「薬を飲んでいる間はお酒はダメですよ」――精神科で処方を受けたとき、多くの方がこう言われます。頭では分かっていても、晩酌が長年の習慣になっている方、職場の飲み会が避けられない方にとっては、「本当に一滴もダメなのか」「みんな守っているのか」と、もやもやが残るテーマではないでしょうか。
そして実際には、「ダメと言われたから」と受診時には黙ったまま、飲酒を続けている方も少なくありません。しかし、主治医が飲酒の事実を知らないまま処方を続けることこそが、いちばん危険な状態です。
この記事では、なぜ精神科の薬とお酒の併用が勧められないのか、アルコール自体が心の不調に与える影響、そして「建前」ではない現実的な付き合い方について、福岡県春日市の精神科・心療内科の視点からお伝えします。
なぜ併用が勧められないのか――作用が「足し算」になるから
精神科で使われる薬の多くは、脳の神経の働きに作用します。抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬、気分安定薬、抗精神病薬――種類はさまざまですが、その多くに、程度の差はあれ脳の活動を鎮める方向の作用(中枢抑制作用)が含まれています。
アルコールもまた、脳の働きを抑える物質です。酔うとろれつが回らなくなったり、判断が鈍ったり、眠くなったりするのは、アルコールが脳を抑制しているためです。
問題は、この2つを同時に体に入れると、抑制の作用が重なり合って、想定以上に強く出てしまうことです。具体的には、次のようなことが起こりやすくなるとされています。
- 強い眠気・鎮静:普段の薬では問題ない量でも、お酒が加わると急激な眠気に襲われることがあります
- ふらつき・転倒:足元がおぼつかなくなり、転倒や骨折、駅のホームなどでの事故につながる危険があります
- 記憶障害:飲んだあとの記憶がすっぽり抜ける、覚えていない行動をしている、ということが起こりえます
- 判断力の低下:普段ならしないような危険な行動や、衝動的な行動が出やすくなります
- 呼吸への影響:量や組み合わせによっては、呼吸が浅くなるなど命に関わる状態になることもあります
また、アルコールは肝臓で分解されますが、多くの薬も同じ肝臓で代謝されます。飲酒によって薬の分解が遅れたり、逆に早まったりして、薬の効き方そのものが不安定になることも知られています。せっかく調整した薬が効きすぎたり、効かなくなったりするのです。
特に注意したい組み合わせ――ベンゾジアゼピン系・睡眠薬
なかでも危険性が高いとされるのが、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬・睡眠薬とアルコールの組み合わせです。
ベンゾジアゼピン系の薬は、脳内のGABAという「ブレーキ役」の神経伝達物質の働きを強めることで、不安を和らげたり眠りを助けたりします。実はアルコールも、同じGABAの仕組みに作用します。つまりこの2つは、脳の同じブレーキを、同時に、別々の方向から踏み込むような関係にあるのです。
その結果、それぞれ単独では問題にならない量でも、組み合わさると過度の鎮静、記憶が抜ける(健忘)、無意識のうちの行動、転倒、呼吸抑制といった事態が起こりやすくなります。「睡眠薬を飲んでも眠れないから、お酒を足した」というのは、特に避けていただきたいパターンです。
怖いのは、こうした事故が「いつもどおりの量」で起こりうることです。毎晩の晩酌といつもの睡眠薬、どちらも単独では長年問題がなかったのに、たまたま体調が悪かった日、たまたま酒量が少し多かった日に、記憶が抜けたり転倒したりする――そういう形で表面化することがあります。「今まで大丈夫だったから」は、残念ながら安全の保証にはなりません。
新しいタイプの睡眠薬を含め、眠りに関わる薬全般で、アルコールとの併用は勧められていません。「この薬なら大丈夫」と自己判断せず、飲酒との関係は必ず主治医に確認してください。
そもそもアルコール自体が、睡眠と気分を悪化させます
飲み合わせの危険とは別に、もう一つ知っておいていただきたいことがあります。アルコールそのものが、精神科で治療している症状を悪化させる方向に働くという事実です。
睡眠への影響はよく知られています。お酒を飲むと寝つきは良くなったように感じますが、アルコールが分解される過程で眠りは浅くなり、夜中や早朝に目が覚めやすくなります。しかも寝酒は体が慣れやすく、同じ量では眠れなくなって酒量が増えていく――という悪循環に陥りがちです。詳しくは寝酒はなぜ不眠を悪化させる?お酒と睡眠の関係で解説しています。
