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セディール(一般名: タンドスピロン)は、ベンゾジアゼピン系ではない、少し毛色の違う抗不安薬です。飲んですぐ楽になる派手さはありません。そのかわり、依存の心配がほぼない——抗不安薬の世界でこれがどれほど貴重なことか。「薬に頼るのが怖い」と感じている方にこそ知ってほしい薬です。実際の診察でお話ししている感覚でまとめました。

どんなふうに効く薬か

多くの抗不安薬(デパスやソラナックスなどのベンゾジアゼピン系)は、脳の興奮に直接ブレーキをかけて、飲んだその日に不安をしずめます。セディールはまったく別の道を通ります。不安に関わる「セロトニン」という物質の受け皿に働きかけて、過敏になっていた心の反応そのものを、時間をかけて整えていくのです。

だから、効き方も違います。飲んで30分後に「効いた」とわかる瞬間はありません。毎日続けて2〜4週間。ある日ふと、「そういえば最近、あのことでぐるぐる考え込む時間が減ったな」と気づく——そういう、後ろを振り返って初めてわかる効き方をします。即効性のブレーキではなく、不安の土台を静かに底上げしていく薬。ここを知らずに飲み始めると、最初の1〜2週間で「効かない薬だ」とやめてしまう。それがこの薬のいちばんもったいない使われ方です。

なぜ、こんなに穏やかなのか

セディールの「効きが穏やかで、副作用も少ない」という二つの顔は、実は同じ一つの理由から生まれています。効く場所が絞られている、ということです。

デパスやソラナックスのようなベンゾジアゼピン系がはたらきかける受け皿は、脳のあちこちに広く分かれて存在しています。だから飲めば不安はしずまるのですが、同時に、眠気、筋肉がゆるむことによるふらつきや転倒、記憶のぼんやりまでまとめてついてきます。部屋全体の音量つまみを下げるようなものです。

いっぽうセディールが触れる受け皿は、不安や気分に関わる領域に偏って集まっていて、ほかの場所には多くありません。筋肉をゆるめたり、記憶をあいまいにしたりという方向の力を、この薬はそもそも持っていません。物足りなさと安全性は、コインの裏表です。

気持ちより先に、体のほうがほどける

不安は気持ちだけの話ではありません。動悸、めまいや浮くような感じ、汗、手のふるえ、胃の重さや下痢、トイレが近くなる——不安が強いとき、体のほうが先に警報を鳴らします。

この薬について書かれた本には、繰り返し出てくる特徴があります。ベンゾジアゼピン系や抗うつ薬に比べると、気分そのものより、こうした体の症状のほうが先に落ち着きやすいというのです。この薬が「神経症」だけでなく「心身症」——ストレスから体の不調が出ている状態——にも使われるのは、そのためです。

ですから、効いているかを確かめるとき「不安が消えたか」で採点しないでください。それではたいてい不合格になります。かわりに、朝、胸のあたりがざわついて目が覚める日が減っていないか。人前で汗が噴き出す回数はどうか。会議の前にトイレへ駆け込まなくなっていないか。夕方の肩や首のこわばりはどうか。——地味に思える変化ですが、ここが動いていれば薬は仕事をしています。

どんな人に向くか・ほかの薬との違い

セディールを選びたくなるのは、不安が毎日続いていて、これから長く付き合う薬が必要な方。そして「依存が怖い」という気持ちが強い方です。ベンゾジアゼピン系は効きは鋭いけれど、長く毎日使うと体が慣れて手放しにくくなります。セディールにはその心配がほぼありません。何か月続けても、やめるときに苦しまない。この「やめやすさ」は、飲み始める時点ではピンとこなくても、やめる段になって効いてくる持ち味です。

正直にお伝えすると、効きの強さそのものはベンゾジアゼピン系に及びません。不安がごく強い方や、ベンゾジアゼピン系でしっかり効いた経験のある方には、物足りなく感じられることがあります。長く患ってきた方にも効きにくいことが知られています。だから私たちは、この薬を「切れ味で選ぶ薬」ではなく「安全に長く使えることで選ぶ薬」と考えています。眠気やふらつきが出にくいので、日中しっかり働きたい方や高齢の方にも使いやすい一剤です。

