適応障害(適応反応症とも呼ばれます)とは、就職や異動、人間関係の変化など、はっきりしたストレスのもと(ストレス因)をきっかけに、気分の落ち込みや不安、体の不調があらわれ、仕事や生活に支障が出ている状態です。ストレスがその方の対処できる範囲を超えたときに、誰にでも起こりうる身近な不調で、精神科・心療内科の外来でも受診理由として多くみられます。
適応障害のいちばんの特徴は、「ストレスのもとと不調がつながっている」ことです。そのため、ストレスのもとから離れたり、環境を整えたりすることで、比較的すみやかな回復が期待できます。治療でよくなっていく状態ですので、「自分の弱さのせいだ」とご自身を責める必要はありません。
このページでは、適応障害のサイン・症状、うつ病との違い、治療、休職などの制度まで、全体像をまとめてご紹介します。
こんなサイン・症状はありませんか
次のような変化に心あたりはないでしょうか。
- 職場や学校のことを考えると、気分が沈む・涙が出る
- 出勤・登校しようとすると、吐き気や動悸(どうき)、腹痛が起こる
- 寝つきが悪い、夜中に目が覚める、朝起きられない
- 食欲が落ちた、または食べすぎてしまう
- イライラして家族や同僚にあたってしまう
- 仕事のミスが増えた、集中が続かない
- 特定の場所や人を避けるようになった
- 休日は少し楽になるのに、日曜の夜になると憂うつになる
これらにあてはまるからといって、直ちに適応障害と診断されるわけではありません。似た症状はほかの病気でもみられるため、つらさが続くときは自己判断せず、医療機関にご相談ください。
症状の詳しい説明
適応障害の症状は人によってさまざまですが、大きく3つに分けて考えると整理しやすくなります。
心の症状
気分の落ち込み、不安、緊張、イライラ、涙もろさなどがあらわれます。以前は楽しめていたことに興味がわかなくなったり、「自分はだめだ」と自分を責める気持ちが強くなったりすることもあります。つらさが強まると「消えてしまいたい」という気持ちがよぎることもあり、注意が必要です。
体の症状
吐き気、動悸、頭痛、腹痛、めまい、食欲の低下など、自律神経(体の調子を自動的に整える神経)に関係する症状がよくみられます。不眠や過眠など、睡眠の変化もあらわれやすい症状です。体の症状が前面に出て、内科を受診しても異常が見つからない、ということも少なくありません。
行動の変化
遅刻や欠勤が増える、仕事の能率が落ちる、人づきあいを避ける、飲酒量が増えるなど、行動面の変化としてあらわれることもあります。ご本人よりも先に、周囲の方が変化に気づく場合もあります。
適応障害の特徴として、ストレスのもとに近づく場面(出勤前など)に症状が強まり、離れると軽くなる、という波がみられることが多いです。
原因・メカニズム
適応障害の原因は、はっきりと自覚できるストレスです。仕事の異動や昇進、上司や同僚との関係、過重な業務、家庭内の問題、進学や引っ越し、病気や介護など、生活上の変化や負担が引き金になります。昇進や結婚のような、一見「良い変化」がきっかけになることもあります。
ただし、同じ出来事でも、不調になる方とならない方がいます。ストレスの大きさは、環境の側の要因と、その方自身の要因(体調、性格の傾向、考え方の癖、発達の特性、サポートの有無など)のかけ合わせで決まると考えられており、環境の変化による負担がその方の順応できる力を超えたときに、心と体の不調としてあらわれます。
なお、適応障害がどのような脳の仕組みで起こるのかは、まだ十分に解明されていません。うつ病のように脳内の働きの変化を想定する仮説的な説明もありますが、適応障害は基本的に「ストレスへの反応」としてとらえられており、だからこそ、ストレスのもとへの対処が治療の中心になります。
診断と、うつ病など似た状態との違い
診断の考え方(DSM-5)
米国精神医学会の診断基準(DSM-5)では、適応障害はおおむね次のように整理されています。
- はっきりわかるストレスのもとが始まってから、3か月以内に症状があらわれる
- そのつらさが、出来事から予想されるよりも強い、または仕事・学業・人間関係などに大きな支障が出ている
- うつ病など、ほかの精神疾患の診断にはあてはまらない(通常の死別反応でもない)
- ストレスのもとがなくなれば、その後6か月以内に症状が落ち着く
診察では、いつから・何をきっかけに調子をくずしたのか、という時間の流れがとても大切な情報になります。受診の前に、不調が始まった時期とその前後の出来事をメモしておくと、整理がスムーズです。
