福岡県春日市須玖北4丁目34 2階
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認知症のイメージ画像

認知症は、脳の病気や障害などさまざまな原因によって認知機能(記憶する・考える・判断する力)が低下し、日常生活に支障が出てくる状態の総称です。特定のひとつの病気の名前ではなく、アルツハイマー型認知症をはじめ、いくつもの原因疾患が背景にあります。

決してめずらしい状態ではありません。わが国では、65歳以上の約5人に1人が認知症になるとの推計もあり(2025年時点の推計)、誰にとっても身近なテーマになっています。また、65歳未満で発症する「若年性認知症」の方も全国に約3.6万人いると推計されています。

「認知症は治らないから、受診しても仕方ない」と思われがちですが、そうではありません。早く気づくことで、進行をゆるやかにする治療を始められ、治療で回復しうる別の原因が見つかることもあり、介護保険などの支えを早めに整えられます。もの忘れが気になったとき、ご家族の様子が変わったと感じたときが、相談のタイミングです。

こんなサイン・症状はありませんか

ご本人よりも先に、ご家族や周囲の方が変化に気づくことが多いのが認知症の特徴です。次のようなサインに心あたりはないでしょうか。

  • 同じことを何度も言ったり、聞いたりする
  • 物の置き場所を忘れ、探し物をしている時間が増えた
  • 今日の日付や曜日、いま居る場所があいまいになることがある
  • 料理や買い物など、慣れていたはずの家事の段取りが悪くなった
  • 財布や通帳をしまい忘れて、「誰かに盗られた」と口にすることがある
  • 趣味や外出への興味が薄れ、家に閉じこもりがちになった
  • 怒りっぽくなった、疑り深くなったなど、人柄が変わったように感じる
  • 運転や金銭管理などで、小さな失敗が目立つようになった

これらにあてはまるからといって、直ちに認知症と診断されるわけではありません。加齢による自然なもの忘れや、うつ病など別の状態でも似たサインが現れます。ただ、複数あてはまる状態が続いている場合や、以前と比べた変化が大きい場合は、一度検査を受けて確認しておくと安心です。

症状の詳しい説明

認知症の症状は、大きく「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」の2つに分けて理解すると整理しやすくなります。

中核症状(認知機能の低下)

中核症状は、脳の障害そのものから生じる症状で、多くの場合、年単位でゆっくり進行します。

  • 記憶障害:新しいことを覚えられない、少し前の出来事を思い出せない
  • 見当識障害:日付・季節・場所・人との関係がわからなくなる
  • 判断力・実行機能の低下:段取りを立てて物事を進めることが難しくなる、複雑な判断ができなくなる
  • 言葉の障害:物の名前が出てこない、会話が続きにくくなる

進行にともなって、着替えや入浴など日常生活の動作にも支援が必要になっていきます。

行動・心理症状(BPSD)

行動・心理症状は、中核症状を土台に、体調・環境・周囲との関わり方などが影響して現れる、心や行動の症状です。かつて「周辺症状」と呼ばれていたものにあたります。

  • 不安、気分の落ち込み
  • 「物を盗られた」という妄想(もの盗られ妄想)
  • 実際にはないものが見える幻視
  • 怒りっぽさ、興奮
  • 外に出て戻れなくなる(いわゆる徘徊)
  • 昼夜逆転、夜間の不眠

行動・心理症状は、ご家族の介護負担に直結しやすい一方で、環境の調整や関わり方の工夫、薬の力を借りることで和らぐ余地が大きい症状でもあります。「性格が変わってしまった」と感じられる変化の多くは、病気の症状として理解し、対応を工夫できるものです。

軽度認知障害(MCI)

正常な加齢と認知症の中間にあたる状態を「軽度認知障害(MCI)」と呼びます。記憶などの機能は低下しているものの、日常生活はおおむね自立できている段階です。MCIの方のうち、5年以内におよそ半数が認知症に移行するとの報告がある一方、生活習慣の改善などによって回復する方もいるとされています。この段階で気づき、対策を始められることには大きな意味があります。