気分への影響も見逃せません。アルコールは飲んでいる間こそ気分を紛らわせてくれますが、切れる過程で不安や落ち込みをむしろ強めることが知られています。「つらいから飲む→翌日さらに落ち込む→また飲む」という循環は、うつや不安の治療の足を引っ張ります。治療をしているのに良くならない背景に、実は毎晩の飲酒があった、というケースは珍しくありません。
つまり、薬とお酒の問題は「飲み合わせが危ないかどうか」だけではなく、お酒が治療そのものの効果を打ち消してしまいかねない、という問題でもあるのです。
「絶対ダメ」と言われるほど、言い出せなくなる問題
ここまで読むと「やはりお酒は絶対にダメなのか」と感じるかもしれません。医学的な原則としては、治療中の飲酒は勧められません。それは事実です。
ただ、私たちが診察室で本当に心配しているのは、「ダメと言われたから、飲んでいることを言えなくなる」ことです。
- 飲酒を隠したまま薬が処方され、主治医が知らないところで危険な組み合わせが生じる
- 「怒られるから」と受診自体から足が遠のく
- 眠れない・不安が取れない原因が飲酒にあるのに、薬だけがどんどん増えていく
こうした事態は、正直に話していただければ避けられたはずのものです。
飲酒の習慣は、長年の生活に根ざしたものです。「明日からゼロに」が簡単でないことは、医療者もよく分かっています。だからこそ、飲んでいるなら飲んでいると、量や頻度も含めて正直に伝えていただくことが、安全へのいちばんの近道です。その情報があってはじめて、主治医は薬の種類や飲み方を、その方の実際の生活に合わせて考えることができます。
伝え方に決まりはありません。「週に何日くらい、ビールなら何本くらい」といった、ふだんの実際に近い姿をそのまま話していただければ十分です。少なめに申告したくなる気持ちは自然なものですが、処方の判断材料になる情報ですので、できるだけ実際の量でお伝えください。
当院でも、飲酒の話をして責められることはありません。事実を共有したうえで、どうするのが現実的かを診察のなかで一緒に考えていきます。
飲み会が避けられない日は――自己判断ではなく、事前の相談を
「今週、断れない飲み会がある」「冠婚葬祭で乾杯だけは避けられない」――治療中でも、こうした場面は現実に訪れます。
このとき避けていただきたいのが、自己判断での対処です。「薬を今日だけ抜けばいいだろう」「飲んでから時間をあければ大丈夫だろう」と自分で決めてしまうのは、2つの意味で危険です。
1つは、「何時間あければ安全」という一律の基準は存在しないからです。薬の種類や量、体質、肝臓の状態、その日の体調によって、影響の残り方は大きく変わります。ネットで見かける目安が、あなたの薬とあなたの体に当てはまる保証はありません。
もう1つは、自己判断で薬を抜くこと自体にリスクがあるからです。薬によっては、急に抜くと症状がぶり返したり、体調を崩したりすることがあります。飲み合わせを避けたつもりが、別の危険を招いてしまうのです。
避けられない飲酒の予定が分かっているなら、事前の診察で主治医に伝えて、対応を相談してください。その日の薬をどうするか、飲むとしてもどんな点に気をつけるか――処方内容とその方の状態を知っている主治医だからこそ、現実的な線を一緒に考えることができます。処方されている薬の考え方については薬についてのページもご参照ください。
お酒で薬を飲むのは、絶対に避けてください
これだけは例外なくお伝えしたいことがあります。薬をお酒で流し込んで飲むことは、絶対に避けてください。
「水を取りに行くのが面倒で、手元のビールで飲んだ」――ありがちな場面ですが、これは薬とアルコールを同時に、最も直接的な形で体に入れる行為です。作用の重なりが最も強く出やすく、記憶が抜けたまま追加で薬を飲んでしまうといった二次的な事故にもつながります。薬は必ず水またはぬるま湯で服用してください。
また、「眠れないから睡眠薬を追加し、それでもだめならお酒を足す」という夜の過ごし方も、非常に危険です。眠れない夜が続いてつらいときは、その夜の自己流の工夫ではなく、次の診察で眠れていない事実を伝えて、処方を見直してもらうことが解決への道です。
「お酒がやめられない」が心配になってきたら
薬とお酒の付き合い方を考えるなかで、「そもそも自分はお酒をコントロールできているのだろうか」と不安になる方もいます。次のようなサインに心当たりがないか、振り返ってみてください。
- 決めた量でやめられない。「今日は1杯だけ」が守れない
- 飲まない日を作ろうとしても作れない
