はじめに
「トイレや外出のあと、手を洗うのがやけに長い」「鍵やかばんの中を何度も確かめないと出かけられない」「教科書の同じ行ばかり読み返していて、勉強が前に進まない」「寝る前の決まった手順が崩れると、最初からやり直す」——。お子さんのこうした様子に気づいて、これは性格なのか、しつけの問題なのか、それとも何かの病気なのかと、判断に迷っている保護者の方は少なくありません。
叱ってやめさせようとすると、かえって不機嫌になったり激しく抵抗したりする。「大丈夫?」と何度も聞かれて、つい答えてしまう。そんな毎日を過ごすうちに、「私の関わり方が悪かったのでは」とご自分を責めてしまう方もいます。けれども、悩んでいるのはあなただけではありません。強迫症は、子どもや思春期にも起こる、決してまれではない不調です。そして、育て方が原因で起こる病気ではないことが分かっています。
この記事では、子ども・思春期の強迫症が気づかれにくい理由、代表的な症状、家族を巻き込みやすいという特徴、叱らずに味方として支える関わり方、治療の一般的な考え方、そして相談先の探し方を、専門書の内容をもとに家族向けの医療情報としてまとめました。なお、当院は18歳以上の方を対象とした大人の精神科であり、お子さん(未成年の方)の診療は行っていません。この記事は「気づくきっかけ」と「向き合うヒント」としてお役立ていただき、実際の相談は、児童・思春期を診ている医療機関へお願いします。診断は必ず医師が行います。
子どもの強迫症は、なぜ気づかれにくいのか
強迫症は、頭から離れない考え(強迫観念)と、その不安をやわらげるために繰り返してしまう行為(強迫行為)からなります。たとえば「手が汚れているのではないか」という考えが浮かんで不安になり、その不安を打ち消そうと手を洗う、といった形です。
子どもの場合、これが大人以上に気づかれにくい事情があります。理由のひとつは、強迫行為の多くが、手洗いや確認、片づけといった「日常生活の動作の延長線上」にあることです。手を洗うこと自体はむしろ望ましい習慣ですし、戸締まりを確かめるのも当たり前のことです。どこまでが普通で、どこからが病気なのか——その線を、はっきり引けるものではありません。そのため、「きれい好きな子」「慎重な子」「几帳面な子」と受けとめられ、不調のサインとは気づかれないまま時間が過ぎてしまうことがあります。
加えて、子どもはもともと変化を嫌ったり、決まった手順にこだわったりすることがあり、それ自体は発達のなかでよくみられる姿でもあります。だからこそ、「年齢的なもの」「そういう性格」と片づけられやすいのです。
もうひとつの事情として、子ども自身が症状を隠すことがあります。「変だと思われたくない」「叱られたくない」という気持ちから、家族の前では強迫行為を我慢したり、部屋やトイレでこっそり行ったりするのです。また、大人に比べて「自分の考えのほうがおかしいのかもしれない」という自覚(病識)が薄いことも多く、本人の口から「困っている」という言葉が出てこないまま、生活の支障だけが先に目立ってくることもあります。
そこで、ひとつの目安になるのが、本人が苦しんでいるか、生活に支障が出ているかです。本人もやめたいと思っているのにやめられず、時間を取られて困っている。あるいは、朝の支度や勉強、睡眠が目に見えて滞っている。そうしたときは、性格の範囲を超えて、相談を考えてよい段階かもしれません。
こんな様子に気づいたら——代表的な症状
子どもや思春期の強迫症では、次のような様子がみられることがあります。
- 手洗い・洗浄:汚れやばい菌が気になり、手を洗う時間が長い、回数が多い。お風呂が極端に長くなることもあります。
- 確認:鍵や持ち物、宿題などを何度も確かめないと気がすまない。「ちゃんとできているか」を繰り返したずねることもあります。
- 儀式的なやり直し:決まった順番や手順にこだわり、その通りにできないと最初からやり直す。物の位置や左右の対称が気になることもあります。
- 読み返し・書き直し:本や教科書を「1行も漏らさず読めているか」が気になって先に進めず、同じところを何度も読み返してしまう。その結果、勉強がなかなか進まないことがあります。
最後の「読み返し」は、勉強の支障として表に出やすいサインです。本人は怠けているわけでも、わざと遅らせているわけでもありません。「きちんと読めた」という感覚が得られるまで先に進めない、という苦しさを抱えているのです。