薬の教科書には、この薬に関わるもうひとつの視点が書かれています。不安が比較的軽く、経過を見られる場合には、経過をこまめに確かめながら、眠りや食欲といった生活の土台を支えて待つだけでも、良くなっていく方がいるということです。強い薬に切り替えるかどうかの前に、まず話を聞き、暮らしの土台を整える。そのうえで穏やかな薬を添える——セディールの出番はこの組み立ての中にあります。「これしか効かない強い薬」を探す道とは、発想が違うのです。

ベンゾジアゼピン系を減らしていく時期の支えとして

すでにベンゾジアゼピン系を飲んでいる方が、それを減らしていく時期に、不安の土台を支える役として添えられるという使い方です。承認された効能ではありませんが、依存の心配がほとんどないぶん、長くかかる減量の道のりに付き合わせやすいとされています。

ただしここには、さきほどの「効く場所が違う」という話が、そのまま落とし穴として返ってきます。セディールは前の薬の代わりを務められません。前の薬をゆっくり減らす作業そのものは、どうしても必要です。減らし方とペースは、必ず主治医と一緒に決めてください(「やめるとき」でもう一度お話しします)。

保険の病名としては神経症や心身症が中心で、実際の診療では全般性不安障害のような持続する不安や、自律神経失調症と呼ばれるようなストレス性の体の不調に用いることが多い薬です。頓服として「不安なときだけ飲む」使い方には向きません。

飲み始めに知っておいてほしいこと

「効いていない」と感じる最初の数週間

副作用ではありませんが、いちばんの山はここです。最初の1〜2週間は変化を感じないのが普通です。「効かない」と感じても、それは薬が仕事をしていない証拠ではありません。診察では「不安な時間の長さ」や「体の症状の頻度」を一緒に振り返りながら、静かな変化を拾っていきます。

「これは薬のせいだろうか」と迷ったとき

不安を抱えている時期は、体に起きる小さな変化に、ふだんより気づきやすくなっています。もともとあった動悸や胃のもたれ、頭の重さが、飲み始めた日から急に気になりだして「この薬のせいだ」と感じる——よく起こることで、本にも、不安症の方は体の異常に敏感なぶん治療から離れてしまいやすい、と書かれています。

実のところ、飲み始めの時期に、それが症状の揺れなのか薬の副作用なのかをその場で見分けるのは、医師にとっても簡単ではありません。お願いしたいのは、自分の中で結論を出す前にそのまま話してくださること。「たぶん薬のせいだと思って三日でやめました」より、「二日目からお腹が張る感じがあります」のほうが、ずっと先に進めます。

1日に分けて飲むのはなぜか

この薬は、体に入ってから抜けていくまでがとても短い薬です。それでも1日のうちに分けて飲む形が基本なのは、飲んだ瞬間の効き目を狙っているからではありません。毎日きちんと届けつづけることで、不安に関わる受け皿の反応の仕方が少しずつ変わっていく——それを待つための飲み方です。

ですから飲み忘れが続くと、待っているはずの変化がいつまでも始まりません。うっかり抜けた分は無理に取り返さず、次からいつもどおりに戻してください。二回分をまとめて飲むことはしないでください。飲む時刻や回数が生活に合わない、どうしても昼の分を忘れてしまう——そういうときは、我慢して合わせようとせず診察で教えてください。飲み方は、生活のほうに寄せて相談できます。

眠気・めまい

副作用は全体に少ない薬ですが、出るとすれば飲み始めの眠気やふらつきです。多くは体が慣れるにつれて軽くなります。ただ、添付文書では、この薬を飲んでいるあいだは車の運転など危険を伴う作業を控えることになっています。運転についての注意書きは薬によって強さが違いますが、この薬のものは最も強い区分にあたります。とくに飲み始めや量を変えた時期、眠気やめまいを感じているときは危険です。運転が欠かせない生活の方は、薬の選び方から一緒に考えますので、必ず事前にご相談ください。

