福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
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ロナセン(一般名: ブロナンセリン)は、日本で生まれ育った統合失調症のお薬です。抗精神病薬のなかでは、眠気や体重増加といった「生活の重り」になりやすい副作用が比較的目立ちにくく、日中をしっかり過ごしたい方、仕事や学業と両立したい方でよく選ばれます。一方で、体のこわばりなど、この薬なりの見張りどころもあります。ここでは、その持ち味と付き合い方を、診察でお話ししている感覚に近い形でまとめました。

どんなふうに効く薬か

統合失調症では、脳の中で現実感や考えのまとまりに関わる「ドパミン」という物質の働きが乱れ、幻聴や妄想、考えがまとまらない感じが生まれると考えられています。ロナセンは、このドパミンの過剰な高ぶりを狙い澄まして抑えることで、幻覚・妄想をやわらげていく薬です。

この薬の設計思想は「狙いを絞る」こと。多くの抗精神病薬は、ドパミン以外のさまざまな場所にも作用が及ぶため、眠気・だるさ・食欲の増加といった"巻き添え"の副作用が出やすくなります。ロナセンは余計な場所への寄り道が少ないぶん、頭がぼんやりしにくく、体重も増えにくい——症状は抑えたいけれど、日中の生活はちゃんと動かしたい。そんな願いに応えやすい薬です。

ただし、狙いが鋭いことには裏面もあります。ドパミンをしっかり抑えるぶん、体のこわばりやそわそわ感(後述)は、むしろ出やすい側の薬です。切れ味と引き換えのこの副作用をどう見張り、どう手当てするか——そこが処方する側の腕の見せどころだと考えています。

血のなかの量が上下しても、脳では効いている

飲んだ薬が脳ではたらくには、脳を守っている関門を通り抜けなければなりません。脳の側には入ってきたものを外へ汲み出すポンプのような仕組みがあり、多くの薬は押し返されますが、ロナセンはこのポンプにつかまりにくく、いったん脳に入るととどまりやすいと考えられています。しかも狙った受け皿にがっちり結びついて、簡単には離れません。

つまり、血液の中の薬の量が上がったり下がったりしても、脳の中での効き目は比較的一定に保たれていると考えられているのです。ここには実用的な意味があります。この薬は、飲んでいる量の多さで効き目を測りにくいということです。ほかの人より少ない量に見えても、脳の中ではしっかりはたらいていることがあります。「量が少ないから効いていないのでは」と感じたときこそ、増やす前に確かめたいことがあります(後で触れます)。

なお、いま承認されている飲み方は1日2回、食後です。飲む回数や時刻はご自分で変えず、気になることは診察で聞かせてください。

薬が届くところと、届きにくいところ

幻聴や妄想の勢いがやわらいだあとも、ものごとを被害的に受け取りやすい傾向だけはしばらく残ることがあります。ある教科書に載っている経過でも、薬を替えて妄想が落ち着いたあと、被害的な考え方のくせのほうは続きました。そのとき担当医が選んだのは、さらに薬を増やすことではなく、はたらけるという自信を取り戻す方向に治療の重心を移すことでした。薬にできるのは幻聴や妄想の勢いを抑えるところまでで、人との距離の取り方や受け取り方の癖は、量を増やしても動きません。増やしても届かないところがあると知っておくと、治療への期待のかけ方が変わってきます。

どんな人に向くか・ほかの薬との違い

ロナセンが選ばれやすいのは、眠気や体重増加で過去の薬がつらかった方、日中の仕事・学業・家事をなるべく落とさずに治療したい方です。逆に、興奮や不眠が強くしっかり鎮静がほしい場面では、ジプレキサやセロクエルのような、眠りを助ける力のある薬のほうが向くことがあります。同じ「すっきり系」ではエビリファイラツーダが兄弟分にあたり、副作用の出方や合う・合わないを見ながら使い分けます。

もう一つの特徴が、貼るタイプ(テープ剤)があることです。飲み忘れが多い方、錠剤を飲み込みにくい方、食事が不規則な方にとって、「1日1回貼り替える」という形は現実的な選択肢になります。皮膚から少しずつ入っていくので食事の影響を受けず、「食後に飲む」という約束が生活とどうしても合わない方の助けになります。ただし貼ってから効き目が立ち上がるまでには時間がかかるため、その場のつらさをしのぐ使い方には向きません。

