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連載「発達障害と女性・家族」第4回(全4回) 第1回から読む →

「ゴミ出しをお願いしたのに、今週も忘れている」「片付けてと何度言っても部屋が散らかったまま」「約束の時間に平気で遅れてくるのに、悪びれる様子がない」——。発達障害の特性がある家族と暮らしていると、こうした場面が毎日のように繰り返されて、つい強い言葉で責めてしまい、あとで自己嫌悪に陥る。そんな悩みをご家族からよくうかがいます。

「ちゃんとしてよ」「なんでできないの」と言い続けても状況は変わらず、本人は萎縮するか反発するかで、家の空気だけが悪くなっていく——。この記事では、注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある家族への「伝え方」と、注意し続けなくても回る「仕組みづくり」、そして支える側が疲れ切らないための考え方を解説します。

なぜ「何度言っても」伝わらないのか

まず押さえたいのは、本人は「わざと」やっているわけでも、家族を軽んじているわけでもない、ということです。

ADHDの特性がある方は、注意の向き方に偏りがあり、目の前のことに気を取られると他のことが頭から抜けやすい傾向があります。「ゴミ出しを忘れる」のは、頼まれた瞬間には本気で「やろう」と思っていても、次の瞬間に別のことへ注意が移ると、記憶ごと流れてしまうためです。本人の中では「忘れようと思って忘れた」わけではないので、「やる気がない」と責められると、理不尽に感じて反発したり、深く傷ついたりします。

ASDの特性がある方は、あいまいな表現から相手の意図をくみ取るのが苦手なことがあります。「ちゃんと片付けて」「もう少し気を利かせて」という言葉は、本人にとっては「何を・どこまで・いつまでに」が示されていない、実行しようのない指示に聞こえていることがあります。悪気なく額面どおりに受け取るため、「言わなくてもわかるでしょう」が通じにくいのです。

こうした特性は本人の努力だけで消せるものではありません。だからこそ、「注意して直させる」のではなく、伝え方を変える・仕組みで補うという発想への切り替えが、家族にできるいちばん大きなサポートになります。診断や特性そのものについて詳しく知りたい方は、女性のADHDが見逃されやすい理由ASD女性のカモフラージュの記事もあわせてご覧ください。

昔からの知恵①——「具体的に、短く、1つずつ」伝える

発達障害の支援現場から生まれた仕事術の本では、あいまいな指示を具体的な行動に置き換えることの大切さが繰り返し説かれています。たとえば「ここを掃除しておいて」という頼み方は、部屋全部なのかテーブルの上だけなのか、拭くのか捨てるのかが決まっておらず、認識のすれ違いが起きやすい。「テーブルの上を水拭きしておいて」まで具体化して初めて、正確に伝わります。これは職場の話ですが、家庭でもまったく同じことが起こっています。

家庭での伝え方のコツを整理すると、次のようになります。

  • 行動を具体的に。「ちゃんとして」ではなく「脱いだ服は洗濯カゴに入れてほしい」。いつ・何を・どうするかまで言葉にします。
  • 期限もあいまいにしない。「早めにやって」ではなく「日曜の午前中までにお願い」。あいまいな期限は、お互いの想定がずれる元です。
  • 1回に1つだけ。 お願いを3つ並べると、最初の1つしか残らないことがよくあります。優先度の高いものから1つずつ。
  • 人格ではなく行動を話題にする。「だらしない」「常識がない」という評価の言葉は、行動を変える力はないのに自尊心だけを削ります。「〜という行動を、こう変えてほしい」に言い換えます。
  • 過去を蒸し返さない。「前もそうだった」「いつもそう」は、いま頼みたいことをぼやけさせ、責められた記憶だけを残します。
  • できたときに言葉にする。 当たり前のことでも「助かった、ありがとう」と伝えると、その行動は続きやすくなります。失敗の指摘だけが続く関係では、本人は家庭を「怒られる場所」と感じるようになってしまいます。

昔からの知恵②——注意し続けなくても回る「仕組み」を作る

伝え方を工夫しても、記憶や注意の特性そのものは変わりません。そこで次の一手が、「言わなくても回る仕組み」を家族で一緒に作ることです。当事者向けの生活術の本でも、家族の協力を得た仕組みづくりは効果が大きいと紹介されています。

