「精神科に通院したことがあると、生命保険に入れなくなるらしい」「住宅ローンが組めなくなるのでは」――そんな話を聞いて、受診をためらっている方がいらっしゃいます。実際、外来でも「保険のことが心配で、受診をずっと迷っていました」というお話を伺うことがあります。
結論からお伝えすると、通院歴があると保険の加入に影響が出る場合があるのは事実です。しかし「絶対に入れない」わけではなく、選択肢はいくつもあります。そして何より、保険を理由に必要な受診を先延ばしにすることは、健康の面でも、長い目で見た生活設計の面でも、得策とは言えません。
この記事では、生命保険や住宅ローンの「告知義務」の一般的な仕組みと、通院歴がある場合の選択肢の考え方を、福岡県春日市の精神科・心療内科の視点からお伝えします。なお、当院は保険の専門機関ではないため、個別の商品や加入可否についてはお答えできません。具体的な判断は、保険会社やファイナンシャルプランナー(FP)にご確認ください。
告知義務とは――「正直に答える義務」の仕組み
生命保険や医療保険に申し込むとき、申込者は「告知書」で自分の健康状態を保険会社に伝えます。過去の病歴や現在の通院・投薬の有無などを、事実のとおりに答える義務――これが告知義務です。
保険は、多くの加入者が保険料を出し合い、万一のときに保険金を受け取る「助け合い」の仕組みです。健康状態にかかわらず誰でも同じ条件で加入できるとすると、公平性が保てなくなります。そのため保険会社は、告知内容をもとに、加入の可否や条件を判断しています。
告知書で尋ねられる内容は商品によって異なりますが、一般的には次のような項目が含まれます。
- 過去数年以内(多くは5年以内など)の入院・手術・通院・投薬の有無
- 現在治療中の病気やけがの有無
- 直近の健康診断での指摘の有無
精神科・心療内科への通院や、抗うつ薬・睡眠薬などの処方も、該当する期間内であれば告知の対象になります。「精神科だから」特別に厳しく尋ねられるのではなく、他の診療科の通院と同じく、事実を答える対象になるということです。
告知義務違反のリスク――「黙っていればわからない」は成り立たない
「告知しなければわからないのでは」と考えたくなるかもしれませんが、これは強くおすすめできません。
事実と異なる告知をして加入すると、告知義務違反にあたります。保険会社に知られた場合、契約を解除され、保険金や給付金が支払われないことがあります。すでに払い込んだ保険料も、原則として戻りません。
そして、保険金や給付金を請求する場面では、保険会社が支払いの前に調査を行うことがあります。本人の同意のもとで医療機関に事実確認が行われることもあり、通院歴が判明する可能性は十分にあります。つまり、保障が一番必要になったそのときに、保障が受けられないという事態になりかねないのです。
これでは、何のために保険料を払ってきたのかわかりません。告知書には正直に答える――これが大原則です。なお、精神科の通院歴が保険会社を含めて外部にどう扱われるかについては、精神科の通院は会社や保険にバレる?通院歴と個人情報の実際で詳しく解説しています。本記事はその「告知義務」の部分を深掘りするものです。
通院歴があると、保険はどうなるのか
正直に告知した結果、どうなるのでしょうか。一般的には、保険会社の判断は次のいずれかになるとされています。
- 通常どおり加入できる:通院の内容や経過によっては、無条件で加入できる場合もあります
- 条件付きで加入できる:保険料の割増、特定の疾病を保障の対象外とする(部位・疾病不担保)、保障額の制限などの条件がつく場合があります
- 加入を断られる(謝絶):現在治療中の場合などは、加入が難しいことがあります
どの判断になるかは、病名・治療期間・現在の状態・商品の種類などをもとに、保険会社ごとに個別に決まります。同じ状況でも保険会社によって判断が分かれることがあるため、1社で断られたからといって、すべての保険に入れないとは限りません。
通院歴があっても検討できる選択肢
通常の保険に入りにくい場合でも、一般に次のような選択肢が存在します。
- 引受基準緩和型保険:告知項目を少なく絞り、持病や通院歴があっても加入しやすくした保険です。そのぶん保険料は割高になり、加入後一定期間は保障が減額される商品もあります
- 無選択型保険:告知や医師の診査なしで加入できる保険です。保険料はさらに割高で、保障内容にも制限があるのが一般的です
- すでに加入している保険を続ける:受診より前に加入していた保険は、その後に通院を始めても、原則としてさかのぼって不利益を受けることはありません。見直しの際に解約してしまう前に、今の契約を続ける選択肢も含めて検討する価値があります
ここに挙げたのはあくまで一般的な分類であり、当院が特定の商品や加入方法をおすすめするものではありません。それぞれの損得はご事情によって変わるため、保険会社の窓口やFPなど、保険の専門家に相談することをおすすめします。
治療終了後、一定期間が経てば
多くの告知書は「過去5年以内」など、一定期間内の通院・投薬について尋ねる形式になっています。このため、治療が終了して所定の期間が経過すれば、告知の対象に該当しなくなり、通常の保険に加入できる場合があります。
「一度でも精神科にかかったら一生保険に入れない」というのは誤解です。治療を終えて安定した生活を送っている方が、その後に保険へ加入していく道は開かれています。逆に言えば、早く治療を始めて早く回復することが、保険の面でも近道になり得るということです。
住宅ローンと団体信用生命保険(団信)
住宅ローンを組む際には、多くの金融機関で団体信用生命保険(団信)への加入が条件とされています。団信は、ローン返済中に契約者が亡くなるなどした場合に、残りのローンが保険金で完済される仕組みです。
団信も生命保険の一種であるため、加入時には健康状態の告知が必要で、精神科の通院歴が影響する場合があります。ただし、ここでも選択肢がないわけではありません。一般に、次のような道が知られています。