似た困りごとの仲間——強迫に関連する状態
強迫症と関連が深い困りごととして、見た目の一部が過度に気になる醜形恐怖、物を捨てられずにためこんでしまうためこみ、髪の毛を抜いてしまう抜毛、皮膚をむしってしまう皮膚むしりなども知られています。こうした状態が、子どもや思春期にみられることもあります。「これも関係があるのかもしれない」と頭の片隅に置いておくと、気づきの手がかりになります。気になるときは、まとめて相談してかまいません。
チックや発達特性と重なることもある——見分けは専門機関で
児童・思春期の専門書では、強迫症状が単独で現れるとは限らないことが繰り返し指摘されています。たとえば、まばたきや咳払い、首振りなどが本人の意図と関係なく繰り返されるチックは、強迫症と併存しやすいことが知られています。また、自閉スペクトラム症などの発達特性による「同じ手順へのこだわり」や、決まった動きを繰り返す常同行動は、外から見ると強迫行為とよく似ています。
けれども、こだわりが本人にとって安心や楽しみである場合と、本人が「やめたいのにやめられず苦しんでいる」強迫症とでは、支援の方向が変わってきます。この見分けは、家庭で判断するのは難しい部分です。チックも強迫も、本人の意志の弱さや反抗ではなく、親の育て方によるものでもありません。重なりが疑われるときこそ、児童・思春期を専門とする医療機関で、まとめて評価してもらうことをおすすめします。
家族を巻き込みやすい——「巻き込み」という特徴
子どもの強迫症で、保護者が特に悩みやすいのが「巻き込み」と呼ばれる状態です。
お子さんは、不安をやわらげるために、家族を自分の行為に付き合わせることがあります。「大丈夫?」「汚れてない?」と何度も確認させる、安心の言葉を繰り返し求める、決まった手順や儀式に一緒に付き合うよう求める、代わりにドアノブを開けさせる・洗ってもらうなど強迫行為の代行を求める、といった形です。心配しているわが子に安心を与えたいと思うのは、保護者として自然な気持ちです。
けれども、専門書でも指摘されているとおり、保証を求める確認にその都度しっかり答えてもらえると、その場はほっとしても、次は「常に大丈夫と言ってもらわないと安心できない」状態へと進みやすく、求めることが少しずつ増えていきます。保証を求める質問そのものが、確認行為のひとつの形なのです。気づけば家族全体が、お子さんの不安に振り回されるような状態になってしまうこともあります。これは家族が悪いのではなく、強迫症という不調がもつ仕組みによるものです。
巻き込みへの対応——急にゼロにしない
では、確認や儀式への付き合いは、きっぱり断ればよいのでしょうか。実は、これまで応じてきたものを予告なく急にすべて断つのは、おすすめできません。お子さんの不安が一気に高まり、激しいぶつかり合いになったり、症状を隠すようになったりしやすいからです。
専門書で勧められているのは、おおよそ次のような考え方です。
- 家族の付き合い方に「枠」を作る。たとえば「同じ質問への保証は1回まで」など、応じる範囲をあらかじめ決めておく。
- その枠は、親が一方的に決めて突きつけるのではなく、本人が落ち着いているときに話し合って決める。「症状を減らすために、家族の手伝いも少しずつ減らしていこう」という共通の目標にする。
- 減らすのは一度にではなく、段階的に。できたときは一緒に喜ぶ。
- 気持ちには寄り添う。「不安なんだね」と受け止めることと、強迫行為に付き合うこととは、別のことです。
とはいえ、どこからどう減らすかは、お子さんの状態によって大きく変わります。ご家庭だけで抱え込まず、対応の仕方そのものを専門機関に相談することが、いちばんの近道です。
叱らずに、味方として支えるために
お子さんの強迫行為を見ていると、「いいかげんにしなさい」「もうやめなさい」と、つい強く止めたくなることがあると思います。けれども、叱ったり無理にやめさせようとしたりすると、かえって悪化しやすいことが知られています。
なぜでしょうか。理由は、強迫症の仕組みにあります。強迫行為は、不安をやわらげるためにどうしてもしてしまう行為です。本人も「おかしいかもしれない」と感じながら、不安に押されてやめられずにいることが多いのです。そこを頭ごなしに責められると、自分を否定されたように感じて不安が強まり、症状が増えることがあります。叱られるのが怖くて、症状を隠すようになってしまうこともあります。
