「もうやめよう」と何度も決意したのに、気づけばまたパチンコ店やスマホのベッティング画面の前にいる。負けた分を取り返そうとして、さらに深みにはまってしまう。借金のことを家族に隠し、嘘を重ねてしまう――。
もしこうした状態に心当たりがあるなら、それは「意志が弱いから」でも「性格がだらしないから」でもないかもしれません。ギャンブル障害(ギャンブル依存症)という、治療の対象となる病気の可能性があります。
この記事では、ギャンブル障害とはどのような病気か、特徴的なサイン、借金問題との向き合い方、そして治療の入口について、福岡県春日市の精神科・心療内科の視点からお伝えします。
ギャンブル障害は正式な「精神疾患」です
ギャンブル障害は、WHO(世界保健機関)の国際疾病分類 ICD-11 や、アメリカ精神医学会の診断基準 DSM-5 に正式に位置づけられた精神疾患です。DSM-5では、アルコールや薬物への依存と同じ「物質関連障害および嗜癖性障害群」というカテゴリーに分類されています。
つまり医学の世界では、ギャンブルへののめり込みは「本人の心がけの問題」ではなく、アルコール依存症などと同じ仕組みで起こる病気として扱われています。
繰り返しギャンブルをするうちに、脳の中で快感や意欲に関わる「報酬系」と呼ばれる回路の働きが変化していきます。すると、頭では「やめたほうがいい」と分かっていても、ギャンブルへの強い欲求を意志の力だけで抑えることが難しくなっていきます。ちょうど、ブレーキの効きが悪くなった自転車で坂道を下るような状態です。
ここで大切なのは、「病気だから仕方ない」ではなく「病気だから治療できる」ということです。意志の弱さが原因なら根性で治すしかありませんが、病気であれば、医学的な手立てや回復の道筋が存在します。
こんなサインはありませんか――ギャンブル障害の特徴
ギャンブル障害には、いくつか特徴的なサインがあります。ご本人にもご家族にも、次のような点がないか振り返ってみてください。
- 掛け金がだんだん増えていく:同じ興奮を得るために、以前より大きな金額を賭けないと物足りなくなる
- 負けを深追いする(チェイシング):負けた分を取り返そうと、翌日また賭けに行く。「あと少しで取り返せる」という感覚から抜けられない
- 嘘や隠しごとが増える:ギャンブルにのめり込んでいることを隠すために、家族や職場に嘘をつく
- 借金をしてまで続ける:消費者金融やカードローン、家族や知人からの借金でギャンブル資金を作る
- やめようとするといらいら・落ち着かなくなる:ギャンブルを減らそう、やめようとすると、そわそわしたり怒りっぽくなったりする
- つらい気分から逃れるためにする:不安や落ち込み、罪悪感といった気分をまぎらわすためにギャンブルをする
- 何度もやめようとして失敗している:自分なりに制限しようと努力しても続かない
これらのうち複数が当てはまり、生活や人間関係、お金の問題が起きているなら、一度専門的な評価を受けることをおすすめします。
特に「チェイシング(負けの深追い)」は、ギャンブル障害に特徴的なサインとされています。冷静に考えれば負けが膨らむだけなのに、「取り返さなければ」という焦りが判断を狂わせてしまう。これは本人の計算能力の問題ではなく、病気のメカニズムそのものです。
パチンコだけではない――スマホで完結するギャンブルの広がり
日本でギャンブル障害というと、パチンコ・パチスロ、競馬・競艇・競輪などを思い浮かべる方が多いと思います。実際、これらは今も相談の多い対象です。
一方で近年は、オンラインカジノやスポーツベッティング(スポーツの勝敗への賭け)など、スマートフォンひとつで完結するギャンブルにのめり込むケースが増えている傾向が指摘されています。
スマホ完結型のギャンブルには、従来型と異なる怖さがあります。
- 24時間いつでもどこでもできる:店舗の閉店時間という「強制終了」がなく、深夜も布団の中で続けられる
- 周囲から見えにくい:外出しないため、家族が気づくのが遅れやすい
- お金の感覚が薄れやすい:電子決済やクレジットカードで、現金を使う痛みを感じにくい
なお、日本国内からオンラインカジノに参加することは違法とされています。「アプリで気軽にできるから大丈夫」という感覚のまま、金銭的にも法的にも深刻な問題に発展してしまうことがあります。