- 家族に隠れて飲む。飲んだ量をごまかす
- 飲まないと落ち着かない、イライラする、寝つけない
- 朝や日中から飲みたくなる
- 飲酒が原因の失敗(遅刻、けが、記憶をなくす)が繰り返されている
こうしたサインが重なっている場合、アルコールへの依存が形成され始めている可能性があります。これは意志の弱さや性格の問題ではなく、脳の仕組みに関わる、治療の対象となる状態です。
そして大切なことに、治療の目標は必ずしも「一生断酒」だけではありません。近年は、まず酒量を減らすことを目指す減酒という考え方も広がっています。詳しくはアルコール依存症の治療は断酒だけじゃない 減酒という選択肢をご覧ください。「やめられないから相談できない」のではなく、やめられないからこそ相談する価値があります。
受診の目安――こんなときはご相談ください
- 精神科の薬を飲みながら、飲酒の習慣が続いている(まだ主治医に伝えていない)
- 睡眠薬や抗不安薬とお酒を一緒に飲んでしまうことがある
- 飲んだあとの記憶が抜ける、覚えのない行動をしていることがある
- 寝酒がやめられず、酒量が増えてきている
- お酒の量を自分でコントロールできなくなってきた気がする
- 飲酒をやめようとすると、手の震えや強い不安・不眠が出る
なお、薬とお酒を一緒に飲んでしまい、意識がもうろうとする・呼吸がおかしいなど明らかに様子がおかしいときは、ためらわず救急(119)を利用してください。通院中の方で判断に迷う場合は、主治医(医療機関)に連絡してください。
まとめ――正直に話せる関係が、いちばんの安全策です
精神科の薬とアルコールは、脳を抑える作用が重なり合うため、強い眠気、ふらつき、記憶障害などの危険が高まります。特にベンゾジアゼピン系の抗不安薬や睡眠薬との組み合わせは避けるべきものです。さらに、アルコール自体が睡眠を浅くし、不安や落ち込みを強めるため、飲酒は治療の効果そのものを損ないかねません。
原則として併用は勧められない――そのうえで現実的にいちばん大切なのは、飲酒の習慣を隠さず主治医に伝えることです。飲み会が避けられない日の対応も、寝酒がやめられない悩みも、自己判断ではなく診察のなかで相談してください。お酒で薬を飲むことだけは、例外なく避けてください。
当院は福岡県春日市の精神科・心療内科として、薬とお酒に関するご相談をお受けしています。「飲んでいると言ったら怒られるのでは」と心配する必要はありません。実際の生活に合った安全な治療の形を、診察のなかで一緒に考えていきましょう。WEB予約からご都合のよい日時をお選びいただけます。
よくある質問
精神科の薬を飲んでいる間は、お酒を一滴も飲んではいけないのですか?
原則として併用は勧められません。多くの精神科の薬とアルコールは、脳の働きを抑える作用が重なり合い、強い眠気やふらつき、記憶が飛ぶなどの危険が高まるためです。ただし「絶対禁止」と言われて隠れて飲むほうがかえって危険です。飲酒の習慣がある方は、その事実を主治医に正直に伝えたうえで、ご自身の薬と状態に合わせた付き合い方を相談していただくのが、いちばん安全な道です。
どうしても断れない飲み会があります。薬と時間をあければ大丈夫ですか?
「何時間あければ安全」という一律の基準はありません。薬の種類、量、体質、その日の体調によって影響は大きく変わるためです。自己判断で薬を抜いたり時間をずらしたりするのは、飲み合わせとは別のリスク(症状の悪化や中断による不調)を生むことがあります。飲み会が避けられない予定が分かっているなら、事前に主治医に伝えて対応を相談してください。
眠れないので寝酒をしてから睡眠薬を飲んでいます。よくないでしょうか?
睡眠薬とアルコールの組み合わせは、特に危険性が高いとされる組み合わせです。作用が重なって呼吸が浅くなったり、記憶がないまま行動してしまったりすることがあります。また、アルコール自体が眠りを浅くするため、寝酒は不眠をむしろ悪化させます。寝酒に頼っている場合は、それ自体が治療で扱うべきテーマですので、隠さず主治医にお伝えください。
お酒の量を自分でコントロールできなくなってきた気がします。どうすればいいですか?
飲む量や時間を自分で決められない、やめようと思ってもやめられない、隠れて飲む、飲まないとイライラする――こうしたサインは、アルコールへの依存が始まっている可能性があります。意志の弱さの問題ではなく、治療の対象となる状態です。責められることを心配せず、診察のなかでお話しください。断酒だけでなく減酒を目標にする治療の考え方もあります。