支えるうえで大切なのは、お子さんを責めるのではなく、お子さんと「症状」とを分けて考えることです。困っているのは本人であり、敵は症状のほうだ、という姿勢です。「つらいよね」「困っているのは分かっているよ」と気持ちに寄り添いながら、症状そのものには一緒に立ち向かう仲間でいる。その関係づくりが、回復への土台になります。
治療の一般的な考え方——家族も参加する治療
子ども・思春期の強迫症の治療について、専門書に書かれている一般的な考え方をご紹介します(実際の治療方針は、診察した医師が本人の状態に合わせて決めます)。
中心は認知行動療法——不安は必ず下がる
治療の中心になるのは、不安なことにあえて少しずつ向き合い、不安をやわらげるための強迫行為をあえてしない練習(曝露反応妨害法と呼ばれます)を含む、認知行動療法です。児童・思春期の専門書でも、軽い〜中くらいの症状では、まずこの治療が検討されると説明されています。
ここで支えになるのが、「不安は、何もしなくても時間がたてば必ず下がっていく」という体験です。最初は不安が高まっても、その状態を続けていると、不安はやがて自然に下がっていきます。それは本人にとって、確認や手洗いをしなくても大丈夫だった、という小さな成功体験になります。
子どもの治療では、家族の参加が大人以上に重要とされます。前の節でみた「巻き込み」を家族が段階的に手放していくこと自体が治療の一部になりますし、家庭でのスモールステップの練習を支え、できたことを一緒に喜ぶ役割も家族が担うからです。「これならできそう」というところから始め、うまくいかない日があっても責めない。こうした関わりが、回復を後押しします。ただし、どこから、どのくらいの段階で取り組むかは、お子さんの状態によって大きく変わります。自己流で急に進めると負担になることもあるため、進め方は治療を担当する医師や専門家と相談しながら決めてください。
薬による治療の位置づけ
症状が中くらい〜重い場合には、認知行動療法に加えて、薬による治療(主に、不安や強迫に用いられるタイプの抗うつ薬)を組み合わせることが検討される、と専門書には書かれています。子どもへの薬の使い方は、大人以上に慎重な判断が必要な領域であり、使う薬の種類や量、続ける期間は、児童・思春期の診療に習熟した医師が決めるものです。
保護者の方に知っておいていただきたいのは、自己判断で急にやめさせないことです。薬への不安があるときは、やめる前に必ず処方した医師に相談してください。疑問を診察の場で率直に聞くことは、まったく問題のないことです。
学校生活での支障と、学校との連携
強迫症の影響は、家庭より先に学校生活に現れることもあります。次のようなサインが手がかりになります。
- 遅刻が増えた。朝の支度(手洗い・身支度・持ち物確認)に時間がかかっている。
- 提出物が出せない。書き直しや読み返しで宿題が終わらない。
- 授業中にトイレ(手洗い)に立つ回数が多い。
- 特定の場所や物(共用の道具、トイレ、給食など)を避ける。
- 登校をしぶるようになった。
こうしたとき、担任の先生や養護教諭、スクールカウンセラーに相談することは、有力な選択肢です。学校での様子を教えてもらえるだけでなく、地域の相談先や医療機関の情報を持っていることも多いからです。医療機関につながったあとも、症状のために避けている場面への配慮や、課題の負担調整など、学校と家庭が同じ方針で関わることが回復の助けになります。誰に・どこまで伝えるかは、お子さん本人の気持ちも聞きながら決めていくとよいでしょう。
相談先の探し方——どこに相談すればよいか
未成年のお子さんの強迫症の診療は、児童・思春期を診ている精神科(児童精神科)や、心の相談に対応している小児科が担います。地域によって体制はさまざまですので、次のような探し方があります。
- お住まいの自治体の保健センター・子ども家庭相談・教育相談の窓口に、対応している医療機関を尋ねる。
- かかりつけの小児科に相談し、必要に応じて紹介してもらう。
- 学校のスクールカウンセラーや養護教諭に、地域の相談先を尋ねる。
本人が受診をいやがる段階では、保護者のみの相談が可能かどうかを、受診を検討している医療機関にあらかじめ問い合わせて確認してみてください。保護者だけの相談を受け付けている機関もあります。児童・思春期の医療機関は予約が取りにくいこともありますが、待つ間も、この記事でみたような「叱らない」「巻き込みを急に断たない」関わりを続けることには意味があります。