原因・メカニズム

認知症は状態の名前であり、その背景にはいくつかの原因疾患があります。代表的なものをご紹介します。

アルツハイマー型認知症

最も多いタイプです。脳に特殊なたんぱく質(アミロイドβなど)がたまり、神経細胞が徐々に失われていくことが関係していると考えられています(発症の詳しいメカニズムは研究が続いている段階です)。もの忘れから始まり、ゆっくりと進行することが多いのが特徴です。

血管性認知症

脳梗塞や脳出血など、脳の血管の障害によって起こる認知症です。障害された部位によって症状が異なり、「できることとできないことの差が大きい(まだら認知症)」、発作のたびに段階的に進む、といった特徴がみられることがあります。高血圧・糖尿病などの生活習慣病の管理が、進行予防の鍵になります。

レビー小体型認知症

実際にはない人や小動物が見える「幻視」、手足のふるえや動作の緩慢さ(パーキンソン症状)、調子の良い時と悪い時の波が大きいことなどが特徴です。眠っている間に夢の内容に合わせて大声を出したり体が動いたりする「レム睡眠行動障害」が、発症に先立って現れることも知られています(詳しくは睡眠中に起こる困りごとについての記事をご覧ください)。

前頭側頭型認知症

人格や行動の変化、言葉の障害が前面に出るタイプです。もの忘れよりも、「万引きなどルールを守れなくなる」「同じ行動を繰り返す」「身だしなみに無頓着になる」といった変化が目立つことがあります。

治療によって回復しうる原因

甲状腺機能の低下、ビタミンの欠乏、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫(頭部打撲後にゆっくり血がたまる状態)、薬の副作用や飲み合わせなどによっても、認知症とよく似た症状が現れます。これらは原因への治療で回復が期待できるため、診断の際に必ず確認します。

診断と、似た状態との違い

診断の流れ

当院では、次のような情報を組み合わせて総合的に判断します。国際的な診断基準(DSM-5では神経認知障害群として整理されています)も参考に、生活への支障の程度を含めて評価します。

  1. 問診:いつ頃から、どのような変化があったか。経過の順番は診断の重要な手がかりになるため、ご本人だけでなくご家族からもお話をうかがえると助けになります。気づいた出来事を簡単なメモにまとめてお持ちいただくとスムーズです。
  2. 認知機能検査:長谷川式認知症スケールやMMSE(ミニメンタルステート検査)といった質問形式の検査で、記憶や見当識の状態を確認します。
  3. 身体の検査:採血で甲状腺機能やビタミンなどを確認し、必要に応じて脳の画像検査(CT・MRIなど)で脳の萎縮や血管の障害、水頭症などの有無を調べます。

加齢によるもの忘れとの違い

年をとれば、誰でも多少のもの忘れは増えます。目安として、加齢によるもの忘れは「朝ごはんに何を食べたか思い出せない」など体験の一部を忘れるもので、ヒントがあれば思い出せ、忘れっぽさの自覚があります。認知症のもの忘れは「朝ごはんを食べたこと自体を忘れる」など体験そのものが抜け落ち、指摘されても思い出せず、本人の自覚が薄れやすい傾向があるとされます。ただし実際の見分けは簡単ではないため、迷ったら検査で確認するのが確実です。

老年期のうつ病との違い

高齢の方のうつ病では、意欲や集中力の低下によって、記憶力が落ちたように見えることがあります(うつ病性仮性認知症と呼ばれます)。認知症との見分けが難しいこともありますが、うつ病では本人がもの忘れのつらさを強く自覚して訴える傾向がある、比較的はっきりした時期から始まる、といった点が手がかりになります。詳しくは高齢者のうつ病についての記事うつ病の解説ページをご覧ください。

せん妄との違い

せん妄は、体の病気・手術・薬・環境の変化などをきっかけに、意識のはたらきが急に不安定になる状態です。数時間〜数日の単位で急に症状が現れ、日内で変動が大きい点が、年単位でゆっくり進む認知症との違いです。せん妄は原因への対処で回復が見込めるため、区別が重要です。