同じ系統の薬をならべて見たとき、体重や代謝への負担がいちばん小さい部類に入るとされているのがロナセンです。ただ、狙いを絞ったことの代償として、年齢が上がるほど、少ない量でも体のこわばりやそわそわ感が出やすくなるとも言われています。高齢の方では、より控えめな量から慎重に始めるのが基本です。

ロナセンは日本で生まれ、海外ではあまり使われていないため、大規模な比較研究のデータが多くありません。「ほかの薬より優れている」と言い切りにくい薬です。頭のはたらきによい影響があるのではという期待も語られていますが、暮らしのなかで実感できるほどの差になるかは、まだはっきりしていません。

「眠くならない」の、もう一つの顔

「眠くならない」はふだん大きな利点ですが、症状が激しく不安で気が休まらない時期には、眠りに引き込む力そのものが治療の一部としてはたらくことがあります。ある専門書は、こうしたすっきり系の薬を使うなら、つらい時期のあいだは眠りや不安を支える手当てを別に足しておくほうが本人にやさしい、と書いています。

同じことは、落ち着いてからの日々にも言えます。この薬を長く使っている医師から、不安に対する守りは弱いように感じる、患者さんが打たれ弱くなるような印象がある、と語られることがあります。ストレスがかかったとき、幻聴や妄想が戻るというほどではないけれど、なんとなく持ちこたえにくい——そんな時期です。こういうとき、まず考えるのは「量を増やす」ことではありません。眠りや不安の手当てを一時的に足して乗り切り、それでも噛み合わないようなら薬そのものを替えることも選択肢です。どんな場面でどう持ちこたえにくいのかを、そのまま聞かせてください。

飲み始めに知っておいてほしいこと

必ず食後に——この薬の効きは食事が握っている

ロナセンのいちばん大事な約束です。この薬は空腹のまま飲むと吸収が落ち、効きが不安定になる性質があります。「飲んでいるのに調子が揺れる」の裏に、空腹での服用が隠れていることは珍しくありません。朝食のあと・夕食のあと、と生活に組み込んでしまいましょう。あわせて、グレープフルーツ(ジュース含む)は効きを不自然に強めるので避けてください。一緒に飲めない薬もあるため、市販薬を使う前やほかの医療機関にかかるときは、お薬手帳を見せてください。

いちばん確実なのは食事のすぐあとで、食事から時間が空くほど吸収は落ちていきます。だからこそ、食事の実際をありのまま教えていただくことが大事です。専門書でも、朝食をとらない習慣の方に朝の服用をお願いするのは理にかなっていない、と指摘されています。「決められたとおりに飲めていない」と言いにくい気持ちはよく分かりますが、飲む時刻のほうを生活に合わせて組み直せば済む話であることがほとんどです。ご自分で変えず、診察で相談してください。

一緒に飲めない薬の話も、この薬ではかなり具体的です。爪や皮膚の水虫に使う飲み薬の一部や、一部のHIVの治療薬などは、ロナセンの効きを何倍にも強めてしまうため、同時には使わないことが決められています。一部の抗菌薬も注意が要る組み合わせです。

体のこわばり・そわそわ感

ロナセンで見張りどころになるのがこれです。体が固くなる、動きがぎこちない、表情が乏しくなる、手がふるえる——そんな「こわばり」や、じっと座っていられずうろうろしたくなる「アカシジア」が、飲み始めや増量の時期に出ることがあります。アカシジアは病気の焦りと紛らわしく、ご本人が「自分の心のせい」と我慢してしまいがちですが、これは薬の副作用です。量の調整や補助の薬で和らげられることが多いので、そのまま言葉にして教えてください。

こわばりは飲み始めの早い時期から出ることもありますが、飲み始めや増量から2〜3週間ほど経ったころに目立ってくることが多いとされています。とくに量を少しずつ増やしていく途中は、そわそわ感が顔を出しやすい時期です。

見落とされやすいのは、こわばりとそわそわは別のものだという点です。手のふるえや動きの硬さがまったくない方に、そわそわ感だけが出ることがあります。「体は普通に動いているから副作用ではないはず」と考えないでください。こわばりのほうは、ご本人より周りの方が先に気づくことも多いものです。