吐き気・胃の不快感

飲み始めに胃のむかつきを感じる方がまれにいます。食事に関係なく飲める薬なので、タイミングの工夫もしやすく、たいてい数日でおさまります。

まれだけれど大事なこと

ごくまれに、強いだるさや皮膚・白目が黄色くなる変化、あるいは高熱・興奮・体のぴくつきや発汗が急に出る反応が知られています。特にSSRIなどセロトニンに働く抗うつ薬と併用しているときは注意が必要です。様子がおかしいと感じたら早めに主治医へ、高熱や意識の異変など差し迫った状況では救急(119)に連絡してください。なお、このうち高熱や興奮、体のぴくつきを伴う反応は、他の薬と一緒に使っているときの報告がほとんどだとされています。ただし引き金はそれだけではなく、急に大きく減らしたり中止したりしたときにも起こりえます(「やめるとき」でもう一度ふれます)。だるさや皮膚・白目の黄色い変化として出るほうも、併用しているかどうかにかかわらず起こることがあります。この薬だけを飲んでいるからと見送らないでください。

効かないまま続けない、という約束

処方する医師の側からも、「効いた手応えが分かりにくい薬だ」という率直な感想が語られています。ある本は利点と欠点を並べたうえで、総じて「穏やかで軽い薬」だと結んでいます。

この薬には、ほかではあまり見かけない一文が公式の説明書きに入っています。十分な量まで使っても効果が認められないときは、漫然と続けずにやめること——そうはっきり書かれているのです。

同じ説明書きには、神経症に使うときにあらかじめ効きにくいと分かっている状況も書かれています。不安を長く(3年以上)患ってきた方、症状の重い方、ベンゾジアゼピン系で十分な効果が得られなかった方——こうした場合には効果が現れにくい、と。はじめから分の悪い場面で、この薬に無理をさせることはしません。

診察でみているのは、生活のどこかが動いたかどうかです。動いていなければ、粘らずに次の手へ切り替えます。いまの量が合っているかどうかも、見直しの選択肢のひとつです。診察で一緒に確かめましょう。

やめるとき

セディールのやめどきは、他の抗不安薬に比べて気が楽です。体が薬に慣れて離れられなくなる、急にやめて不安が強くはね返る、といった心配がほぼないからです。とはいえ、症状がぶり返さないかを確かめながら、ペースは主治医と相談して決めるのが安心です。

一つだけ大事な注意があります。ベンゾジアゼピン系の薬からセディールに乗り換えるときです。二つの薬は効く仕組みが違うため、前の薬を急にやめてセディールに置き換えると、前の薬の反動(強い不安や不眠など)が出てしまいます。セディールはその反動を肩代わりできません。切り替えは、前の薬をゆっくり減らしながら重ねて進めますので、必ず医師の指示に沿ってください。

やめやすい薬にも、急がない理由がある

依存でつらくなることがほぼない薬でも、「いつでも自分の判断でやめてよい」わけではありません。理由が二つあります。

一つは、公式の説明書きに、急に大きく減らしたり中止したりしたときにも、まれに高熱や強い体のこわばりを伴う反応が起こりうると書かれていることです。わざわざ危ない橋を渡る必要はありません。

もう一つは、不安という症状の性質です。不安をともなう病気は慢性化しやすく、いったん良くなってもぶり返しやすいことが知られています。良くなった時点が、そのまま終わりの合図とは限らないのです。とはいえ「もう大丈夫そうだ」と感じられた時期は、やめどきの相談を始めるにはちょうどよい時期でもあります。減らす話は、いつでも診察でできます。

生活の中での注意

お酒は眠気やふらつきを強めることがあるので控えめに。そもそも不安をお酒で紛らわす習慣は症状を長引かせるので、飲酒量が増えている方は正直に教えてください。妊娠・授乳は一律の禁止ではなく、必要性と一緒に考えます。血圧の薬や一部の抗精神病薬、SSRIなどとの組み合わせには注意があるため、飲んでいる薬とサプリメントはお薬手帳で必ずお知らせください。

飲み合わせで気をつけることの「なぜ」

お薬手帳をお願いする理由は、この薬なりに三つあります。セロトニンに働く抗うつ薬とは、同じ方向の作用が重なりすぎて、まれに高熱・発汗・体のぴくつき・強い落ち着かなさが一度に出る反応につながることがあります。血圧の薬とは、この薬にも脳を介して血圧をゆるやかに下げる向きの作用があるため、重なると下がりすぎることがあります。そして一部の抗精神病薬。セディールにはごくわずかに、体の動きに関わる伝達をおさえる方向の作用もあるので、同じ方向の薬と重なると、手のふるえ・体のこわばり・じっとしていられない感じが出やすくなることがあります。