治療

認知症の治療は、「中核症状の進行をゆるやかにする治療」「行動・心理症状を和らげる治療」「介護サービスなど環境面の支援」の3つを組み合わせて進めます。

薬物療法

アルツハイマー型認知症などでは、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)やメマンチンといった抗認知症薬が使われます。これらは認知症を治す薬ではありませんが、進行をゆるやかにする効果が期待でき、早期から継続することが望ましいとされています。近年は、早期のアルツハイマー型認知症を対象とした新しいタイプの薬も登場していますが、対象となる方の条件や実施できる医療機関が限られており、該当しそうな場合は専門医療機関をご自身でお探しいただくことになりますが、紹介状(診療情報提供書)は必要に応じて作成します。

不安・妄想・興奮・不眠などの行動・心理症状に対しては、まず環境調整や関わり方の工夫を優先し、それでも改善が難しい場合に、漢方薬や少量の抗精神病薬、睡眠を整える薬などを慎重に検討します。高齢の方は薬の影響を受けやすいため、少量から始め、様子を見ながら調整します。薬について不安があるときも、自己判断で中止せず、主治医にご相談ください。

非薬物療法・リハビリテーション

薬とならんで重要なのが、薬以外のアプローチです。

  • 認知リハビリテーション:頭を使う活動や作業を通じて、残っている機能を活かします(デイサービスやデイケアで取り組めます)
  • 回想法・音楽療法など:昔の思い出を語り合ったり、なじみの音楽に触れたりすることで、気持ちの安定が期待できます
  • 本人の視点を尊重するケア:ご本人の気持ちや歩んできた人生を尊重して関わる考え方(パーソンセンタードケア)が、行動・心理症状の緩和に役立つとされています

生活・セルフケア

生活面の工夫も、進行をゆるやかにするうえで大切です。散歩などの運動の習慣、バランスのよい食事、良質な睡眠、人との交流や役割のある暮らし、そして高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病の治療が、認知症の進行予防に役立つ可能性があるとされています。いずれも「完璧に」ではなく、できる範囲で無理なく続けることが大切です。何をどこまでやるかは、主治医と相談しながら決めていきましょう。

経過と、進行にそなえる

認知症の多くは、年単位でゆっくり進行します。初期はもの忘れが中心でも生活はおおむね自立でき、中期には日常の動作に手助けが必要になり、後期には全般的な介護が必要になる、というのが大まかな経過です。ただし進み方には個人差が大きく、原因疾患や体調、環境によっても変わります。

大切なのは、進行を過度に恐れることではなく、早めにそなえることです。症状が軽いうちであれば、今後の暮らしや医療・お金についてご本人の希望を確認しておくことができます。介護保険の申請やかかりつけ医との連携も、早く始めるほど選択肢が広がります。体調の変化(脱水・感染症・薬の変更など)で症状が急に悪化したように見えることもあるため、「急な変化」のときは早めに主治医にご相談ください。

ご家族ができること

認知症の療養は、ご本人へのケアとご家族の負担軽減の両方が柱になります。

関わり方のヒント

  • 間違いを正面から否定しない:記憶の食い違いを議論で正そうとすると、ご本人の不安や混乱が強まりがちです。気持ちのほうを受けとめる関わりが、結果的に症状を穏やかにすることが多いです
  • できることは続けてもらう:失敗を防ごうと先回りしすぎず、役割や習慣を残すことが、機能の維持と自尊心につながります
  • 生活リズムと環境を整える:日中の活動と夜の睡眠のメリハリ、カレンダーや時計を見やすい場所に置くなどの工夫が助けになります

ご家族の変化に最初に気づくのは、毎日そばにいる方です。気づいたことをメモしておき、受診時に伝えていただくことが、診断と治療の大きな助けになります(ご家族が変化に気づいたときの考え方についての記事も参考になります)。