便秘、そして足のむくみ・急な息切れ

言い出しにくいけれど、伝えてほしいことが二つあります。

ひとつは便秘です。ロナセンでも便が出にくくなることがあり、放っておくと腸の通りが止まってしまうことがまれにあります。「たかが便秘」と思わずに、出ない日が続いているなら教えてください。手立てはあります。

もうひとつは血の塊(血栓)です。抗精神病薬を飲みはじめてからの最初の1年、とくにはじめの数か月は、足の静脈に血の塊ができやすいと報告されています。ふくらはぎの痛みや腫れ、片方の足だけがむくむ、急に息が切れる、胸が痛む——精神科の薬とは関係がなさそうに思えても、早めに受診してください。差し迫っていれば救急(119)へ。長い時間同じ姿勢でいることを避け、水分をとることも助けになります。

月経や胸の変化、性機能のこと

この系統の薬では、女性で月経が止まる・乱れる、母乳のようなものが出る、男性で性機能が落ちる、といった変化が起きることがあります。言い出しにくい話題の代表ですが、薬の作用で説明がつくことが多く、対処の手もあります。恥ずかしいことではないので、遠慮なく教えてください。

めったにないけれど大事なこと

ごくまれに、高熱と強いこわばりが同時に出る重い反応が起きることがあります。また、のどが強く渇く・水をたくさん飲む・トイレが近い、といった血糖の乱れのサインにも注意を——特に糖尿病がある方・ご家族にいる方は最初に教えてください。気づいたら次の診察を待たず連絡・受診を。差し迫っていれば救急(119)へ。

この重い反応が起きやすいのは、飲みはじめてからの2週間ほどと、薬を切り替えたり量を大きく増やしたりした直後です。脱水や、食事がとれていない状態、疲れきっている状態が重なると起こりやすいともされています。体調を崩して食べられない日・水分がとれない日が続くときは、我慢せず教えてください。

効いているかどうかを、何で確かめるか

抗精神病薬では、効きはじめるところと、こわばりが出はじめるところが、そう遠く離れていません。だから「効かないから増やす」を繰り返すと、効果が伸びきる前に副作用のほうが先に積み上がります。量は「効く範囲のいちばん少ないところ」を探るつもりで合わせていきます。

では何をもって「効いた」と考えればよいのでしょうか。声や気配が完全になくなったかどうかではありません。夜眠れているか、食事がとれているか、朝に起き出す気持ちになるか、人と会うのが以前ほど消耗しなくなったか——生活のどこが動いたかのほうが、よほど確かな手がかりです。

「効いていない気がする」と感じたときに、増やす前に確かめたいことがあります。食後に飲めているか(この薬ではこれが最大の落とし穴です)、飲み忘れた日がどのくらいあるか新しく飲みはじめた薬やサプリメントがないか。ここが揃わないまま量だけを上げても、こわばりが増えるだけに終わります。飲めていない日があることは、責める話ではありません。いまの量が合っているかどうかも、見直しの選択肢のひとつです。診察で一緒に確かめましょう。

揺り戻しは、眠りから始まる

きちんと飲んでいたのに症状が戻ってくる——それは起こりえます。そういうとき、最初に現れるのはたいてい幻聴や妄想ではなく、眠れなくなることです。仕事のトラブルや生活の変化が重なって、まず眠りが崩れ、そのあとで被害的な考えが強まってくる。この順番を知っておくと、手を打てる時期がぐっと早くなります。

そしてもう一つ大事なのは、この段階で必ずしも薬を増やさなくてよいということです。先に触れた教科書の経過でも、抗精神病薬は増やさず、眠りと日中の安静を支える手当てを一時的に足すことで落ち着いています。睡眠と食事がいつもどおりでなくなったら、次の予約を待たずに受診してください。

当院では、休養がうまくいっていない方に「休めていますか」ではなく、「休もうとすると何が邪魔をしますか」とお尋ねしています。休めない理由のほうにこそ、手をつけられることが隠れていることが多いからです。

やめるとき

ロナセンは依存になる薬ではありません。ただ、統合失調症の治療では、良くなってからの継続こそが再発を防ぐ要です。自己判断で急にやめると、数週間〜数か月おいて症状がぶり返すことが少なくありません。やめる・減らす判断は、症状の安定と生活の状況を確かめながら、一緒に決めていきましょう。

