福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
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はじめに

「この状態は、いつまで続くのだろう」「治療を始めたら、どんなふうに良くなっていくのだろう」――摂食障害の治療を考えるとき、多くの方やご家族が抱く疑問です。

摂食障害の回復について、まずお伝えしたいことが3つあります。回復は一直線には進まないこと。回復とは体重の数字だけを指すのではないこと。そして、途中で症状がぶり返しても、それは「失敗」ではないことです。

この記事では、摂食障害の治療が何を目指すのか、回復はどんな道のりをたどるのか、そして「体重だけではない」回復の姿について、患者さんとご家族に向けて解説します。

治療のゴールは「食べられるようになること」だけではない

摂食障害の治療目標は、段階に分けて考えるとわかりやすくなります。専門書では、神経性やせ症の治療目標として、からだの状態の安定、栄養の回復、食行動が落ち着くこと、そして心理面・社会面の機能の回復、という流れが挙げられています。

つまり、治療の入り口では「からだの安全を確保すること」が最優先になりますが、それはゴールではなく土台です。その先に、食事との付き合い方が楽になること、学校や仕事、人との関わりを含めた生活を取り戻すことという、より大きな目標があります。

摂食障害は、食欲だけの病気ではありません。体重や体型へのとらわれの背景には、「自分に自信が持てない」「人からどう見られるかが気になって仕方がない」といった、自己評価にかかわる苦しさが隠れていることが多いと指摘されています。だからこそ治療のゴールも、食行動の表面だけでなく、その奥にある「自分との付き合い方」まで含めて考える必要があるのです。

回復は直線では進まない――行きつ戻りつが普通

回復の道のりを、右肩上がりの一本の線のようにイメージしていると、少し調子を崩したときに「もうだめだ」と感じてしまいがちです。けれども実際の回復は、良くなったり、足踏みしたり、少し戻ったりを繰り返しながら、長い目で見ると前に進んでいく――そんならせん状の道のりをたどるのが普通です。

たとえば、食事が少しとれるようになった時期に、進学や就職、人間関係のストレスをきっかけに食行動が乱れることがあります。拒食が落ち着いてきたと思ったら、過食が出てくることもあります。実際、拒食から過食へ移っていく経過や、両方を行き来する経過はめずらしくないことが知られています。

こうした揺れは、治療がうまくいっていない証拠ではありません。むしろ「どんなときに症状が動くのか」を本人と治療者が一緒に知る機会になります。症状の波を責める材料にするのではなく、回復のための情報として扱う――これが治療の基本的な姿勢です。

体重以外の「回復のものさし」

では、体重や食行動のほかに、何が回復のしるしになるのでしょうか。診察のなかで大切にされる変化には、たとえば次のようなものがあります。

考え方の変化

  • 体重や体型のことを考えている時間が、以前より短くなった
  • 食べたあとの罪悪感や不安が、前ほど強くなくなった
  • 「痩せていなければ価値がない」という考えから、少し距離を置けるようになった

生活の変化

  • 食事を人と一緒にとれる場面が増えた
  • 学校や仕事、趣味など、食べ物以外のことに使える時間と気力が増えた
  • 睡眠や生活リズムが整ってきた

人間関係の変化

  • 家族との食事をめぐる衝突が減った
  • つらいときに、症状で対処するのではなく、人に話せることが増えた
  • 「よく思われるため」ではない、安心できる人付き合いができてきた

体重が同じでも、こうした面が変わってきていれば、回復は確かに進んでいます。逆に、体重の数字だけが変わっても、体型へのとらわれや自分を追い詰める考え方がそのままだと、症状がぶり返しやすいことが専門書でも指摘されています。数字に表れない変化こそ、長い目で見た回復を支える部分なのです。

再発は「失敗」ではない

回復の途中で症状がぶり返すこと(再発・再燃)は、摂食障害ではよくあることです。ここで大切なのは、再発を「今までの努力が無駄になった」「自分は治らない」というサインとして受け取らないことです。

一度回復に向かった経験は、消えてなくなりません。症状が戻ってきたとしても、「前はどうやって持ち直したか」「今回は何がきっかけだったか」という手がかりを、以前より多く持った状態で再スタートできます。

また、症状を力ずくで止めようとすることが、かえって悪循環を深める場合があることも知られています。たとえば過食を「意志の力で今すぐやめよう」と強く抑え込むほど、反動が大きくなることがあります。再発したときも同じで、慌てて症状だけを消そうとするより、「最近、無理が重なっていなかったか」「つらい気持ちを一人で抱えていなかったか」と、症状の手前にあるものへ目を向けるほうが、結果として早い立て直しにつながります。