なお、当院は18歳以上の方を対象としているため、お子さんの診療や、保護者のみのご相談はお受けしていません。この記事は、医療情報の紹介としてお読みください。
万一、お子さんが自分を傷つけそうな切迫した状況にあるときは、迷わず119番に連絡するか、すでに主治医がいる場合はその医療機関の指示に従ってください。
受診を考える目安
以下のような様子が続くときは、児童・思春期を診ている医療機関への相談を考えてみてください。
- 手洗いや確認、やり直しなどに時間を取られ、朝の支度や登校、就寝が滞っている。
- 本やノートの読み返し・書き直しが止まらず、勉強がなかなか進まない。
- 学校に遅れる、行きしぶる、提出物が出せないなど、学校生活に支障が出てきた。
- 「大丈夫?」と何度も確認させる、儀式に付き合わせるなど、家族の巻き込みが増えている。
- 本人がやめたいのにやめられず、苦しんでいる様子がある。
- 叱ったり止めさせたりすると、強く抵抗したり不安が強まったりする。
- チックなど、ほかの気になる症状も重なっている。
これらに当てはまるからといって、すぐに重い病気だと決まるわけではありません。迷う段階でも、学校の相談窓口や自治体の相談窓口、受診を検討している医療機関への問い合わせから始めることができます。
まとめ
子どもや思春期の強迫症は、手洗いや確認といった日常動作の延長に見えるうえ、本人が症状を隠したり自覚が薄かったりするため、気づかれにくいのが特徴です。家族を巻き込みやすく、叱って無理にやめさせようとすると悪化しやすい一方で、お子さんを責めず「症状」と分けて味方として支え、巻き込みには話し合いながら段階的に枠を作っていく関わりが、回復の大きな土台になります。治療は、家族も参加する認知行動療法が中心で、必要に応じて薬が組み合わされます。育て方が原因の病気ではありません。学校生活や勉強に支障が出てきたときは、学校の相談窓口や自治体の窓口も利用しながら、児童・思春期を診ている医療機関への相談を検討してみてください。
参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):
- 飯倉康郎『強迫性障害の治療ガイド』(二瓶社)
- 「精神科治療学」編集委員会 編『児童・青年期の精神疾患治療ハンドブック』(星和書店)
- 滝川一廣『子どものための精神医学』(医学書院)
よくある質問
子どもが何度も手を洗ったり確認したりします。性格やしつけの問題でしょうか。
几帳面さや慎重さといった性格と、強迫症の症状は地続きで、はっきりした境目がないため見分けが難しいものです。ただ、本人がやめたいのにやめられず苦しんでいる、生活や勉強に支障が出ているといったときは、性格やしつけの問題ではなく、相談したほうがよいサインと考えられます。育て方が原因で起こる病気ではありませんので、ご自分を責めないでください。診断は医師が行います。
「大丈夫?」と何度も確認してきます。その都度答えてあげたほうがよいですか。
不安なお子さんに安心を与えたい気持ちは自然なものですが、保証を求める確認に毎回しっかり答えると、その場は落ち着いても、次はもっと確認しないと安心できなくなりやすいことが知られています。これは「巻き込み」と呼ばれる状態です。かといって急にすべて断ると、お子さんの不安が強まってぶつかり合いになりやすいため、段階的に減らしていく工夫が必要です。対応の仕方も含めて、児童・思春期を診ている医療機関に相談してみてください。
本人が受診をいやがります。親だけで相談に行ってもよいですか。
医療機関によって対応は異なります。保護者のみの相談を受けている児童・思春期対応の精神科や小児科もありますので、受診を検討している医療機関に「本人が来られない段階で、保護者だけの相談が可能か」を電話などで問い合わせて確認してみてください。学校の養護教諭やスクールカウンセラー、自治体の教育相談・子育て相談の窓口も、受診前の相談先として利用できます。
強迫症は治るのでしょうか。
強迫症は、治療法が研究されている不調です。不安にあえて向き合い、強迫行為をあえてしない練習を中心とした治療や、必要に応じた薬による治療など、取り組める方法があります。良くなるまでの早さや程度には個人差がありますが、根気よく続けることで、症状に振り回されにくい生活を取り戻していけるものです。希望を持って、まずは児童・思春期を診ている医療機関などへの相談から始めてください。