「パチンコ店に行かなくなったから安心」とは限らない時代になっている、ということは知っておいていただきたい点です。
借金問題とどう向き合うか――肩代わりが回復を遅らせることがあります
ギャンブル障害の相談では、ほとんどの場合、お金の問題が絡んできます。ここでご家族に知っておいていただきたい、依存症支援の分野で広く共有されている考え方があります。
それは、家族が借金を肩代わりする(尻拭いをする)ことが、かえって本人の回復を遅らせることがある、ということです。
家族が借金を返してしまうと、本人は「最後は何とかなった」という体験をします。すると、問題の深刻さに直面する機会が失われ、「困ったらまた助けてもらえる」という学習が積み重なり、ギャンブルを続ける土台が残ってしまうのです。
これは「家族が冷たくすべきだ」という意味ではありません。愛情から肩代わりしてしまうのはごく自然なことですし、これまでの対応を責める必要もまったくありません。ただ、お金の後始末を引き受けることと、本人の回復を支えることは別のものだと分けて考えることが、結果的に本人のためになることが多い、ということです。
そして借金そのものについては、債務整理という法律上の解決手段があり、弁護士や司法書士といった法律の専門家が担当する、医療とは別の窓口があります。任意整理・個人再生・自己破産など、状況に応じた方法が制度として用意されています。「借金は法律の専門家へ、病気の治療は医療機関へ」と、問題を切り分けて考えることが回復への道筋を整理してくれます。
治療の入口――精神科では何をするのか
「依存症の治療」と聞くと、何をされるのか分からず不安に感じる方も多いと思います。実際の入口は、拍子抜けするほど普通の「診察」から始まります。
1. まずは状態の評価から
ギャンブルとの付き合い方、生活やお金への影響、これまでの経過などを丁寧にうかがい、ギャンブル障害に当てはまるかどうか、どの程度深刻かを評価します。
2. 併存する問題の確認
ギャンブル障害には、うつ病や不安の問題が併存していることが少なくありません。また、ADHDなどの発達特性が背景にあり、衝動のコントロールの難しさがのめり込みに影響しているケースもあります。こうした併存する問題が見つかれば、その治療を並行して行うことが、ギャンブルの問題の改善にもつながります。
3. 認知行動療法的なアプローチ
ギャンブル障害の治療の中心は、カウンセリングや診察を通じた心理的なアプローチです。「今日は勝てる気がする」「取り返せるはず」といったギャンブル特有の考え方のクセに気づき、引き金になる状況(給料日、ストレス、ひとりの時間など)を整理し、別の対処法を一緒に見つけていきます。お金の管理方法を工夫することも大切な治療の一部です。
4. 自助グループという支え
同じ問題を抱える仲間が集まるGA(ギャンブラーズ・アノニマス)という自助グループや、家族のためのギャマノンという集まりがあります。「自分だけではなかった」と感じられる場は、長い回復の道のりで大きな支えになります。ご希望があれば、診察の中でご案内します。
回復は「一生ギャンブルの誘惑と戦い続ける修行」ではなく、ギャンブルに頼らなくても暮らしていける生活を少しずつ組み立て直していく過程です。途中でつまずくこと(再ギャンブル)があっても、それは失敗ではなく回復の過程でよくあることとして、また立て直していきます。
家族にできること――責めるより、相談につながる後押しを
ギャンブル障害では、本人よりも先にご家族が limit に達して相談に来られることが少なくありません。ご家族に知っておいていただきたいことをまとめます。
- 責めても解決しにくい病気です:「なぜやめられないの」と問い詰めても、本人は自分でも分からず、追い詰められて嘘が増えることがあります
- 監視や取り上げだけでは続きにくい:財布や通帳を管理する工夫は有効な場面もありますが、監視合戦になると関係が悪化しがちです
- 借金の肩代わりは慎重に:前述のとおり、尻拭いが回復を遅らせることがあります。まず専門家に相談してからでも遅くありません
- 「受診」という選択肢を淡々と示す:「あなたはダメだ」ではなく「病気かもしれないから、一度専門家に相談してみない?」という伝え方のほうが、本人が動きやすくなります