介護保険と相談先

認知症のケアでは、介護保険サービスの活用がとても重要です。おおまかな流れは次のとおりです。

  1. お住まいの市区町村の窓口や地域包括支援センターで要介護認定を申請する
  2. 認定調査と、かかりつけ医の意見書(当院でも作成できます)をもとに要介護度が決まる
  3. ケアマネジャーと相談してケアプランを作り、デイサービスやショートステイなどを利用する

デイサービスなどの利用は、ご本人の生活リズムを整えて症状の安定につながると同時に、ご家族が休む時間を確保するうえでも役立ちます。

なお、65歳未満で発症する若年性認知症の場合は、精神科通院の医療費負担を軽減する自立支援医療制度や、お仕事を休む際の傷病手当金などの制度が利用できる場合があります。

ご家族自身のケアを忘れずに

介護を続けるご家族が、疲れをためて心身の調子を崩してしまうことは少なくありません。介護は一人で背負い込まず、制度やサービス、周囲の手を借りながら分かち合っていくものです。ご家族ご自身の不眠や気分の落ち込みについても、遠慮なくご相談ください。

受診の目安と当院での診かた

次のようなときは、受診をご検討ください。

  • もの忘れや探し物が増え、生活に小さな支障が出はじめた
  • 日付や場所があいまいになる、慣れた家事の段取りが悪くなった
  • 怒りっぽさ・疑い深さ・閉じこもりなど、人柄が変わったように感じる
  • ご家族として対応に迷い、介護の負担を感じている

当院では、問診と長谷川式などの認知機能検査、採血などを組み合わせて状態を確認し、脳の画像検査や専門的な治療が必要な場合は、適切な医療機関と連携しながら診療を進めます。診断の後も、進行をゆるやかにする治療、行動・心理症状への対応、介護保険の意見書の作成やご家族のご相談まで、継続してサポートします。

当院では家族だけでの相談は受け付けていません。ご本人が受診できる場合は、ご本人の同意のもとで家族が同席できます。受診の流れや持ち物については初めての方へをご覧ください。なお、転倒によるけがや意識がもうろうとするなど、緊急性が高いと思われるときは、ためらわず救急(119)をご利用ください。すでに通院中の方は、主治医への連絡を優先してください。

参考文献

よくある質問

年相応のもの忘れと認知症は、どこが違うのでしょうか。

加齢によるもの忘れは「体験の一部」を忘れ、ヒントがあれば思い出せることが多いのに対し、認知症では「体験そのもの」を忘れ、忘れた自覚が薄れやすいという違いがあるとされます。ただし見分けは簡単ではないため、気になる場合は検査を受けて確認することをおすすめします。

本人が受診を嫌がります。家族だけで相談してもよいですか。

当院では家族だけでの相談は受け付けていません。患者様ご本人が受診できる場合に、ご本人の同意のもとで家族が同席することは可能です。本人が受診できない場合の進め方は、地域の公的な相談先へご相談ください。

認知症は治りますか。

脳の変性による認知症を完全に治すことは現時点では難しいとされていますが、薬や関わり方の工夫で進行をゆるやかにし、不安や妄想などのつらい症状を和らげることは期待できます。また、甲状腺の異常や薬の影響など、治療によって回復しうる原因が見つかることもあるため、早めの受診が大切です。

もの忘れが気になるとき、何科を受診すればよいですか。

精神科・心療内科のほか、もの忘れ外来や神経内科、かかりつけの内科でも相談できます。当院でも、もの忘れのご相談を受け付けており、問診や認知機能検査などで状態を確認したうえで、必要に応じて専門医療機関と連携します。

認知症は予防できますか。

確実に防ぐ方法はまだ確立されていませんが、運動の習慣、バランスのよい食事、良質な睡眠、人との交流、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の治療が、発症や進行をゆるやかにする可能性があるとされています。できる範囲で生活を整えることが役立ちます。

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執筆・監修

精神保健指定医 野口晋宏

春日メンタルクリニック院長。精神科・心療内科の診療経験をもとに、受診前の不安や制度の疑問を整理しやすい情報提供を心がけています。

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