  • 役割は「人」ではなく「仕組み」に割り当てる。 たとえば洗濯なら、家族それぞれに専用の洗濯ネットやカゴを決めて「自分の分は自分で取り込み、畳んでしまう」と決めてしまう。誰かが全部を背負って毎回声かけする体制より、失敗も摩擦も減ります。
  • 物の置き場所を固定する。 鍵・財布・書類は「帰宅したらこの箱に入れる」と定位置を決め、玄関に箱を置く。探し物と「また失くしたの?」というやりとりが減ります。
  • ルールは家族会議で「一緒に」決める。 一方的に課されたルールは守られにくく、監視と反発の構図になりがちです。本人が「これならできそう」と言える水準で合意するのがポイントです。
  • 基準を下げることも立派な工夫。 毎日完璧な食事や片付いた部屋を目指すと、本人も家族も続きません。「週の半分は総菜でいい」「床に物がなければ合格」のように、家族全員が無理なく続けられる基準に設定し直すことが、当事者向けの本でも「いちばん大切なこと」として勧められています。
  • 調子のサインを共有しておく。 イライラしやすいタイミングや疲れのサインをお互いに伝え合っておくと、「いまは頼みごとをする時じゃないな」と双方が備えられます。

2026年のやり方——アプリと家電に「注意係」を任せる

かつては家族が担っていた「声かけ係」「管理係」は、いまはかなりの部分を道具に任せられます。家族が注意する回数そのものを減らせるのが最大の利点です。

  • 共有カレンダー・リマインダー。 家族でGoogleカレンダーなどを共有し、ゴミ出しや支払い、学校行事を繰り返し予定として登録。通知は本人のスマホに直接届くので、「言った・言わない」の争いがなくなります。
  • 家族共有の買い物リスト・タスクアプリ。 「言ったのに買ってきてない」は、口頭伝達をやめてアプリのリストに一元化すれば激減します。スマートスピーカーに話しかけてリストに追加する方法なら、入力の手間もありません。
  • 時短家電で「そもそもやることを減らす」。 乾燥機付き洗濯機・食洗機・ロボット掃除機は、「誰がやるか」でもめていた家事そのものを消してくれます。仕組みづくりの最終形は、仕組みすら不要にすることです。
  • メッセージで頼む。 口頭の頼みごとは流れて消えますが、家族のチャットに「金曜までに書類に記入お願いします」と送れば記録が残り、本人も見返せます。責める口調になりにくいという副次効果もあります。

AIに手伝ってもらう

⚠️ メールや書類・写真をAIに渡すときは、氏名・会社名・家族の名前など、特定につながる部分を「A社」「夫」「子ども」などに置き換えてから渡してください。

「感情的にならずに具体的に伝える」は、頭でわかっていても、疲れているときほど難しいものです。ChatGPTやClaudeなどの対話型AIは、言いたいことを責めない具体的な言葉に「翻訳」する作業を手伝ってくれます。

イライラしたまま本人にぶつける前に、まずAIに吐き出して、伝え方を整えてもらう使い方がおすすめです。

🎤 音声で渡す
今から、発達障害の特性がある家族への不満を感情のまま話します。全部聞いたうえで、(1)私が本当に変えてほしい行動を1つに絞り、(2)人格を責めず、過去を蒸し返さず、具体的な行動と期限だけを伝える短い頼み方の文例を2パターン作ってください。責める言葉が混ざっていたら指摘してください。

家庭のルールや仕組みを作るときは、状況を渡して設計を手伝ってもらえます。

⌨️ 貼り付けて渡す
発達障害の特性がある家族と、注意や声かけをしなくても家事が回る仕組みを作りたいです。次の情報をもとに、(1)そもそもやめられる・減らせる家事、(2)道具やアプリに任せられること、(3)家族会議で決めるルール案(本人が無理なく守れる低めの基準で)を提案してください。
【よくもめる家事・場面】(ここに書く)
【本人が苦手なこと】(例: 忘れやすい、あいまいな指示が伝わらない)
【使える道具・予算】(ここに書く)

本人に受診や相談を勧めたいときの切り出し方も、下書きを作ってもらうと冷静に話しやすくなります。

⌨️ 貼り付けて渡す
家族に精神科・心療内科の受診を勧めたいです。「あなたが問題だ」と聞こえない伝え方で、(1)本人の困りごとを楽にすることが目的だと伝わる切り出し方、(2)嫌がられたときに無理強いせず引く言い方、の会話例を作ってください。本人の困りごと:(ここに書く)

