福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
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「気持ちの落ち込みがつらいけれど、抗うつ薬には抵抗がある」「体質から整えたいので、できれば漢方で治したい」「精神科の薬は怖いイメージがあるが、漢方なら試してみてもいい」――。

診察のなかで、こうしたお気持ちを打ち明けてくださる方は少なくありません。そして、それは決して珍しい考えでも、言いにくいわがままでもありません。

結論からお伝えすると、精神科・心療内科でも漢方薬は使われており、保険診療のなかで処方できます。一方で、漢方薬も「薬」であり、副作用がありますし、漢方薬だけでは十分な回復が期待しにくい状態もあります。

この記事では、精神科でよく使われる漢方薬の位置づけ、漢方薬にも副作用があること、漢方を中心に治療できる場合と抗うつ薬などが必要になる場合の見きわめについて、福岡県春日市の精神科・心療内科の視点からお伝えします。

精神科でも漢方薬は「ふつうに」使われています

漢方薬というと、専門の漢方薬局や一部の内科だけのもの、というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。実際には、多くの漢方薬が医療用医薬品として承認されており、健康保険を使った通常の診療のなかで処方できます。精神科・心療内科でも、症状や状態に応じて漢方薬が選ばれることは珍しくありません。

漢方薬の特徴としてよく挙げられるのは、次のような点です。

  • ひとつの薬で、複数の症状(たとえば不安と胃の不調、イライラと不眠など)にまたがって働きかけることを想定している
  • 「気分の落ち込み」「不安」といった心の症状だけでなく、冷え、めまい、のどの違和感といった体の不調が前面に出ている状態に選択肢を持ちやすい
  • 眠気やふらつきなど、西洋薬で問題になりやすいタイプの副作用が比較的目立ちにくいものがある

もちろん、これは「漢方薬のほうが優れている」という意味ではありません。西洋薬と漢方薬にはそれぞれ得意な場面があり、状態に応じて使い分けたり、組み合わせたりしていくのが実際の診療です。

精神科でよく使われる漢方薬――代表的な例

ここでは、精神科・心療内科の領域でよく名前の挙がる漢方薬を、一般的な使われ方とともにいくつかご紹介します。実際にどの薬が合うかは、症状の内容だけでなく体格や体力、胃腸の強さなども含めて判断されるため、あくまで「こういう場面で使われることがある」という目安としてお読みください。

抑肝散(よくかんさん)

イライラ、怒りっぽさ、興奮、神経の高ぶりといった症状に用いられることが多い漢方薬です。「ささいなことでカッとしてしまう」「気が立って眠れない」といった状態で選ばれることがあります。

半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

「のどに何かつまっている感じがするのに、検査では異常がない」という、のどの違和感・つまり感に使われることで知られています。不安や緊張が強く、気分がふさぐ、動悸や吐き気を伴う、といった状態にも用いられることがあります。のどのつまり感は、まず耳鼻咽喉科や内科で体の側の評価を受けることが前提です。

加味逍遙散(かみしょうようさん)

更年期前後の女性の心身の不調をはじめ、イライラと落ち込みが波のように入れ替わる、のぼせ、疲れやすさ、月経に関連した不調などに用いられることの多い漢方薬です。月経前の心身の不調についてはPMS・PMDDのページでも解説しています。

酸棗仁湯(さんそうにんとう)

心身が疲れているのに眠れない、というタイプの不眠に用いられることが知られています。眠れない状態が続いている方は、背景の評価も含めて不眠症のページをあわせてご覧ください。

このほかにも、不安や動悸、めまい、疲労感などに応じて、さまざまな漢方薬が使い分けられています。名前を覚えていただく必要はありません。「自分にはどれが合うのか」は、診察で症状と体の状態をうかがいながら一緒に考えます。

漢方薬も「薬」です――副作用がないわけではありません

「漢方は自然のものだから、副作用の心配はいらない」と思われがちですが、これは誤解です。漢方薬も薬であり、副作用が起こることがあります。

代表的なものが、多くの漢方薬に含まれる甘草(かんぞう)という生薬によるものです。甘草を長く、あるいは多く摂ると、体の塩分と水分のバランスが崩れて、

  • 顔や手足のむくみ
  • 血圧の上昇
  • 血液中のカリウムが下がることによる、だるさ・力の入りにくさ・筋肉の痛み

といった状態が起こることがあります。これは「偽アルドステロン症」と呼ばれますが、名前を覚えるより、「漢方を飲んでいてむくみ・血圧上昇・強いだるさが出たら、早めに処方医に伝える」と覚えておいていただくのが実用的です。複数の漢方薬を併用すると甘草が重なって量が増えることがあるため、他院や市販の漢方薬を使っている場合は必ずお知らせください。