うつ病との違い
適応障害ともっとも見分けが問題になるのがうつ病です。落ち込み、不眠、意欲の低下など、症状そのものはよく似ています。
見分けのポイントは、きっかけの有無ではなく、症状の重さと持続のしかたです。診断のルール上、ストレスがきっかけであっても、落ち込みや興味の低下が「2週間以上」「ほとんど毎日」「ほとんど一日中」続くなど、うつ病の基準を満たす状態であれば、うつ病と診断されます。適応障害は「ほかの病気の診断にあてはまらないこと」が要件になっているためです。
生活のなかで気づきやすい目安としては、「仕事のある平日はつらいが、休日は趣味などをそれなりに楽しめる」場合は適応障害を、「休日もほとんど一日中気分が重く、何をしても楽しめない」場合はうつ病をより疑う、という考え方があります。ただしこれはあくまで目安のひとつで、医師でも慎重に見分けるテーマです。詳しくは、コラム「適応障害とうつ病の違い|診断はどこで分かれるのか」で掘り下げていますので、あわせてお読みください。
そのほかの似た状態
- 不安や心配が場面を問わず半年以上続く場合は、全般性不安障害などの不安症を考えます。
- 動悸やめまいなど体の症状が中心で、はっきりしたストレスのもとが見あたらない場合は、自律神経失調症と呼ばれる状態や、体の病気の可能性も確認します。
- 命に関わるような強い恐怖体験のあとに症状が続く場合は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)との区別が必要です。
また、環境を変えても不調を繰り返す場合には、背景に発達の特性(ADHDやASD)やその方の考え方の癖が関わっていることがあります。特にASDの方では、ストレスを自覚しにくいことなどから見分けが難しくなる場合があり、時間をかけた見立てが役立ちます。
治療
適応障害の治療の柱は、ストレスのもとへの対処(環境調整)と休養です。薬物療法はあくまで補助的な位置づけになります。
環境調整 — 治療の中心
まず、何が負担になっているのかを一緒に整理し、そのストレスのもとを減らせないかを考えます。職場であれば、業務量の調整、配置転換や異動の相談、在宅勤務の活用などが選択肢になります。症状が強い場合には、診断書をもとにいったん休職し、ストレスのもとから距離をとって治療に専念することもあります。
どんな場面でつらくなりやすいかを簡単に書き留めておくと、ストレスの正体が見えやすくなり、職場や診察で相談するときにも伝えやすくなります。
精神療法
ストレスをためこみにくくするための、考え方や行動の工夫を一緒に探していきます。たとえば、自分を責めやすい考え方の癖をゆるめる認知面の工夫、疲れをためない行動の工夫、自分の気持ちを相手を傷つけずに伝えるコミュニケーションの練習(アサーション)などです。環境そのものを変えにくい場合ほど、こうした対処の引き出しを増やすことが役立ちます。
薬物療法
不眠が続く、不安や緊張が強い、落ち込みが重いといった場合には、睡眠薬・抗不安薬・抗うつ薬などを症状に応じて補助的に使うことがあります。薬だけで根本の解決になるわけではありませんが、つらい症状をやわらげることで、休養や環境調整に取り組みやすくなる効果が期待できます。減らし方・やめ方を含め、必ず主治医と相談しながら調整していきましょう。
生活・セルフケア
睡眠のリズムを整える、食事をとる、短時間でも体を動かす、といった基本的な生活の立て直しが回復の土台になります。また、信頼できる人に話す、趣味の時間を確保するなど、自分に合った発散の方法を持っておくことも再発予防につながります。ただし、調子が悪いときに無理に頑張ろうとすると逆効果になることもあります。セルフケアも無理をせず、主治医と相談しながら進めてください。
経過と再発予防
適応障害は、ストレスのもとから離れられれば、6か月以内に症状が落ち着くことが多いとされています。うつ病と比べて、環境が変わったあとの回復が比較的早いことも特徴のひとつです。
一方で、ストレスのもとから離れられない状況が続くと、症状が長引くことがあります。また、無理を重ねるうちに症状が重くなり、うつ病に相当する状態に進むこともあるため、「原因がわかっているから軽い」と自己判断しないことが大切です。区別に迷うときの考え方は、コラム「それは『うつ病』?それとも『適応障害』?ストレスとの違いと見分け方」も参考になさってください。
