福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
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「抗うつ薬を飲み始めてから、性欲がなくなった気がする。でも、こんなことを診察で言うのは恥ずかしい」「薬のせいなのか、病気のせいなのかもわからない」――そう感じながら、誰にも言えずにいる方は少なくありません。

性機能への影響は、抗うつ薬、とくにSSRIやSNRIと呼ばれる薬でよく知られた副作用のひとつです。よくあることなのに、話題が話題だけに診察で口にされにくく、患者さんが一人で抱え込みやすい――そういう性質を持った副作用でもあります。

この記事では、抗うつ薬が性機能にどのような影響を及ぼしうるのか、なぜ自己判断で薬をやめてはいけないのか、言いにくい話をどう医師に切り出せばよいか、そして対応にはどんな選択肢があるのかを、医療情報として淡々と整理してお伝えします。抗うつ薬と体重増加の記事の姉妹編として、「言いにくい副作用」をテーマにした記事です。

抗うつ薬で起こりうる性機能への影響

抗うつ薬の服用中に報告される性機能への影響には、次のようなものがあります。

  • 性欲(性的関心)の低下 ――そもそも性的なことに関心が向かなくなる
  • オーガズム(絶頂)の障害 ――達しにくくなる、達するまでに時間がかかる、達しても感覚が乏しい
  • 勃起の障害(男性の場合)――勃起しにくい、維持しにくい
  • 腟の潤いの低下や性交時の不快感(女性の場合)

これらは、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)で比較的よく知られています。セロトニンに作用する薬の性質上、気分の改善という本来の効果と、性機能への影響とが同じ仕組みの表と裏のような関係で起こると考えられています。

大切な前提がふたつあります。

ひとつは、起こりやすさは薬の種類によって差があり、個人差も大きいということです。同じ薬でもまったく影響を感じない方もいれば、はっきり変化を感じる方もいます。「抗うつ薬=必ず性機能が落ちる」わけではありません。

もうひとつは、うつ病や不安症そのものでも性欲は低下するということです。気分の落ち込みや意欲の低下の一部として、性的な関心が薄れることはうつ症状としてよくみられます。「薬のせいか、症状のせいか」は、飲み始めた時期と変化の時期の関係や、他の症状の経過とあわせて判断していくもので、ご自身で見分けるのは簡単ではありません。だからこそ、変化に気づいたら医師と共有することが出発点になります。

自己判断で薬をやめてはいけない理由

性機能への影響に気づいたとき、いちばん避けていただきたいのが「黙って薬をやめる」ことです。理由は3つあります。

第一に、急な中断による不調が出ることがあります。 抗うつ薬の一部では、急にやめるとめまい・しびれ感・そわそわ感などの不調(中断症候群)が出ることが知られています。これは依存とは別の現象で、医師と計画的に減らせば避けやすいものですが、自己判断の中断で起こりやすくなります。

第二に、治療途中の中断は症状のぶり返しにつながります。 抗うつ薬は、症状が良くなったあとも再発予防のために続ける期間が大切とされています。性機能への影響を理由に治療自体が中断してしまうと、せっかく回復に向かっていたうつ症状が戻り、結果として回復までの道のりが長くなることがあります。

第三に、黙ってやめると、医師が対応する機会そのものが失われます。 後述するように、性機能への影響には対応の選択肢があります。しかし医師が知らなければ、何も検討できません。「副作用がつらいから飲むのをやめた」というかたちで治療が途切れるのは、患者さんにとっても医師にとっても、いちばんもったいない経過です。

薬を飲み続けること自体に迷いがある方は、薬を飲みたくない気持ちについての記事もあわせてご覧ください。飲みたくない気持ちは、それ自体が診察で扱うべき大切なテーマです。

言いにくい話を、どう切り出すか

性に関する話題を診察で持ち出すことに、抵抗を感じるのは自然なことです。ただ、医師の側から見ると、性機能への影響は抗うつ薬の診療で普通に想定している副作用のひとつであり、血圧や睡眠の話と同じ「診療上の情報」として受け取ります。詳細を語る必要はまったくなく、短い一言で十分です。

切り出し方の例文

  • 「薬を始めてから、性欲が落ちた気がします」
  • 「性生活の面で、気になる変化があります」
  • 「言いにくいのですが、性機能に関する副作用かもしれない症状があります」
  • 「パートナーとの関係で、薬の影響かもしれないと思っていることがあります」

これだけで、医師には十分に伝わります。そこから先は、医師のほうから必要なことを確認していきますので、うまく説明しようと準備する必要はありません。

口に出しにくければ、書いて渡す方法もあります。 「性機能のことで相談があります」とメモに書いて診察時に渡す、問診票の自由記載欄に書く、といった方法でも構いません。伝わりさえすれば、手段は何でもよいのです。

また、「これは薬のせいですか」と原因を特定してから相談しようとしなくて大丈夫です。原因の見立ては医師の仕事です。「いつ頃から」「どんな変化か」だけ伝えていただければ、あとは一緒に考えていけます。薬が効いているのかどうか自体に迷いがある方は、薬が効いているかわからないときの記事も参考になるはずです。

対応にはどんな選択肢があるか

性機能への影響を医師と共有したあと、どのような対応がありうるのか、概観をお伝えします。どれを選ぶかは、症状の安定度・治療の段階・影響の程度をふまえた医師の個別の判断であり、ここに挙げるのはあくまで「こういう考え方がある」という見取り図です。