AIの提案はあくまでたたき台です。最終的にどう伝えるかは、本人との関係をいちばん知っているあなた自身が決めてください。

家族だけで抱え込まないで——受診・相談の目安

伝え方や仕組みの工夫は、家族の負担を確実に減らしてくれます。ただ、工夫を重ねても本人の生活や仕事への支障が続くとき、あるいは支える側のあなた自身が眠れない・気分が沈むなど疲れ切ってしまっているときは、家族だけで抱え込まず、本人の受診や、支える側自身の相談・受診も選択肢に入れてください。特性の背景に何があるのか、うつ状態などが重なっていないかで、対応の考え方が変わります。

当院の受診についてご案内します。

  • ご予約はデジスマのWEB予約からお取りいただけます。初診の方には受診前にWEB問診にお答えいただいており、初診の所要時間は30分程度が目安です。
  • ご家族のみでのご相談はお受けしておりませんが、ご本人の同意のうえで診察に同席いただくことは可能です。ご本人が受診できない場合は、お住まいの自治体の公的な相談機関や、受診を予定している医療機関へお問い合わせいただく形をご案内しています。
  • 通院の頻度は、基本を2週間に一度としています。生活の困りごとの経過を確認しながら、工夫や治療を一緒に考えていきます。

緊急のとき——本人が自分を傷つけてしまいそうなほど追い詰まっているときは、様子を見ずに救急(119)への連絡や、かかりつけの医療機関への相談を行ってください。

まとめ

  • 「何度言っても伝わらない」のは、やる気の問題ではなく注意や情報の受け取り方の特性によることが多い
  • 伝え方の基本は「具体的に・短く・1つずつ」。人格ではなく行動を話題にし、できたときに言葉で伝える
  • 注意し続ける体制から、置き場所の固定・役割の仕組み化・共有アプリと時短家電で「言わなくても回る仕組み」へ
  • 家庭の基準を下げることも立派な工夫。家族全員が無理なく続けられる水準で合意する
  • 工夫しても支障が続くとき、支える側が疲れ切ったときは、家族だけで抱え込まず本人の受診・家族自身の相談も選択肢に

関連記事: 大人の発達障害「生活の困りごと」解決ガイド(総目次)

参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の女性が上手に生きるための本』(沢口千寛 著、翔泳社)
  • 『発達障害の人が会社の人間関係で困らないための本』(對馬陽一郎・安尾真美 著、林寧哲 監修、翔泳社)

執筆・監修:精神保健指定医 野口晋宏

よくある質問

何度注意しても同じ失敗を繰り返します。本人にやる気がないのでしょうか?

注意欠如多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある方の忘れ物や段取りの失敗は、やる気や誠意の問題ではなく、注意の向き方や情報の受け取り方という脳の情報処理のスタイルによるものが多いと考えられています。「気をつけて」と繰り返すより、リマインダーや置き場所の固定など、失敗が起こりにくい仕組みを一緒に作るほうが現実的です。

本人を傷つけずに困りごとを伝えるにはどうすればよいですか?

人格ではなく行動に絞って、具体的に伝えるのがコツです。「だらしない」「常識がない」といった評価の言葉は避け、「ゴミ出しは火曜の朝8時までにお願いしたい」のように、いつ・何を・どうしてほしいかを短く伝えます。過去の失敗を蒸し返さず、1回に伝えるお願いは1つに絞ると伝わりやすくなります。

本人が受診を嫌がります。家族だけで相談できますか?

当院では家族のみの相談はお受けしておらず、ご本人の同意のうえでの診察への同席は可能です。ご本人が受診できない場合は、お住まいの自治体の公的な相談機関や、受診を予定している医療機関に問い合わせる形をご案内しています。受診を勧めるときは「あなたが問題だから」ではなく「困りごとを楽にする方法を一緒に探したい」という伝え方が受け入れられやすいようです。

支える側の自分のほうが疲れてしまいました。どうすればよいですか?

家族が疲弊してしまうのは珍しいことではありません。すべてを家庭内で解決しようとせず、家事の基準を下げる・外部サービスに頼るなど負担を減らす工夫をしてください。眠れない・気分の落ち込みが続くなど、支える側ご自身の心身の不調が続くときは、ご自身の受診も選択肢になります。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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