報告されている経過は厳しいものです。薬をやめた方の多くが、1〜2年のうちに再発したとされ、初めての治療でよくなったあとの数年で見ても、やめた方の再発は続けた方よりずっと多いと報告されています。症状が軽くなって消えていく時期は「もう安心してよい時期」ではなく、気をつける先が症状から服薬の継続へ移った時期です。やめるかどうかを一人で決めないこと——それがいちばん大事です。

急にやめること自体にも注意が要ります。長く抑えられていた側が急にほどけると、症状のぶり返しとは別に、そわそわして落ち着かない感じや、体の動きの変化が出ることがあります。病気の悪化と見分けがつきにくいので、試しにやめて確かめる、という形は取らないでほしいのです。減らす相談は、いつでも診察でできます。

生活の中での注意

眠気は少なめの薬ですが、ゼロではありません。添付文書では、この薬を飲んでいるあいだは車の運転など危険を伴う機械の操作を控えることになっています。とくに飲み始めや量を変えた時期、眠気やふらつきを感じているときは危険です。運転が欠かせない生活の方は、薬の選び方から一緒に考えますので、必ず事前にご相談ください。お酒は作用を強めるので控えめに。妊娠・授乳は一律の禁止ではなく、必要性と一緒に考えます。妊娠が分かっても自己判断でやめず、まず相談してください。

当院での考え方

当院では、ロナセンを「日中の生活を守りながら症状を抑える」ための選択肢として使います。効かせるには食後服用が欠かせないので、飲み方も生活に合わせて一緒に設計します。飲み始めと増量の時期は、こわばりやそわそわ感を確かめるために少し短い間隔で診ます。薬は回復の柱の一つですが、それがすべてではありません。休養や生活リズムの調整と組み合わせながら、一緒に進めていきましょう。

当院は18歳以上の方を対象に診療しており、通院は2週間に一度が基本です。こわばりやそわそわ感、月経や胸の変化といった言い出しにくい話題も、遠慮なく持ち出してください。食事の実際——何時に、どのくらい食べているか——も、ほかの薬なら雑談に聞こえるかもしれませんが、この薬では効き目そのものに直結する話です。

参考文献

  • ロナセン錠 添付文書(2026年3月改訂・第10版、住友ファーマ) — KEGG MEDICUS 参照(2026-07-14)
  • 参考書籍(本文の追記の裏づけ。要約・再構成であり原文の転載ではありません): 『統合失調症のみかた,治療のすすめかた』『研修医・コメディカルのための 精神疾患の薬物療法講義』『こうすればうまくいく! 精神科臨床はじめの一歩』『ジェネラリストのための 向精神薬の使い方』『本当にわかる 精神科の薬 はじめの一歩』『日本精神神経学会専門医認定試験問題解答と解説 第2集』『精神科治療学 第36巻12号 せん妄治療の現在』

よくある質問

なぜ必ず食後に飲むように言われるのですか?

ロナセンは、空腹のまま飲むと体にうまく吸収されず、効きが不安定になることが分かっているお薬です。食事のあとに飲んで、はじめて安定した効果が期待できます。「なんとなく効かない」「日によって調子が違う」の裏に、空腹での服用が隠れていることがあります。朝食・夕食のあとに飲む、と生活に組み込んでしまうのがいちばん確実です。

体がこわばる・じっとしていられない感じがあります。

ロナセンで知っておいてほしい代表的な副作用です。体が固くなる・動きがぎこちなくなる「こわばり」や、そわそわして座っていられない「アカシジア」は、飲み始めや量を変えた時期に出ることがあります。不安のせいと紛らわしいのですが、薬の副作用であることが多く、量の調整や補助の薬で和らげられます。我慢せずそのまま教えてください。

飲み薬が苦手なのですが、ほかの形はありますか?

ロナセンには背中や胸などに貼るテープ剤があります。飲み忘れが多い方、錠剤を飲み込みにくい方、食事が不規則で「食後に飲む」が守りにくい方の選択肢になります。1日1回貼り替える形で、皮膚のかぶれには注意が必要です。ご希望があれば診察でご相談ください。

やめられなくなりませんか?

依存になる薬ではありません。ただ、統合失調症の治療では、調子が良くなってからも続けることが再発を防ぐ要になります。自己判断で急にやめると症状がぶり返しやすいので、やめる・減らす時期とペースは、症状の安定を確かめながら診察で一緒に決めていきましょう。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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