- 家族自身が先に動いてよい:本人が受診を拒んでいる場合も、ご家族からの受診の進め方について医療機関に問い合わせて確認することができます。家族がひとりで抱え込まないことが、結果的に本人の回復にもつながります
ご家族もまた、長い間の心労で疲れ切っていることがほとんどです。ご家族自身の心の健康を守ることも、遠慮なくご相談ください。
受診の目安――こんなときはご相談ください
次のような状態があれば、受診を検討するタイミングです。
- 何度もやめようとしたのにやめられない
- 負けを取り返そうとして掛け金や頻度が増えている
- ギャンブルのための借金や、家族への嘘がある
- ギャンブルのことで仕事や家庭に支障が出ている
- 気分の落ち込みや不眠など、心身の不調も出てきた
- 家族として、本人への対応に行き詰まっている
「まだそこまでではない気がする」という段階でのご相談も歓迎です。依存症は進行する病気であり、早い段階で対処するほど立て直しやすくなります。
なお、借金の問題などで気持ちが追い詰められ、「消えてしまいたい」という考えが頭から離れない、自分を傷つけてしまいそうだという切迫した状態のときは、通院中の方は主治医に連絡し、命に関わる緊急の場合はためらわず救急(119)を利用してください。
まとめ――回復への一歩は「病気として相談する」ことから
ギャンブル障害は、意志の弱さや性格の問題ではなく、ICD-11やDSM-5に位置づけられた精神疾患です。掛け金の増加、負けの深追い、嘘や借金、やめようとしたときのいらいらなどが特徴的なサインで、近年はスマホで完結するオンラインギャンブルの問題も増えています。
借金は法律の専門家による債務整理という別の窓口があり、家族の肩代わりはかえって回復を遅らせることがあります。治療は精神科での評価から始まり、併存するうつや発達特性の確認、認知行動療法的なアプローチ、自助グループなどを組み合わせて、生活を立て直していきます。
当院は福岡県春日市の精神科・心療内科として、ギャンブルの問題のご相談をお受けしています。「これは病気なのだろうか」と迷う段階からで構いません。ご家族からの受診の進め方については、医療機関に問い合わせてご確認ください。WEB予約からご都合のよい日時をお選びいただけます。ひとりで抱え込まず、どうぞご相談ください。
よくある質問
ギャンブル障害は本当に「病気」なのですか?意志の問題ではないのですか?
はい、ギャンブル障害はWHOの国際疾病分類(ICD-11)やアメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)に正式に位置づけられた精神疾患です。繰り返しのギャンブルによって脳の報酬系の働きが変化し、意志の力だけではコントロールが難しくなる状態と考えられています。「性格がだらしないから」ではなく、治療の対象となる病気です。
家族が本人の借金を肩代わりしてもよいのでしょうか?
依存症支援の分野では、家族が借金を肩代わりする(尻拭いをする)ことで、本人が問題の深刻さに直面する機会が失われ、かえって回復が遅れることがあると考えられています。借金の整理には弁護士や司法書士といった法律の専門家による債務整理という別の窓口があります。お金の問題と病気の治療を分けて考えることが、回復への近道になることが多いです。
本人が受診を嫌がっています。家族だけで相談できますか?
ご本人が問題を認めていない段階でも、家族がどう関わるかによって、本人が相談につながりやすくなることがあります。家族だけで相談できるかどうかは医療機関によって異なります。当院では家族だけでの相談は受け付けていませんが、ご本人が受診できる場合は、ご本人の同意のもとで家族が同席できます。
ギャンブル障害の治療ではどんなことをするのですか?
まず精神科で状態の評価を行い、うつ病や発達特性など併存している問題がないかを確認します。そのうえで、ギャンブルへの考え方や行動パターンを見直す認知行動療法的なアプローチや、環境の調整、必要に応じた併存症の治療を組み合わせます。GA(ギャンブラーズ・アノニマス)などの自助グループにつながることも回復の大きな支えになります。