- 引受基準緩和型の団信(ワイド団信):告知の基準を緩和した団信で、金利の上乗せなどの条件付きで利用できる場合があります
- 団信への加入が任意のローンを選ぶ:一部の住宅ローン(フラット35など)では団信への加入が必須ではなく、団信なしでローンを組むという選択肢もあります
- 配偶者名義での借り入れなど、家族での組み方を工夫する
どの方法が取れるか、それぞれにどんな注意点があるかは、金融機関や商品によって異なります。住宅購入は大きな決断ですから、金融機関の窓口やFPに、事情を伝えたうえで相談することをおすすめします。
保険を理由に、受診を先延ばしにしないでください
ここまで読んで、「やはり受診すると不利になるのか」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。ですが、精神科医としてもっともお伝えしたいのは、保険を理由に受診を先延ばしにしないでほしいということです。理由は3つあります。
1. 早く治療するほど、回復も早いことが多いからです。 うつ病をはじめとする心の不調は、こじらせてから治療を始めると回復までに時間がかかりがちです。受診を先延ばしにして症状が重くなれば、治療期間は延び、結果として告知の対象になる期間も長引きます。早く受診して早く治すことが、健康にとっても、長期的な生活設計にとってもプラスに働きます。
2. 症状を抱えたまま加入しても、守られない場合があるからです。 受診歴がなくても、加入前からすでに始まっていた不調については、保障の対象外と判断される場合があります。「受診さえしなければ大丈夫」とは言えないのです。
3. 健康あっての保険だからです。 保険は、安心して生活するための手段です。その手段を守るために、肝心の健康を損なってしまっては本末転倒です。今つらい症状があるなら、まず治療を優先してください。保険のことは、治療と並行して、あるいは回復してから、専門家と一緒に考えることができます。
なお、休職に関わる証明書類の実務は休職診断書のもらい方、障害者手帳などの制度は精神障害者保健福祉手帳の解説記事も参考になさってください。
当院での実際
当院(福岡県春日市・春日メンタルクリニック)での、関連する実務は次のとおりです。
- 通院の頻度は、基本を2週間に一度としています。
- 初診の所要時間は、問診を含めて30分程度を目安としています。受診はデジスマによるWEB予約制で、初診前にWEB問診にお答えいただきます。
- 診断書などの書類は、必要に応じて診察のなかでご相談いただけます。休職の診断書は、診察の結果必要と判断すれば初診当日に発行することもあります。
保険の加入可否や商品の選択について当院がお答えすることはできませんが、治療の経過や見通しについて主治医として説明することはできます。通院状況に関する書類などが必要な場面があれば、診察時にご相談ください。
まとめ――正直な告知と、早めの受診を
生命保険や住宅ローンの告知義務は、「精神科だから」特別なものではなく、健康状態を事実のとおり伝えるという共通のルールです。通院歴があると加入に影響が出る場合はありますが、条件付きの加入、引受基準緩和型の保険やワイド団信、治療終了後の通常加入など、選択肢は複数あります。一方、事実と異なる告知は、いざというときに保障を失うリスクを伴います。
そして、保険への心配が受診をためらう理由になっているなら、どうか順番を変えないでください。まず健康、それから保険です。早めの受診と治療が、結果として将来の選択肢を広げることにつながります。
当院は福岡県春日市の精神科・心療内科として、「受診したいが、あとあとの影響が心配」という段階のご相談もお受けしています。すでに通院中の方は、まず主治医にご相談ください。命に関わる緊急の場合は、ためらわず救急(119)を利用してください。受診をご希望の方は、WEB予約からご都合のよい日時をお選びください。
よくある質問
精神科に通院していると、生命保険には絶対に入れないのですか?
絶対に入れないわけではありません。告知内容をもとに保険会社が個別に判断するため、通院の内容や経過によっては、条件付き(保険料の割増や一部保障の制限など)で加入できる場合があります。また、告知項目を絞った引受基準緩和型の保険や、告知が不要な無選択型の保険といった選択肢も一般に存在します。どの保険にどのような条件で入れるかは商品や保険会社によって異なるため、具体的には保険会社やファイナンシャルプランナーにご確認ください。
通院歴を告知しないで保険に入ったらどうなりますか?
事実と異なる告知をすると「告知義務違反」となり、保険会社に知られた場合には契約を解除され、保険金や給付金が支払われないことがあります。保険金の請求時には保険会社が医療機関への確認などの調査を行うことがあり、通院歴が判明する可能性は十分にあります。いざというときに保障が受けられないのでは保険に入る意味がなくなってしまうため、告知書には正直に答えることが大原則です。
治療が終わってから何年か経てば、普通の保険に入れますか?
一般に、多くの保険の告知書は「過去5年以内の通院・投薬」など一定期間内の受診歴を尋ねる形式になっており、治療が終了して所定の期間が経過すれば、告知の対象に該当しなくなる場合があります。ただし、尋ねられる期間や判断の基準は商品によって異なります。ご自身のケースでどうなるかは、加入を検討している保険会社に確認するのが確実です。
保険に入れなくなると困るので、受診を先延ばしにしようか迷っています。
お気持ちはよくわかりますが、受診を先延ばしにすることはおすすめできません。精神科の不調は早めに治療を始めるほど回復しやすく、逆にこじらせてしまうと治療も長引きがちです。治療が長引けば、結果として告知の対象となる期間も延びてしまいます。また、症状があるのに受診せずに保険に加入しても、加入前から続いていた不調と判断されれば保障の対象外となる場合があります。健康あっての生活設計です。まずは治療を優先し、保険はそのうえで専門家に相談することをおすすめします。