当院では初診のときに、処方されている薬だけでなく、市販薬やサプリメントについてもお聞きしています。

妊娠・授乳を考えるとき

この薬について、妊娠中に使った方をまとめて調べた研究は行われていません。これまでのところ赤ちゃんに形の異常が増えたという報告はありませんが、調べられていない以上「安全です」と言い切ることはできません。授乳についても、ヒトで母乳を通じた影響を調べた情報はありません。出産が近い時期に飲んでいた場合は、生まれたあとの赤ちゃんの様子——ぴりぴりして落ち着かない、体をつっぱる、母乳やミルクを吸う力が弱いといったことがないか——を見ておくのがよいとされています。

分からないことを分からないままお伝えするのは心苦しいのですが、伏せるよりよいと考えています。当院では、妊娠希望・授乳中の方には催奇性を考慮したうえで治療を検討します。過去の病歴をもとに有益性が上回ると判断する場合は、最小限の薬物療法を検討することもあります。妊娠が分かっても自己判断で急にやめず、まずご相談ください。

当院での考え方

当院では、セディールを「不安と長く付き合う方の、安全な相棒」と位置づけています。劇的な効き目を約束する薬ではありません。そのかわり、やめるときに苦しまず、依存の心配を抱えずに続けられる。「抗不安薬は癖になりそうで怖い」とためらってきた方に、まずこの選択肢からご提案することがあります。効果の実感までの数週間は、診察でこまめに経過を確かめながら伴走します。「効いているのかわからない」も、大切な情報です。そのまま診察でお聞かせください。

休養がうまくいっていない方には、当院では「休めていますか」ではなく「休もうとすると何が邪魔をしますか」とお聞きしています。不安が強い方ほど、休むこと自体に焦りや罪悪感が割り込んできて、体は横になっていても頭が休まっていないことが多いからです。薬は、その邪魔をしてくるものと向き合うだけのゆとりを作るためのもの——本にも、抗不安薬の大きな意味は、強い不安や体の苦しさから少し解放されて心理的なゆとりが生まれ、環境の調整などに取り組みやすくなることだ、と書かれています。当院の通院は2週間に一度が基本ですので、そのつど、変わったところと変わらないところを一緒に確かめていきます。

参考文献

  • セディール錠5mg/10mg/20mg 添付文書(2026年3月改訂・第2版、住友ファーマ) — KEGG MEDICUS 参照(2026-07-07)
  • 参考書籍(本文の追記の裏づけ。要約・再構成であり原文の転載ではありません): 『本当にわかる 精神科の薬 はじめの一歩』『研修医・コメディカルのための 精神疾患の薬物療法講義』『こうすればうまくいく! 精神科臨床はじめの一歩』『ジェネラリストのための 向精神薬の使い方』『精神科薬物療法マニュアル』『精神診療プラチナマニュアル』『ガイドラインにないリアル精神科薬物療法をガイドする』『クロストークから読み解く精神科薬物療法』『向精神薬と妊娠・授乳』

よくある質問

セディールはやめられなくなりませんか?

セディールの最大の持ち味は、まさにそこです。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬と違って依存の心配がほぼなく、体が薬に慣れて手放せなくなる、という事態が起こりにくい薬です。やめるときのペースは主治医と相談しながら決めますが、「やめられなくなる不安」を抱えずに使える数少ない抗不安薬です。

飲んですぐ効きますか?

いいえ、そこがこの薬のいちばんの注意点です。飲んで30分で楽になるタイプではなく、毎日続けて2〜4週間かけてじわっと効いてくる薬です。最初の数週間は「効いているのかわからない」と感じるのが普通です。そこでやめてしまうといちばんもったいないので、焦らず続けながら経過を教えてください。

効いている気がしないのですが、続ける意味はありますか?

この薬の効き方は「劇的に楽になる」より「気づいたら不安に振り回される時間が減っていた」という静かなものです。振り返ってみて少しでも変化があれば、続ける意味は十分あります。十分な量まで増やしても変化がなければ、漫然と続けず次の手に切り替えます。その見極めは診察で一緒に行いましょう。

妊娠中・授乳中でも飲めますか?

一律に禁止ではなく、必要性と一緒に考えて判断します。授乳についても、治療の大切さと母乳の利点をふまえて続け方を一緒に検討できる薬です。妊娠を考えている段階から、早めにご相談ください。自己判断で急にやめないことが大切です。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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