このほか、胃もたれや食欲低下などの胃腸症状、発疹などのアレルギー、まれに肺や肝臓への影響も報告されています。定期的に飲み続ける場合には、体調の変化を診察で確認しながら続けていくことが大切です。薬との付き合い方全般については薬についてのページにまとめています。

漢方だけで治療できる場合と、抗うつ薬などが必要な場合

ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。

漢方薬を中心に経過をみられることが多い状態の例

  • ストレスに伴う体の不調(のどの違和感、動悸、めまい、冷え、疲れやすさなど)が中心で、日常生活はなんとか送れている
  • イライラや気分の波、軽い不眠はあるが、食事・睡眠・仕事や家事が大きくは崩れていない
  • 更年期や月経周期に関連した心身の不調
  • 自律神経のバランスの乱れによると考えられる諸症状(この場合も、まず内科などで体の病気の評価を受けておくことが前提です。詳しくは自律神経失調症のページをご覧ください)

こうした状態では、漢方薬と生活の調整、環境の整理を組み合わせて様子をみる、という進め方が選択肢になります。

抗うつ薬などの治療を優先して考えたい状態の例

  • 気分の落ち込みや興味の喪失が2週間以上続き、食事や睡眠、仕事・家事に明らかな支障が出ている(うつ病の可能性がある状態)
  • 突然の強い動悸や息苦しさの発作を繰り返し、外出や乗り物が怖くなっている(パニック障害の可能性がある状態)
  • 「消えてしまいたい」という考えが浮かぶ
  • 幻聴や強い被害的な考えなど、現実の受け取り方が大きく変わっている

こうした状態では、抗うつ薬などの西洋薬による治療のほうが回復を期待しやすいとされています。ここで漢方薬だけにこだわってしまうと、効果の乏しい治療を続けているうちに、つらい期間が長引いてしまうおそれがあります。これは、漢方が悪いという話ではなく、道具の使いどころの問題です。

なお、両者は二者択一ではありません。抗うつ薬による治療を軸にしながら、残った体の症状に漢方薬を組み合わせる、という形もよく行われています。

「漢方だけで」という希望も、遠慮なく診察でお伝えください

「本当は抗うつ薬をすすめられそうだけど、漢方でお願いしたいなんて言ったら嫌がられるのでは」と心配される方がいらっしゃいます。そんなことはありません。

治療は、医師が一方的に決めるものではなく、ご本人の価値観や希望をふまえて一緒に決めていくものです。当院でも、次のように進めていきます。

  • まず、症状の内容と重さ、体の状態を診察で丁寧に評価します
  • 漢方薬を中心に治療できそうな状態であれば、そのご希望に沿った提案をします
  • 抗うつ薬などが必要と考えられる状態のときは、その理由と、漢方だけで進めた場合に想定されることを率直にご説明します。そのうえでどうするかを一緒に相談します
  • 途中で方針を変えることもできます。「まず漢方で始めて、一定期間で改善が乏しければ治療を見直す」といった進め方も選択肢です

大切なのは、「漢方希望」という気持ちを隠して受診するより、最初にそのまま伝えていただくことです。ご希望が分かれば、それを前提にした現実的な計画を立てられます。

漢方薬を使うときに知っておきたいこと

漢方薬による治療を始める場合、いくつか知っておいていただきたい点があります。

  • 効果の出方には個人差があります:数日で変化を感じる方もいれば、数週間かけてゆっくり変わっていく方もいます。効果と副作用を確認しながら、続けるか・変えるかを判断していきます
  • 合わなければ変更できます:漢方薬は「その人の状態に合うかどうか」が重視される薬です。1つ目が合わなくても、別の選択肢があります
  • 飲み方は続けやすさも含めて相談を:粉薬の味やにおいが苦手という方もいらっしゃいます。続けにくい場合は、我慢せずお伝えください
  • 他の薬・市販薬・健康食品は必ず申告を:甘草の重複などを避けるため、お薬手帳を診察時にお持ちください
  • 自己判断での中断・追加はしない:漢方薬に限らず、薬の変更は処方医と相談しながら行ってください