経過観察という選択肢

影響が軽く、治療の大事な時期(症状の改善途上や、良くなって間もない時期)であれば、いまは薬を優先して続け、経過を見るという判断がありえます。飲み始めの時期の副作用が、体が慣れるにつれて軽くなっていくこともあります。

薬の調整を検討するという選択肢

影響が生活の質に大きく響いている場合、症状の安定度によっては、薬の量の見直しや、性機能への影響が比較的少ないとされる薬への変更を検討することがあります。ただし、薬の調整には症状がぶり返すリスクがともなうため、「いま調整して大丈夫な時期か」の見極めが重要です。調整するとしても、医師の管理のもとで段階的に行います。

治療の段階に応じて見直すという選択肢

いまは薬を続ける判断でも、症状が安定して薬を減らしていく段階になれば、影響も軽くなっていくことが期待できます。「ずっとこのままなのか」ではなく、「治療のどの段階で、どう見直していくか」という時間軸で考えられると、続けやすくなります。

いずれの場合も、共通するのは「共有すれば、検討できる」ということです。伝えていただかない限り、どの選択肢も検討の俎上に載りません。

パートナーとの共有について

性機能の変化は、パートナーとの関係に影響しうるテーマでもあります。可能であれば、「薬の副作用として起こりうる変化で、治療の経過とともに見直していけるものだ」ということをパートナーと共有できると、「気持ちが冷めたのではないか」といったすれ違いを防ぎやすくなります。どう伝えるか迷う場合は、それ自体を診察で相談していただいて構いません。

当院での実際

当院では、通院の頻度は2週間に一度を基本としています。抗うつ薬の効果や副作用は数週間の単位で動いていくため、2週間ごとの診察でこまめに変化を拾い、性機能への影響を含めた副作用の相談にも早めに対応できるようにしています。言いにくい話ほど、「次の診察で言おう」と思っているうちに機会を逃しがちです。診察の間隔が短いことを、切り出すきっかけとして使っていただければと思います。

また、当院の初診は問診を含めて30分程度を目安にお時間を取っており、服用中の市販薬やサプリメントも含めて確認しています。すでに他院で抗うつ薬を処方されていて、性機能への影響が気になっている方も、初診のなかでこれまでの経過とあわせてお聞かせください。

まとめ――言いにくい副作用こそ、共有が出発点

抗うつ薬、とくにSSRIやSNRIでは、性欲の低下やオーガズムの障害など、性機能への影響が起こることがあります。起こりやすさは薬の種類と個人差によって大きく異なり、うつ症状そのものによる性欲低下との見分けも簡単ではありません。

いちばん避けたいのは、誰にも言えないまま自己判断で薬をやめてしまうことです。急な中断による不調や症状のぶり返しのリスクがあるだけでなく、経過観察・薬の調整といった対応の選択肢を検討する機会そのものが失われてしまいます。「性欲が落ちた気がします」の一言、あるいはメモの一枚で十分です。医師は診療上の情報として淡々と受け取ります。

すでに通院中の方は、まず主治医にご相談ください。命に関わる緊急の場合は、ためらわず救急(119)を利用してください。

当院は福岡県春日市の精神科・心療内科です。「副作用のことを相談しながら治療を進めたい」という方にも、この記事が診察で切り出すきっかけになれば幸いです。受診をご希望の方は、WEB予約からご都合のよい日時をお選びください。

よくある質問

抗うつ薬を飲むと、必ず性機能に影響が出ますか?

必ず出るわけではありません。性機能への影響が起こりやすいかどうかは薬の種類によって差があり、同じ薬でも個人差が大きいことが知られています。まったく変化を感じない方もいれば、性欲の低下やオーガズムの得にくさを感じる方もいます。また、うつ病や不安症そのものの症状として性欲が低下することも多く、薬の影響なのか症状の影響なのかは経過を見ながら判断していきます。気になる変化があれば、診察でお伝えください。

性機能の副作用がつらいので、薬を自分でやめてもいいですか?

自己判断での中断はおすすめできません。抗うつ薬を急にやめると、めまいやしびれ感などの不調(中断症候群)が出ることがあるほか、治療途中で中断するとうつ症状がぶり返すリスクがあります。性機能への影響は、医師に伝えていただければ、経過観察、量や薬の種類の調整など、治療を続けながら対応を検討できる副作用です。やめたいと感じたときこそ、その気持ちごと診察でご相談ください。

性に関する悩みを診察で話すのが恥ずかしいです。どう伝えればいいですか?

詳しく説明する必要はなく、短い一言で十分です。「薬を始めてから、性欲が落ちた気がします」「性生活面で気になる変化があります」といった伝え方で、医師には十分に意図が伝わります。口頭で言いにくければ、メモに書いて渡す方法もあります。性機能への影響は抗うつ薬でよく知られた副作用のひとつで、医師は診療上の情報として淡々と受け取りますので、恥ずかしい話をしたと感じる必要はありません。

抗うつ薬による性機能への影響は、薬をやめれば戻りますか?

多くの場合、薬の減量・変更・終了にともなって改善していくとされています。ただし回復の経過には個人差があり、断定はできません。大切なのは、影響が出ているあいだに自己判断で薬を中断するのではなく、医師と共有しながら、治療の段階に応じて対応を検討していくことです。薬をいつまで続けるか、どう減らすかは、症状の安定度をふまえた個別の判断になりますので、診察でご相談ください。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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