ぶり返しに気づいたら、隠さずに主治医へ伝えてください。早く伝えるほど、小さな波のうちに対処できます。

家族にできること

ご家族は、本人の食事量や体重が気になって、つい確認したり注意したりしたくなるものです。けれども、食べる・食べないをめぐる直接のやりとりは衝突になりやすく、本人を追い詰めてしまうことがあります。

ご家族に持っていていただきたい視点は、次のようなものです。

  • 回復は行きつ戻りつで進むものだと知っておく(一喜一憂しすぎない)
  • 症状を責めたり、本人の要求にすべて応じたりするのではなく、「できること・できないこと」を家族として一貫して伝える
  • 食事や体型以外の話題・時間を大切にする
  • ご家族自身が疲れ切ってしまわないよう、自分の生活も守る

専門書でも、家族が本人の症状にすべて巻き込まれるのではなく、責めない形で一貫した関わりを保つことが、家族支援の柱として挙げられています。

当院での実際

当院では、予約はWEB(デジスマ)でお取りいただき、初診の前にWEB問診にお答えいただいています。初診の所要時間は問診を含めて30分程度が目安です。初診では、服用中の市販薬やサプリメントも確認しています。

通院の頻度は、2週間に一度が基本です。摂食障害の回復は時間をかけて進むものなので、定期的な診察のなかで、食事や体調だけでなく、生活や気持ちの変化も一緒に確認していきます。

なお、ご家族のみの相談はお受けしていません。ご本人が受診に同意されたうえでの同席は可能です。ご本人が受診できない場合は、公的相談先または受診予定の医療機関へお問い合わせください。

また、低体重が進んでいる、嘔吐や下剤の使用が頻回にあるなど、からだの危険が心配される状態では、入院設備のある医療機関での治療が優先されることがあります。迷う場合の考え方は、拒食で受診を考える目安の記事も参考にしてください。

まとめ

摂食障害の回復は、一直線ではなく、行きつ戻りつしながら進みます。治療のゴールは体重や食行動の改善だけでなく、体型へのとらわれからの解放、生活の立て直し、安心できる人間関係といった、数字に表れない部分の回復までを含みます。

途中で症状がぶり返しても、それは失敗ではなく、回復の道のりでよくある一場面です。手がかりを持って立て直せるよう、早めに主治医へ伝えてください。

からだの危険信号については体重以外に現れるからだのサインを、過食にお悩みの方は過食がやめられないときの記事もあわせてご覧ください。つらさをひとりで抱え込まず、まずはご相談いただければと思います。

※ 強い胸の痛みや失神、意識がもうろうとするなど、からだの緊急事態が疑われるときは、ためらわず救急(119)を利用してください。通院中の方は、症状の変化を主治医にご相談ください。


参考にした書籍(要約・再構成。原文の転載ではありません):

  • 精神科臨床ニューアプローチ5 パーソナリティ障害・摂食障害
  • 今日の精神科治療ハンドブック 2021年版

よくある質問

摂食障害は治る病気なのでしょうか。

時間はかかることが多いものの、治療によって回復していく病気です。回復のペースや道のりは人それぞれで、良くなったり揺り戻したりを繰り返しながら少しずつ進むのが一般的です。うまくいかない時期があっても、それで治療が振り出しに戻るわけではありません。

体重が戻れば治ったといえますか。

体重や食行動の改善は回復の大切な一部ですが、それだけで治ったとは判断しません。体重や体型へのとらわれ、自分への評価の仕方、生活の立て直し、人との関わりといった心の面・生活の面の回復が伴ってはじめて、安定した回復といえると考えられています。

一度良くなったのに、また過食や拒食が出てきました。失敗でしょうか。

失敗ではありません。回復の途中で症状がぶり返すことはめずらしくなく、多くの場合、回復の過程の一部です。ぶり返したときは「何がきっかけだったか」を知る手がかりが得られるため、早めに主治医へ伝えることが次の一歩につながります。

治療にはどれくらいの期間がかかりますか。

症状の内容や経過によって大きく異なるため、一律には言えません。数か月で落ち着く方もいれば、年単位でゆっくり回復していく方もいます。大切なのは期間の長さそのものではなく、その方のペースで治療を続けられることです。見通しは診察のなかで主治医とご相談ください。

家族は回復のために何ができますか。

食べる量を監視したり無理に食べさせたりするより、本人を責めずに治療の継続を支えることが助けになります。当院ではご家族のみの相談はお受けしていませんが、ご本人が受診に同意されたうえでの同席は可能です。ご本人が受診できない場合は、公的相談先や受診予定の医療機関にお問い合わせください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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