受診の目安――こんなときはご相談ください

次のような場合は、一度受診を検討してみてください。

  • 気分の落ち込み、不安、イライラ、不眠などが2週間以上続いている
  • のどのつまり感や動悸、めまいなどが続き、体の側の検査では異常がないと言われた
  • 市販の漢方薬などを試しているが、よくならない
  • 「西洋薬には抵抗があるが、専門家には相談したい」と感じている
  • 漢方薬を飲んでいて、むくみ・血圧上昇・強いだるさなど気になる変化がある(この場合はまず処方医へ)
  • 食事がとれない、眠れない日が続く、「消えたい」という考えが浮かぶ(この場合は漢方かどうかにかかわらず、早めの受診をおすすめします)

ご家族が受診をすすめたい場合の進め方は、受診を検討している医療機関に問い合わせてご確認ください。すでに通院中の方は、まず主治医にご相談ください。命に関わる緊急の場合は、ためらわず救急(119)を利用してください。

まとめ――漢方も西洋薬も、回復のための道具です

精神科・心療内科でも、抑肝散、半夏厚朴湯、加味逍遙散、酸棗仁湯などの漢方薬が保険診療のなかで使われています。「西洋薬に抵抗がある」「できれば漢方で」というお気持ちは、診察で率直に伝えていただいてよいものです。一方で、漢方薬も薬であり副作用がありますし、うつ病やパニック障害などで症状がしっかりある状態では、抗うつ薬などの治療のほうが回復を期待しやすいとされています。漢方か西洋薬かの二者択一ではなく、状態とご希望の両方をふまえて、いちばん回復に近い組み合わせを選んでいくことが大切です。

当院は福岡県春日市の精神科・心療内科として、「漢方で治療したい」「薬に抵抗があるが相談だけでもしたい」といったご相談をお受けしています。ご希望をうかがったうえで、いまの状態に合った選択肢を一緒に考えます。WEB予約からご都合のよい日時をお選びください。

よくある質問

精神科でも漢方薬を処方してもらえるのですか?

はい。多くの漢方薬は医療用として保険診療のなかで処方されており、精神科・心療内科でも用いられています。イライラや興奮に抑肝散、のどのつまり感や不安に半夏厚朴湯、更年期前後の心身の不調に加味逍遙散、不眠に酸棗仁湯などが、一般的な使われ方として知られています。ただし、どの薬が合うかは症状や体の状態によって異なるため、診察のうえで一緒に選んでいくことになります。

漢方薬なら副作用はないと考えてよいですか?

いいえ。漢方薬も薬であり、副作用が起こることがあります。よく知られたものに、多くの漢方薬に含まれる甘草(かんぞう)という生薬によって、体にむくみが出たり血圧が上がったり、血液中のカリウムが下がったりする状態(偽アルドステロン症と呼ばれます)があります。ほかに胃の不快感や発疹、まれに肺や肝臓への影響も報告されています。「自然由来だから安全」とは考えず、気になる変化があれば早めに処方医にご相談ください。

抗うつ薬は飲みたくないのですが、漢方薬だけで治療できますか?

症状の種類や重さによります。ストレスに伴う体の不調や軽い不眠、イライラなどでは、漢方薬と生活の調整を中心に経過をみられる場合があります。一方、うつ病やパニック障害などで症状が中等度以上のときは、抗うつ薬などの治療のほうが回復が期待しやすいとされており、漢方薬だけにこだわると回復が遅れてしまうことがあります。「できれば漢方で」というご希望は診察で率直にお伝えください。ご希望をふまえたうえで、現実的な選択肢を一緒に考えます。

いま内科でもらっている漢方薬と、精神科の薬は併用できますか?

併用できる組み合わせも多くありますが、注意が必要な場合もあります。たとえば甘草を含む漢方薬を複数重ねて飲むと、甘草の量が多くなり副作用が出やすくなることが知られています。ほかの医療機関で処方されている薬や市販の漢方薬、健康食品も含めて、診察のときにすべてお知らせください。お薬手帳をお持ちいただくと確認がスムーズです。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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