環境を変えても不調を繰り返す場合は、その方自身の側の背景を探ることが再発予防の鍵になります。業務内容との相性、自分を責めやすい考え方の癖、ADHDやASDといった発達の特性などが関わっていることがあり、背景に合わせた対策(業務の選び方、特性の理解と工夫、必要に応じた治療)を立てていきます。あわせて、自分なりのストレスサイン(眠れなくなる、食欲が落ちる、など)を知っておき、サインが出たら早めに休む・相談することが、再発予防のいちばんの基本です。
仕事・生活への影響と使える制度
適応障害は、働く世代の方が仕事のストレスをきっかけに発症することが多く、休職や復職の相談とセットになることがよくあります。
休職する場合は、おおまかに3つの段階で考えると見通しが立てやすくなります。
- 休養期 — まずしっかり休むことに専念します。
- リハビリ期 — 散歩や読書など、負担になりすぎない範囲で少しずつ活動を増やします。
- 復帰準備期 — 勤務時間帯に外出して作業してみるなど、実際の勤務に近い負荷を試し、体調が安定していることを確認してから、職場との復帰調整に進みます。
休職中の過ごし方や職場とのやりとりについては「休職について」で詳しくご案内しています。
経済面では、休職中の収入を支える傷病手当金という健康保険の制度があります。また、通院が続く場合には、医療費の自己負担を軽くする自立支援医療制度を利用できることがあります。復職にあたって職場の配慮(異動や業務調整)が受けられるかどうかは会社によって異なるため、主治医の意見も踏まえながら、職場とよく相談していきましょう。
受診の目安と当院での診かた
次のような状態が続くときは、一度ご相談いただくことをおすすめします。
- 気分の落ち込みや不安、体の不調が2週間以上続いている
- 出勤・登校しようとすると体の症状が出て、行けない日が出てきた
- 眠れない日が続いている、食欲が落ちている
- 仕事や家事、学業に支障が出てきている
- 「消えてしまいたい」という気持ちがよぎることがある
最後の項目にあてはまるときは、特に早めにご相談ください。すでに通院中の方は主治医に連絡し、気持ちが切迫して自分を傷つけてしまいそうなときは、ためらわず救急(119)を利用してください。
当院では、まずお話をうかがいながら、何がストレスになっているのか、いつから調子をくずしたのかを一緒に整理し、うつ病などほかの病気の可能性も含めて見立てを行います。そのうえで、環境調整の進め方、休養や休職の要否、必要に応じた薬物療法をご相談しながら決めていきます。休職に必要な診断書の作成にも対応しています。受診の流れは「初めての方へ」をご覧ください。
参考文献
- こころの耳(厚生労働省):用語解説「適応障害」
- こころの情報サイト(国立精神・神経医療研究センター):うつ病
- 日本精神神経学会(日本語版用語監修)『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』医学書院
- 精神科治療学 第37巻8号「特集 治療抵抗性うつ病への挑戦」星和書店(適応障害との鑑別に関する論文を参考に要約・再構成)
よくある質問
適応障害は「甘え」や「気の持ちよう」なのでしょうか?
甘えではありません。適応障害は、ストレスがその方の対処できる範囲を超えたときに、心と体に不調があらわれる医学的な状態です。同じ環境でも負担の感じ方は人それぞれで、意志の強さの問題ではありません。
適応障害で休職することはできますか?
はい、症状や職場の状況によっては、医師の診断書をもとに休職して治療に専念することがあります。休職が必要かどうか、期間をどうするかは診察のうえでご相談しながら決めていきます。
薬を飲まないと治りませんか?
適応障害の治療の中心は、ストレスのもとを減らす環境調整と休養です。薬は、不眠や強い不安などのつらい症状をやわらげる目的で補助的に使うことがありますが、必ず使うわけではありません。
どのくらいの期間で良くなりますか?
個人差はありますが、ストレスのもとから離れられれば、6か月以内に症状が落ち着くことが多いとされています。ストレスが続いている場合は長引くこともあるため、環境の調整をあわせて考えていきます。
放っておくとどうなりますか?
ストレスが続いたまま無理を重ねると、症状が重く長引き、うつ病に相当する状態に進むこともあります。不調が2週間以上続くときは、早めにご相談いただくことをおすすめします。