽しめない
  • 「消えてしまいたい」という考えが頭をよぎる

特に最後の項目がある場合は、2週間待たずに早めに受診してください。強い希死念慮があり自分の安全が守れないと感じるときは、救急(119)への連絡や救急外来の受診をためらわないでください。

受診したら何が起こるのか

「精神科に行ったら大ごとになるのでは」と心配される方は多いのですが、実際の初診は、いまの状況を一緒に整理するところから始まる、落ち着いた面談です。

  • いつから、どんな症状があるか
  • 職場でどんなことがストレスになっているか
  • 睡眠・食欲・体調はどうか

こうしたことを医師が丁寧にうかがい、いまの状態が適応障害なのか、うつ病など他の状態なのかを見立てます。そのうえで、環境調整の工夫で様子を見る、薬を使って睡眠や不安を楽にする、休養を取る、といった選択肢を一緒に相談します。受診したからといって、いきなり休職や服薬が決まるわけではありません。

初めての精神科受診で不安な方は、初診で医師が聞くことをまとめた記事もあわせてご覧ください。

当院での実際

当院の外来でも、「この仕事は続けていいのか、それとも休むべきか」というご相談は非常に多く、新社会人の方に限らず、働く方の受診理由として代表的なものの一つです。答えを決めてから来る必要はなく、迷っている状態のまま相談していただいて構いません。

休養が必要と判断した場合は、休職の診断書を作成します。当院では休職の診断書は1か月毎に作成しており、診察の結果必要と判断すれば、初診当日に発行することもあります。「今日を限界と感じて受診した」という方に、その日のうちに休む手続きを始めてもらえるようにするためです。

通院は基本的に2週間に一度の頻度で、症状の経過や職場の状況の変化を確認しながら進めます。予約はデジスマのWEB予約から取ることができ、初診前にはWEB問診にお答えいただきます。事前に状況を把握できるため、初診は30分程度を目安に、落ち着いてお話をうかがえます。

休職という選択肢もある

「1年目で休職なんてありえない」と感じるかもしれません。しかし、限界を超えて働き続けて症状が重くなるほうが、回復にも復帰にも長い時間がかかります。休職は脱落ではなく、長く働き続けるための治療上の選択肢の一つです。

休職中は、まず休むことに専念し、回復に合わせて生活リズムを整え、復帰の準備をしていきます。診断書の出し方や職場への伝え方、休職中の過ごし方については、適応障害での休職の記事で詳しく解説しています。

社会人1年目のつらさは、時間が解決してくれることもあれば、早めの手当てが必要なこともあります。「甘えかもしれない」と迷う段階での相談は、決して早すぎません。眠れない日や涙が出る朝が続いているなら、一度、こころの専門家に話してみてください。

よくある質問

入社1年目でつらいのは、甘えではないですか?

甘えではありません。就職は、生活リズム・人間関係・役割のすべてが一度に変わる、人生でも有数の大きな環境変化です。環境の変化に対してストレス反応が出るのは、こころの仕組みとして自然なことで、本人の努力や性格の問題ではありません。実際に、環境変化のストレスをきっかけに気分の落ち込みや不眠が続く状態は、適応障害という診断名がつく医学的な状態でもあります。「甘えかもしれない」と迷っている段階でも、相談していただいて構いません。

五月病の時期は乗り越えました。もう大丈夫でしょうか?

5月を乗り切れたことは一つの安心材料ですが、新社会人の不調の波は5月だけではありません。緊張で走り続けた疲れが夏に出る方、研修が終わって独り立ちする夏〜秋に負荷が増えて調子を崩す方も少なくありません。時期にかかわらず、眠れない・食欲がない・仕事のことを考えると涙が出るといった状態が2週間ほど続くようなら、一度ご相談ください。

受診したら、いきなり休職や薬になりますか?

いいえ。初診ではまず、いまの状況と症状を丁寧にうかがい、状態を一緒に整理するところから始めます。そのうえで、環境調整やセルフケアの工夫で様子を見るのか、薬を使うのか、休養が必要なのかを相談して決めていきます。休職も薬も選択肢の一つであって、受診イコール休職・服薬ではありません。当院の初診の所要時間は30分程度が目安です。

休職すると、その後のキャリアに響きませんか?

不安に思われるのは自然ですが、限界を超えて働き続けて症状が重くなるほうが、結果的に回復にも復帰にも時間がかかることが多いというのが臨床での実感です。休職は「脱落」ではなく、長く働き続けるための治療上の選択肢の一つです。休むべきかどうか自体を診察で一緒に考えることができますので、決めてから来る必要はありません。当院では、診察の結果必要と判断すれば、休職の診断書を初診当日に発行することもあります。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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